第45話 言い伝え2

「思い出して。ほら、魔女が石をなんとかって話だよ」

「ああ、石? リーフのことかのぉ」

「そうだよ、それのこと! もう少し詳しく教えてくれない?」

「ううむ。あれは……ああ、そうだ。あれは何年前、いや何十年前のことだったか。先代よりこの地に住んでおったわしの祖父より大切なリーフを預かったんじゃ」


 アーじいさんは纏った雰囲気を急に変えると、すっと目を細めて語り出した。先程までのボケた雰囲気はもうない。


「これがまた綺麗な石でできたリーフ型のオブジェでの。細かな細工の施された綺麗な箱に大切そうに保管されておった。わしはそれを受け継ぎ、町に厄災来れりとき、その石を使えと耳にたこができるほど聞かされたわい」


 そう言ってアーじいさんは立ち上がった。ふらふらと家の奥に向かったと思うと、埃の被った木箱を持って戻ってきた。


「これじゃ。これがかつてベラーガに厄災が訪れたとされるときに、魔女が女神の力を借りて結界を張った際に使われたリーフじゃ」


 そう言ってアーじいさんはぱっぱと木箱表面に被った埃を払い除けると、慎重な手つきで蓋を開けた。


「わぁ」


 中には綺麗な黄金色の、リーフ型の石が入っていた。

 何十年も前からあるというのに、その石は濁ることなく綺麗な色を透き通らせていた。


「持っていけ。これが必要なんじゃろう」

「……うん。ありがとう」


 木箱を手に持って、まっすぐにカルロの瞳を見つめたアーじいさんはそう言ってカルロに木箱を託した。


「わしが聞いた話では、リーフは全部で七つあるとされている。励めよ、カルロ」

「わかった。ありがとう」

「ところでそっちの女子おなごはカートの奥さんだったか?」

「違う!」


 ボケることなく言い伝えとリーフを渡してくれたアーじいさんだったが、ころっと元の様子に戻ってしまったようで、首を傾げるとカルロに大声で否定されていた。


「ひとまずこれをルルに見せようか」

「ルルちゃんは神獣ですから、なにか知っているかもしれませんもんね」

「ああ、それに期待したいところだね」


 アーじいさんの家を出て、ベラーガの近くの森に向かう。

 カルロの手には大切そうに木箱が握られていた。


「ルル!」

「ルルちゃーん!」


 カルロとシエラが声を合わせて森に声をかけると、がさがさと音がなる。そして森の中からルルが姿を出した。


「シエラ、カルロ。無事だったか」

「ああ、オレたちは大丈夫だよ」

「それより聞きたいことがあるんです」


 近場の岩に腰掛け、ルルにリーフを見せる。


「これが今回の疫病問題を――厄災を鎮める手がかりになると思うんだ」

「ふむ、なるほど。なるほどなるほど」

「る、ルルちゃん?」


 リーフを見つめたルルが急に頷き始めた。コクコクと頷いてばかりで、なるほどとしか言葉を発さなくなった。


「ルル? 大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。悪い、この歳になると忘れっぽくなってしまうようだ。いやぁ、そうだな。これを使ったのは何百年も前のことだったか。随分と月日が流れたものだ」

「この歳? 使った?」


 ルルの口からいくつか気になる単語が漏れた。しかしルルはシエラの疑問に答えることはなく、口を開いた。


「シエラ、カルロ。おまえたちはこの石を七つ集めろ。厄災を鎮めたいならそうするしかない」


 いつもより真剣な剣幕でルルが言う。神獣ならなにか知っているかと思ったが、本当になにかしらの情報を持っていたようだ。

 これで厄災を収める方法はわかったも同じだろう。あとはルルが言う通りにリーフを集めなければならない。


「いいか、これは始まりに過ぎない。厄災はベラーガを始めとして伝染するように世界中に広まっていく。この国どころか、世界が闇に落ちるときがくる。それを防ぎたくばこの女神の加護を受けたリーフを集めて、再度結界を張り直す必要があるのだ」

「わかりました!」

「ひとまずリーフを集めればいいんだな」


 ルルの恐ろしい言葉に頷いた。

 ギルド組合が厄災ランクだと仮定したこの疫病問題は、実際に厄災だったのだ。それを鎮めるには、このリーフが必要だ。なんとしても集めなければならない。

 残りの六つのリーフがどこにあるのかわからないのが問題ではあるが、なんの手がかりもなかった頃に比べるとかなり進めた方だろう。


「ちなみにルルちゃんは残りのリーフがどこにあるかは知っていますか?」

「知らん。だが探すことはできる」

「できるのか⁉︎」


 想定外の言葉にシエラたちは驚いた。

 残りのリーフが現在どこにあるのかわからないのに、探すことができるとはどういう意味だろうか。

 神獣には不思議がいっぱいだ。


「言っただろう。我には神眼がある。それを使えば、こう……なんとなくわかる」

「説明が大雑把!」


 ルルの適当な説明に思わずつっこみを入れてしまった。

 いやだが、実際に神の力とかならば、それを人に理解できるように言葉にするのもなかなか難しいことだろう。

 とりあえず神獣ルルが規格外なことを思い出して、シエラたちはルルの背中に飛び乗った。


「空中から探して、ここだ! という雰囲気を纏った場所に降下する。あとのリーフ調達はシエラたちに任せるぞ」

「はい」

「任せてよ」


 ルルの言葉に頷く。

 ルーフ型の石を七つ集めれば、この厄災は鎮められる。そうしたら疫病に苦しむ人々を救えるし、疫病が王都まで侵攻する前に止められる。


 リーフがどれだけ高ランクの魔獣のいる場所でも、突っ込む覚悟はある。

 世界を救うなんて大層な志しがあるわけではないが、この世界に大切な人がいるのなら、その人たちを守るために多少の無茶だって喜んで引き受けよう。

 大切な人を守るために、シエラたちは空を飛んだ。

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