男と女

どうも!どこの誰か知らないけど

この本を読んでくれてありがとう!!


シュシュッ、スピード感のある音

鮮やかな赤色が広がる、五月蝿い小さい物体

壊れたオモチャのように奇声を発している

手首から流れる血のせいか視界が虹色で

真っ暗にしたはずの室内が

眩しくてしょうがない、だんだんとボーッと

頭が動かなくなって気分が良くなっていると

おぎゃーぎゃー、また私の世界に

土足で入ってきた。音を頼りに侵入者を

追い出さないとと思い、その原因を探し出す。

もう立つこともできない地面を這うように

歩いていく、見つけた

おぎゃーと醜い奇声を発する塊が

手の中に収まる、

あはははははは

もう、おかしくて

笑いが溢れる、力いっぱい塊に圧力を加える

粘土みたいだなー

我が子の命を奪った感想はそれだけだ。

おっとと、本格的にまずい

視界が真っ暗だ、

重力の向きが分からなくなってきた。

起きたら見慣れた真っ白な天井だろう、

あーまたお説教されるのかな、嫌だなー

また目が覚めると疑わずに眠りにつく。

ふぁー、あくびが出るほど寝ていたのは

いつぶりだったか、予想通りの真っ白な

景色が広がっていた、目覚めて四肢の

動作確認をしていると、重力が体全体ではなく

頭頂部にかかっている感覚を覚えた

周りを見る、全ての方向が

真っ白な霧に囲まれている

今の状態を把握できない、

自分が寝転がっているのか、立っているのか

手足も見えないほど濃い霧のせいで

深海で溺れているような恐怖を抱いた

しばらくもがいたが、

諦め半分落ち着きを取り戻した。

だが、それも数分程度

時間の感覚は分からないが

おそらく30分は暴れていた。

やっとの思いで落ち着きを取り戻したが

今度は周りから人に見られている

感覚が芽生えて、さらに恐怖の気持ちが

心の栓から滲み出てくる。

今度こそ気が狂うほど叫んでいた。

うるっせえな、このババア

狭い部屋で反響したみたいに

何度も同じセリフが、私の耳に届いた。

怒りの数秒前の困惑が通り過ぎて、

怒りが湧き上がってきた、

そうしてくると、

目の前の霧が瞬きの間にすぎて

ギラギラという言葉が合う明るい室内が

ほとんど俯いた目の隙間から影として見える。

背中に手足に固い感覚が伝わる、

さっきの間にイスに座っていたみたい。

「当館にお越しいただき

 ありがとうございます。」

部屋の中を透き通る声で男が続ける。

「今回は本の貸し出しでよろしいですか?」

あばっが、醜い、空気の漏れる音しか出ない

声が上手く出せずに、諦めて

頷くことで返事をした。

「ではこちらはどうですか、

 漫画で分かる宗教の成り立ち。」

あー、あ抗議の声を上げ、睨もうとするが

男の胸から上を見ると光で目が焼けるように

熱く、ハエのような甲高い悲鳴を上げて

下を俯く、

その様子をアリの列が虫を運ぶ

様子を眺めている様に

その男は見ている気がする。

男の影が揺らぐ、カチッとコップの音がする。

お茶を入れているらしい、

動きを写す影が、いちいちまどろっこしい

男の動きが目に入り苛立ちを強くする。

男が話し出す、

「1人で生まれたばかりの子供を育てるのは

 大変でしょう、あなたは真面目すぎたんだ

 もっと人に頼れば大切な我が子を

 殺すことはなかった。」

うるさい説教だ、でも体の自由が効かない

今の自分には黙って聞く以外出来ることがない

「今までお疲れ様でした、

 これからは自分のために生きてみては?」

この男は私を心配しているのか?

今まで人の説教は癇癪を

起こして聞いてこなかったが、

初めて心配された、もしも、もし

今までの説教も私が最後まで聞いていたら

私の味方になってくれたのかな。

少しの希望と後悔が胸をさらに締めつける

男はそんな私の様子を見てか、

自らの誤解を紐解いていく

「これは本で得た知識ですが、

 あなたは精神を病んでいる、その場合

 長い文章の読解が苦痛だと見たものですから

 漫画の方が分かりやすいかと思いましてね」

部屋中にいい匂いが広がる、

何かの花の匂いだろう。

『ラベンダーティー高野聖を添えて』

男が告げる、今までで1番強く

勇気づける様な声で、私を送り出す。

目を覚ます、緑色だ。

寝っ転がっている様だ、

樹木の生き生きとした葉が

太陽の光を借りて私の視界に映る。

体を起こすのも億劫だが、動かしてみると

体が痛くない、怪我がなくなっていた。

草のカーペットが心地いい、

余裕が生まれてきた。

枕元には白い陶器の中に湯気をあげる

濁った液体が入っている。

そして高野聖という本。

ペラペラとページを最後までめくる。

そして背面のあらすじだけを読む、

それだけの文章を読むのに、 

何時間もかかったが隅から

隅まで読むことができた。

カップの中身も無くなり、最初の白紙に戻る

そして物語の終わりをここに書く、

私の遺書だ。

背面を表側に置き本を畳んだ。

近場の木に程よく真新しい縄がかかっている。

一歩一歩と踏みしめて進む。

遺書の始まりはきっとこうだろう、

どうも!どこの誰か知らないけど

この本を読んでくれてありがとう!!

この物語はこれで終わる。










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