第50話 リーフ探し5

 目が覚めると顔を洗い、鍛冶屋を出る。

 結局のところ昨日は宿ではなく、鍛冶屋で一晩を明かした。

 シエラがルルに休む報告をして鍛冶屋に戻ってきたときにちょうど親父さんが帰ってきて、休むならうちに泊まっていきなという好意に甘えた結果だ。


「行ってきます」

「気ぃつけろよー」

「気ぃつけてくださいねぇ」


 手を振ると親父さんとシークが手を振り返してくれた。

 シークの目元に心なしか隈が出来ているのはシエラたちが神獣と旅をしていると知って、驚きで眠れなかったからだろうか。もしそうだったら申し訳ないことをしたかもしれない。


「……」

「大丈夫ですか?」


 隣を歩く、少し顔色の悪いカルロに声をかける。朝会ったときからずっとこの調子だ。


「いや、大丈夫だよ……」

「そうは見えませんけど」


 気疲れした表情を見せるカルロは軽く笑った。しかしやはりどう見ても大丈夫には見えない。


「いや、本当に大丈夫だから。ただちょっと疲れただけと言うか……」

「?」


 昨日シエラは前回と同じく空き部屋を借りた。

 カルロはシークの部屋に泊まったはずだが、なにかあったのだろうか。

 シエラが首を傾げていると、カルロは苦笑して口を開いた。


「実は昨日の夜、たまには三人で寝ようじゃねぇかって親父さんが部屋に押しかけてきてね。成人男性二人とシークの三人にはあの部屋は狭すぎたんだよ……」

「ああ、なるほど……」


 シークの部屋は特段狭いというわけではないが、それでもカルロたち三人で寝るには窮屈な広さだ。

 カルロは狭くてろくに休めなかったのだろう。


「いや、いろんな話ができて楽しくはあったんだけどね」


 一つの部屋で男三人で雑魚寝。話はさぞ盛り上がったのだろう。しかし狭さだけはどうも出来なかったか。


「まぁ、朝ごはん食べて元気だそう」

「そうですね」


 カルロの言葉に頷く。

 冒険にご飯は大事だ。もちろん睡眠も大事だが、空腹では魔獣との戦いもままならない。


 シエラたちは前回同様、大衆食堂に顔を出し、そこで朝食をとった。

 カルロは先程までの顔色の悪さはどこに行ったのやら、もりもりとたくさん食べていた。

 シエラたちは自分たちの分を食べ終わると店主に無理を言って肉料理を多めに作ってもらう。これは森で休んでいるルルの分だ。

 料理をパックに詰めてカバンに仕舞うと、店主に礼を言って店をあとにした。


「今日も張り切っていきましょう!」

「そうだね。がんばろう」


 リーフを四つ集め、残る三つを探してシエラたちはシクを出ると、森で待っているルルの元に向かった。


「ルルちゃーん!」

「待っていたぞ」


 匂いでわかったのか、ルルは上機嫌そうに飛んできた。そして食堂で用意してもらった肉料理を嬉々として食べていた。


「ふむ、これは味が濃いのだな」

「シクは味付けが濃い町なんだ」

「そうか。悪くない」


 店主にそこそこの量を作ってもらったつもりだったが、ルルは一瞬で平らげた。国に厄災が迫っていようとも相変わらずの食欲のようだ。


「ふぅ、腹も膨れたから次のリーフを探しに行くか」

「そうですね。お願いします」


 朝食を済ませたルルの背中に乗った。今日も今日とてルルの背中はもふもふだ。


「昨日シクでもまた一つリーフを見つけたそうだな」

「ああ、シークの家でね。小さい頃に川辺で拾ったものを大切に保管していたみたいだ」

「ううむ。やはり石の管理者はろくに管理をできずに、リーフはばらばらに散らばってしまっているのか」

「まぁ、何百年も前のリーフですからねぇ。石を管理していた方ももう亡くなっているでしょうし、ちゃんと子孫の方に受け継がれていなかったんでしょう」

「人の寿命は短いものだな」

「神獣や女神に比べられても……」


 神獣はゆうに何百年、何千年を生きると言われている。そんな神獣に比べたら人類など短命に決まっている。そもそも種族が違い過ぎて比較対象として考えるのもおかしなものだ。


「次のリーフの場所に当てはあるんですか?」

「ああ。昨日の晩に夕食を兼ねて魔獣狩りを行っていたら気配を感じた。次の行先はハビスカだ」

「ハビスカ⁉︎」


 シエラの問いに答えたルルの言葉に、シエラとカルロは声を合わせて驚いた。


「そうだが……なにか問題でもあるのか?」

「いや、そういうわけではないんですけど……」


 カルロにとってもシエラにとってもハビスカは馴染みのある街だ。まさかそんな身近なところにリーフがあったなんてと驚いてしまった。それはカルロも同じようで苦笑していた。


「さ、ちゃんと掴まっておくといい」

「わっ」


 朝食をとって元気一杯なルルは勢いよく空を飛ぶ。

 シエラたちは振り落とされないように必死にルルにしがみついた。

 シクの町とハビスカまでは歩いて一日かかる。しかし上空からならものの数分でついた。さすがはルルだ。


「我はまた隠れておく」

「はい」


 ルルはハビスカの手前でシエラたちを降ろすと、街の人に見つからないように少し離れた場所に身を隠すそうだ。

 いつものことなのでシエラも頷いた。


「この街も広い。我も頑張ってある程度の範囲に絞っておいた。おそらく街の西側の……なんと言えばいいんだ? あのおかしな店は」

「もしかして闇市のことかな」

「ああ、それだ。その闇市とやらのどこかにある」

「わかりました。行ってきますね」

「ああ、気をつけろ」


 ルルに見送られ、シエラたちはひさしぶりにハビスカの地を踏んだ。

 漂うイデカチキンの照り焼きの香り。シエラが何度も通った回復ポーションの売っているお店。

 何度も何度も見たその光景が、なんとも懐かしい。


「この街もひさしぶりだね」

「そうですね」


 隣を歩くカルロも感傷に浸っているようだ。やはりハビスカは思い入れのある街だ。


「まだ疫病も発生していないみたいでよかったです」

「そうだね。シクが大丈夫だったからここも大丈夫だろうとは思ってはいたけど、実際に変わりない姿を見ると安心するよ」


 シクと同じく、人手は少し減っている。しかし極端なまでには減っていなかった。

 この街にはまだ疫病についての情報がじゅうぶんに届いていないのかもしれない。


「さ、はやく闇市に行こう。みんなが疫病のことを知ってパニックになる前に厄災を解決しないと」

「わかりました。頑張りますよ!」


 カルロに案内されてハビスカの、比較的治安の悪い西側にある闇市に訪れる。

 シエラも施設を出るまでは知らなかったのだが、ハビスカにはこのような窃盗されたものや法で禁止されているものを売っている闇市なる店が構えられている場所があった。

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