レオ

緋色

第1話

 この世界に生を受けて、3年の時を経た。

 この絵本が好き。この食べ物が好き。この場所が好き。母が好き。そんな事を思うようになってから、ふとした時に気づいたことがある。


 自分には、何故かは分からないが、地球という世界で、日本人として天寿を全うした記憶がある、と。


 と言っても、まるで成人が幼少の頃の記憶を掘り起こしたかのような、曖昧かつ妙に客観的な記憶でしかない。そのため、


「レオ? どうしたの、ぼーっとして」

「ううん」


 自分が『レオ』であることに変わりはなかった。

 でも……。

 3歳児に似つかわしくない、酷く遠い目をして思う。


 小さな、ほんの些細な感情が胸をざわつかせる。


 大きな不幸があったわけでもない、この記憶。

 大きな困難に直面したわけではない、前の一生。

 それでも思うことがあった。


 あの頃、本気で生きていれば。

 あの時、素直になれていれば。

 あの瞬間、折れずに立ち向かっていれば。


 あの日に……戻れたら。


 もっといい人生にしてみせた。

 もっと自分を好きになれた。

 もっと誇れるものがあった。


 思わずにはいられない、小さな小さな後悔。


「んもう、どうしたの? レオ」

「ううん。ママ、大好き」


 なんだか、この記憶を無駄にしてはいけない。

 未発達な心で、朧気ながらにそう感じたのだった。

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