再び見えた光【前編・下】


「その通りよ。もっとも食の好みに限らず、わたくしは昔からなにかとこの国の中では異端の存在でしたから、もしかしたら『ヒトの輪の中に入れてもらえた』と感じた経験があまりないのかもしれません。この身分でなければ、迫害されていても不思議ではなかったでしょうね……」


 姫様は昔を振り返り、遠い目をします。

 

「人々の持つ排他性に鑑みれば、その可能性も否定は出来ません。貴女様は何年ものあいだ、孤独と戦っていらしたのですね」

 

 それは行き過ぎた妄想だと諭すようにBKFP002は言いました。

 

「いえ。孤独だったのは事実だけれど、戦うなんて格好良いものではなかったと思います。正面切って立ち向かっていく事は出来ていませんでしたから」


「そうでしたか」 

 

「でも、BKFP001に出会う前から、わたくしは人間であるという意識がとても希薄だったのは確かね。むしろ、アンドロイドのみんなに親近感をおぼえていたのかもしれません。劣った存在として下に見られているという点で同じだと。だから、あなたたちが必要以上に区別されている事が我慢出来なかったの。対応だけ見れば区別なのだとしても、はっきり言って意識自体は差別そのもので目に余ります」


 姫様は大きくひとつ深呼吸して、話を締めにかかりました。

 

「つまり、全部ただの私情というわけです。いえ、あるいは私怨と言うべきかもしれません。あれだけ偉そうな事を言ったくせにね。詳しく話しすぎてしまいました。ごめんなさいね。退屈だったでしょう? あなたの疑問は解決しましたか?」 

 

「はい。お仕えする貴女様がどういったお考えをお持ちの方なのか詳しく知る事が出来て良かったです。初対面の私に色々とお話ししてくださって、ありがとうございました」


 BKFP002は深々と頭を下げました。

 

「ここに来る前までは『彼がもういない』という事さえわかればいいと思っていましたが、BKFP001の後を継いでくださる方があなたでよかったわ。これからよろしくお願いしますね」


「身に余るお言葉です。こちらこそよろしくお願い申し上げます。……ところで姫様、ご用件というのは以上でお済みでしょうか? 通達とお願いについては、まだお伺いしていなかったと記憶していますが」


 BKFP002に指摘され、姫様は当初の目的を思い出しました。

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