第26話 獣神ケルヌノス

 私がある名前を伝えると、私は悪者ではないと安心してくれたようで、一緒に怪我をした獣人の介抱をする。


「もう大丈夫。アイツ等は処分したのと、私の仲間にポーションを買いに走らせたからね」

「はぁ、はぁ、ありがとうございます。それと、どうしてアナタが獣神ケルヌノス様の名をご存知なのですか?劣等種と呼ばれる獣人族の神を知るヒューマンが居るはずがない……」

「話せば長くなるけど、私は獣人を劣等種なんて思ってないし、獣神ケルヌノス様は私にとっても大事な神とだけ教えておくね」


 私の言葉を聞いた母獣人は安心したのか、『フッ』と笑みを浮かべた後に、私の腕の中で眠りについたのだった。心配そうに母獣人を見つめる娘獣人に、私は優しく声をかけて安心させる。


「大丈夫だよ。直ぐにポーションが届いて治療するからね」

「う、うん、お姉さんありがとう」

「どういたしまして。私はハルカ、2人の名前を聞いてもいいかな?」

「私はレオナ。ママはアロナだよ」

「いい名前だね。あっ、帰ってきたね」


 名前を聞き終えたところで、トラパーネがポーションを手に戻ってきた。


 アロナは眠っているので、私はポーションを口に含んでから口づけをするようにポーションを流し込んだ。


『ゴクッ』


 アロナが一口飲み込むと、薄っすらと目を開けたので、私は自分でポーションを飲めるのかを確認する。


「自分で飲めそう?」


 首を横に振ったので、私はポーションを口に含んでもう1度飲ませてあげた。


『ゴク、ゴクッ』


 先程より勢いよく飲むと少し痛みが和らいだようで、自分の手でポーションの瓶を持って飲む事ができた。これで怪我は大丈夫だと思ったので、事の成り行きを聞く事にした。


「何故、こんな事になってたの?」

「先ずは、助けて頂きありがとうございます。何故との質問ですが、劣等種と言われる獣人は男は労働力に、女は慰め物として扱われるから……」


 その言葉を聞いてからエリカの方を向くと、『コクリ』と頷いてから口を開いた。


「種族の特性で、獣人はヒューマンより知能が低いと言われてるんだ。ヒューマンはその事で獣人を劣等種扱いしてるんだよ。でも、獣人は身体能力が優れてるからさ、あたいは劣ってると思った事はないけどね」

「上流階級と呼ばれる政を担う者の考えです。王立学園の授業でもそのように教えるので、その考えが完全に根付いてますね」


 エリカの言葉の後に、アネロがこの世界の不平等な闇の部分を教えてくれた。私は最弱種のスライム出身だから種族への偏見はない。


 そして、この世界へ転生させてくれた獣神ケルヌノス様の為にも、不遇な獣人達をなんとか救いたいと思ったので、この場に居た3人に声をかけて確認する。


「先ずは、このスラム街に居る全ての獣人達を救って、ファミリアで安心して暮らしてもらおうと思うんだけど、これに反対する者は居る?」

「ハルカ様の考えに従わない者は、ファミリアには誰一人居ませんよ」

「「その通り」」


 反対する者が居なかったので、私はグローニャのスラム街に居る全ての獣人を解放して、ファミリアへ迎える事にしたのだった。

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