第35話 レストラン
波の音と、綺麗と話す人の声だけが響いていた。
テラス席で眼前に広がる月を反射させた湖を見つめる観光客と同じように、シエラもその光景に目を奪われ、思わず綺麗だとつぶやいた。
場所は東区にあるレストランで、時間は夕方をゆうに過ぎていた。夜の、店の照明と月明かりがシエラたちを照らしている。
観光客におすすめだという話なだけあって、どこも満席になっているテラス席の一角でシエラは注文した料理が届くまでの間、美しく水面に揺れる月に心を奪われていた。
このレストランはどの時間帯も観光客で賑わっているそうだが、夜はとくに人気らしい。その理由は聞かなくても、目の前の光景を見れば一目瞭然だ。こんなに綺麗な月の揺れる湖を見ながら食べる食事が美味しくないはずがない。
「お待たせいたしました」
少しかしこまった服装の店員に運ばれてきたのは白身魚をメインとした綺麗なソースがかかっている料理。色とりどりの野菜が主役の魚を盛り立てるように飾り付けられている。
「美味しそうですね」
「そうだね。さっそくいただこうか」
ナイフとフォークを持って白身魚を一口サイズに切ると口に運ぶ。
魚にかかったソースは果物を使っているのだろうか、ほんのりと酸っぱい。しかし口の中で解けた魚と混じり合って絶妙で繊細な味付けになっていた。
「綺麗な景色な中で美味しい料理をいただく……たまにはいいですね」
「冒険中の魔獣料理もいいけどね。やっぱりたまには贅沢もしてみるものさ」
普段は魔獣を退治してそれを調理しているので、こんなに贅沢な夕食は初めてだ。前のギルドにいたときですらこんなに贅沢な食事はしたことがない。
「今日は街中を散策できたし、それに屋台の料理も食べられた。いい日だね」
「私はそんなに食べてませんけどね」
カルロの言葉にシエラは苦笑する。
カルロは昼食後も何度か屋台に寄ってはなにかしら食べていた。それでもちゃんとレストランでの夕食も食べているのでやはり大食漢はすごい。
「今晩の宿はもう確保済みだからゆっくり食事を楽しめる」
「観光客が多いだけあって、大通りの宿は空きが少なかったですもんね。なんとか二部屋予約が取れてよかったです」
夕食前に今晩の宿の予約は済んでいる。これで心置きなくシエラたちは少し贅沢な夕食を満喫できた。
白身魚を使ったソテーに、貝類をふんだんに使用したパスタ。湖が近いだけあって新鮮な魚介類たちがシエラの腹と心を満たした。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
レストランで夕食をとり終わり、予約していた宿の部屋の前でカルロと別れるとシエラは瞼の裏に残ったレストランで見たあの光景を思い出しながら寝る準備を終えるとベッドに潜り込んだ。
土の香りではなく、水の香り。ハビスカとはまた違った街の魅力に、旅に出てよかったと心から思って眠りについた。
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