再び見えた光【前編・中】
「……そうでしたか。申し訳ございません。余計な事を申し上げたようです」
「いいえ、謝らなくていいの。わたくしはそれが嬉しかったのですから」
「
BKFP002は姫様に問いかけます。
彼女は、想い人を失ったばかりとは思えない晴れやかな表情を見せました。
「彼が『恋心ゆえに』などという不純な動機からではなく、あくまで自分に与えられた役目の中で最高の仕事をしようとしてくれていた事が……。そういう
姫様は、BKFP001に出会うまで『仕事を終わらせるのは早ければ早いほど良い』、『業務時間外に仕事をするなど論外だ』という常識に染まっていました。
それまで信じてきたものを間違いだと切り捨てたわけではありませんが、出会った日に彼の話を聞いた事で、彼女の中のなにかが変わり始めたのです。
頑なだった彼女の心を動かしたのは、沢山いる周囲の人間ではなく一体のアンドロイドでした。
「だから、人間とアンドロイドの区別なんて必要ないと思ったの。ヒトとアンドロイドは違いがあるからこそ、相互作用……いえ、切磋琢磨出来る存在だとは考えられないかしら。わたくしが彼に影響を受けたように。わたくしのほうから彼に影響を与える事は…………出来なかったけれど」
姫様は過ぎし日を懐かしむように泣きそうな顔をしましたが、次の瞬間には元通りの強気で自身に満ちた表情に戻っていました。
「それに、人によって態度を変える人は嫌われるのに、ヒトとアンドロイドで態度を変えるのは普通だなんて、馬鹿馬鹿しい事このうえないもの。あなたたちは便利な道具などではなくて、ともに生きる仲間です」
「そうですか。貴女様は、あくまで共生を掲げるのですね。双方を異なる存在と理解しつつも、対応に差をつける事をせずに」
「ええ。他の方たちにも、アンドロイドのみんなに対して人間と同じように接してほしい……などといった強制はできません。それは個人の判断に委ねるべきであって、権力にものを言わせて無理矢理押し付けるべき事ではないもの。でも、アンドロイドと人間とで露骨に態度を変える人が少しでも減ってくれればいいと願ってしまっているというのも正直なところです」
「……それは、貴女様が最も恩義を感じている存在である前任者がアンドロイドだったから、でしょうか? 種族ごと認めさせてしまうのが一番の近道だと?」
BKFP002は、姫様の態度の根底にあるものが単純な感謝だけではない事を見抜いて言いました。
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