第14話 冒険飯!
「ありがとうございます」
「いや、オレたちは元よりこの猪の討伐をしにきていた者だから気にしなくていいよ」
イデカイノシシの討伐を終え、報告用に角を切り落として食べられる部位を漁っていると商人たちが声をかけてきた。
「でもあなたたちがきてくれなかったら私たちは商品を失うばかりかあの猪の腹に収まっていたことでしょう」
そう言って商人は手を差し出した。思わず受け取ってしまったそれは大小様々な形をした綺麗な石だった。
「これは?」
「せめてものお礼に、と思いまして。先程の騒ぎで地面に転がってしまい、表面に多少の傷ができてしまいましたがそれでも高く売れるでしょう。物はいいですから」
「いや、べつにオレたちは金に困っているわけでは」
「いいのです、いいのです。遠慮なく受け取ってくださいな」
「は、はぁ」
商人は返品は断固拒否と言わんばかりの力でシエラに宝石を握らせた。
シエラもカルロもそこまでお金に困っているわけではないのだが、商人の圧に負けて頷いてしまった。
奥で荷台を立て直している何十人の商人たちも異論はないようでみんなシエラたちに笑顔を向けていた。
「これでは遠慮する方が無粋だな」
「そう、ですね。ありがたくいただいておきましょう」
シエラはカルロと顔を見合わせると、カバンに宝石を詰め込んだ。
商人の中には怪我をした者もいるものの、軽症らしくそのままハビスカに向かうらしい。荷台は馬車に引かれているので街に着くのにそう時間はかからないだろう。シエラたちは商人の後ろ姿を見送り、先に進む。
「もう少し先に行ったところに大きな岩がある。そこで昼食としようか」
「はい」
何度かこの道を通ったことのあるカルロの提案を肯定し、カルロのいう場所まで歩いていく。
「ここだよ」
「ちょうどいいですね。この岩とか椅子じゃないですか」
「そう見えるよね」
草木の生える道を進んでいると大きな岩がある場所に出た。その岩はちょうど椅子のような形をしており、腰掛けることができそうだ。
足元も岩盤になっているのでここで焚き火を起こしても草木に火が燃え移ることはないだろう。
「じゃあさっそく……」
「イデカイノシシで料理を作りましょうか!」
イデカイノシシをステーキにするのはもちろん、油を多めに用意して粉をまぶして揚げてみる。
じゅうじゅうといい匂いを漂わせながらイデカイノシシの唐揚げができていく。
イデカイノシシのステーキに唐揚げ。前回と違って調味料は充実しているが、今回は一体しか倒していないので肉の数は少ないのでそうたくさんの品数は作れないのが残念だ。
「照り焼きとかできそうかな……?」
「そうですね……数は少ないですけど、いちおう作れそうです」
朝の照り焼きの味が忘れられないのかカルロが尋ねてきた。
シエラは肉の量を見て考えるとそう答えた。
「そうか!」
シエラの前向きな返事にカルロは嬉しそうに顔を明るくさせた。
「あっ」
「どうした?」
イデカイノシシの照り焼きを作りながら不意に声を上げたシエラにカルロは首を傾げた。
「いや、なんで商人さんたちが宝石を渡してきたんだろうと思ってたんですけど……もしかして私たちがイデカイノシシを昼食にするって言ってたからですかね?」
「……ああ、昼食を買う金がないと思われてしまったのか」
商人の行動の意味をやっと理解して苦笑する。
魔獣を食べることはなにもおかしなことではない。しかしそれは基本的に狩りを生業としている冒険者がとってきたものを加工して店で売ったり料理に使ったりするのだ。
冒険者でも自分で狩りをする人と店で買う人がいて、お金がないからといって自分で狩りをしている冒険者もいるにはいる。お金を持った冒険者は下処理などをめんどくさがって店で買うことが多いのだ。
だからだろうか、商人たちは店で買うほどシエラたちは金がないと誤った判断してしまったのかもしれない。
一通り調理が終わると岩に腰掛ける。高さもちょうどいい。まさしく天然素材でできた椅子だ。
シエラが料理している間にカルロが近場から持ってきた岩をテーブルのようにして、そこにたくさんの調理されたイデカイノシシが並べた。
目の前に並ぶおいしそうな品々は、これがあの大きくて凶暴な牙を持つ猪の肉だとは思えない姿になっていた。
「じゃあ」
「いただきます!」
一口、ステーキに口をつける。口内でジューシーな肉汁が広がり、前回と違って胡椒も使っているので少しぴりりとする味付けがたまらない。
「唐揚げもいいな」
「ほうでふね」
熱々の唐揚げを頬張りながらシエラは頷いた。
ちゃんと下味をつけておいたのでしっかり味がするし、それに肉が柔らかいので普通の鳥の唐揚げよりもおいしいかもしれない。
最後はイデカイノシシの照り焼きだ。
朝食に食べたイデカチキンの照り焼きの味を再現できる気はしないが、カルロの希望だったのでいちおう作ってみた。
さて、どんな味になっているのだろうか。
「ん」
「甘い、ですね」
どうやら砂糖を入れすぎたようだ。甘い照り焼きになっていた。しかし、
「これはこれでいいな」
「そうですね」
カルロと頷き合う。
イデカチキンより柔らかく、味がしっかりと染み込んでいておいしい。我ながら初めてにしては上手に作れた気がする。
「うまいな」
いや、上手に作れたようだ。
幸せそうな顔でシエラの作った料理を口に運ぶカルロの顔をみればわかる。
パンがあれば、と少し心残りに思いながら食事を終えるとまた移動を開始した。
カルロの行きたい町には一日かかるそうだ。夜の冒険は危険なので一度どこかで野宿しなければならない。
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