最強の女傑の異世界旅

カイン・フォーター

第1話 始まりの産声

とある国の、ある町の近くにある小さな農村。

特段珍しいモノもなく、特産品もないありきたりな村。

そんな村に、一組の男女がやって来た。


どうやら村に移住したいらしく、二人は夫婦で子供も身籠っているそうな。

話を聞く限り、少し前まで冒険者をやっていたらしく、今もその頃の装備をいくつか持っているらしい。

徴兵で若者が減り、働き手が減少していたこの村では力のある元冒険者が移住してくるのはありがたい話だ。


村人達はこの夫婦を快く受け入れ、あっという間に村に馴染んだ。

男女共に元冒険者ということで村人の誰よりも強く、身重な体であるにも関わらず、女は村の男衆よりも良く働いた。

その事を村の男衆がイジられるのが定番になり始めた頃――


「おい!産まれたぞー!!」


容態が急変した女は、村の女達に見守られながら可愛らしい女の子を出産した。

以来、女は家事に専念するようになり、力仕事をする機会はめっきり減った。


……その事に対し、村の男衆は心底安心したのは言うまでも無い。


村では出産を祝う宴が開かれ、焚き火を囲んで夜更けまでどんちゃん騒ぎ。

宴に合わせて夫が街まで酒を買いに行っていた事もあり、宴は村の歴史の中でも類を見ないほど盛り上がったそうな。


盛大なお祝いを受け、村人から大層歓迎された出産。

女の子は両親だけでなく村人からもたっぷり愛情を注がれてすくすくと育ち、同い年の赤子と見比べても、本当に同い年かと疑うなほど立派に育った。


そんな女の子だが、母親に似たのかとても力が強く、父親からは喧嘩っ早い性格が似た。

年上の男の子にも勝つほど強く、両親が元冒険者ということもあって力の扱いについてしっかりとした教育を受けている。

悪い事にはその力を使わず、人の為に力を使い続けた。


『将来立派な女冒険者になる』


一言も本人も両親もそう言っていないにも関わらず、両親含め村ではそんな共通認識があった。

そして、その認識は正しいものになった。


「私、冒険者になりたい!」


ある日突然そんのことを言い出し、森で拾ってきたいい感じの木の枝を構えて父親に襲いかかったのだ。

いくら女の子が生まれ強かったとしても、元冒険者とまだまだ尻の青い女の子ではその差は歴然。

容易くいなされ、さんざん弄ばれて疲れ果てるまで振り回された。

当然その日は不貞腐れて寝てしまったが、それからも何度も女の子は父親に挑み続けた。


「えーい!」

「ハッハッハッ!それじゃあ野ウサギにも当たらないぞ〜?」


技を知らない稚拙な振り方で父親に挑み続ける姿はとても微笑ましく、通りかかった村人達も温かい目でその様子を見守った。

しかし、その温かい目は時の流れと共に関心の目に変わっていった。


それは、女の子が7歳になった年の秋の話。


「セイッ!!」

「おっ!?」


沢山の村人が見守る中、なんと父親に一太刀当ててみせたのだ。

方や10年以上冒険者を続けた元ベテラン冒険者。

方や弱冠7歳の女の子。

手加減をしていようとも、わざと当たりでもしない限り当たるはずがない攻撃を、女の子は当ててみせた。


これには村中が驚愕し、立派な女冒険者になるという未来がより現実味を帯びてきた。

父親はこの日を境に本格的に女の子に戦いを教えるようになり、母親も魔力を扱う技術を教えることにした。

体の使い方、力の使い方、武器の使い方、魔力の使い方を学んだ女の子は、その成長が加速。

9歳になる頃には、村に両親以外に自分よりも強い存在が居なくなっていた。


両親は村人たちとの日常会話でいつも娘を自慢し、『いずれ世界に名を轟かせる女傑になる』と風聴して回った。

そんな期待に応えるかのように女の子は強くなり、そして大きくなった……

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