第38話 ゲームショップにて
「最後に寄る店がこんなとこで良かったの?」
「うん」
逆ナンパ事件の後、僕と黒木さんは街の中を見て回っていた。
目的だった和カフェの情報収集も終わったので、そのまま帰る流れでも良かったのだがまだ日は高くお互いに時間もあったので、せっかく街に来たのだからと色々なお店が並ぶアーケード街を散歩していた。
そんな中で最後に来たのが。
「一度来てみたかったんだ……。ゲームショップ」
そう、黒木さんの希望で帰る前に最後に足を踏み入れたのが、僕も世話になったことのあるゲームショップだった。
大通り沿いにあるビルの3階。そのエリアが一つのゲームショップとなっていて店内は広く、この辺りでは一二を争う品揃えの良さが自慢のお店だ。
僕は高校に上がってからはパソコンでゲームをやる機会が増えて、買うとしてもダウンロード版が殆どだったからこうして来るのは久しぶりである。
「でもまさか、黒木さんがゲームに興味を持ってたとは知らなかったな」
ここに来るまでの間に、カジュアルな服が並ぶ店に本屋とか黒木さんの好みや一般的な店を見て回っていたのに、いきなりの変化球。
もしかして、ゲームが好きな僕に気を遣ってここを選んでくれたのだろうか。
「要くんが好きって聞いたから、私もやってみたいなって」
「えっ、僕がやってるから?」
「うん」
特に深い意味はないと思うけど、僕が理由で黒木さんも興味を持ってくれていたらしい。
「要くんはどんなゲームで遊ぶの?」
「僕はオンラインゲームかな」
「オンラインって、世界中の人と遊ぶの?」
「そうそう。僕が今やってるのはMMO RPGって言ってね。オープンワールドの仮想世界で、他のプレイヤーとパーティを組んで出てくるモンスターを倒したり、ダンジョンって呼ばれる迷宮を探索して攻略したりして遊ぶんだ。それだけ遊べるのに、基本プレイは無料でねゲームソフトもいらなくてパソコンだけじゃなくてスマホとかでも遊べる優れものなんだよ。気軽に始められるから、ゲーム初心者の人にもおすすめで」
「…………」
「あっ」
――と、言ってみたはいいものの、ついペラペラと喋りすぎてしまったかな。
僕の話をじっと黙って聞いてくれた黒木さんを見て思う。
興味のあるものだと話すのに夢中になってしまうのは僕の悪い癖だ。引かれたりしてなければいいけれど。
「初心者にも……そっか。なら私も、始めてみようかな……」
「えっ、黒木さんが?」
「うん。私が始めたら……要くんは、嬉しい?」
頬を赤くして黒木さんは恥ずかしそうに聞く。
「もちろんだよ! 僕がやってるゲームを周りで遊んでるのバイト先の店長くらいでさ。結構前からあって人気もあるのに、新太もやってくれないし。友達に同じゲームのプレイヤーが増えるのは嬉しいよ!」
それが黒木さんなら尚更だ。
別に友達が少ないから遊ぶ人がいないって訳じゃないぞ。……たぶん。
「三谷くんは、ゲームしないんだ」
「そうだね。あいつとは幼馴染だけど、部活ばっかで全然やらないみたいなんだ」
ようやく新太も黒木さんに名前を覚えてもらえたようだ。
「もし黒木さんが始めるなら、僕が教えるよ。迷惑じゃなければ」
「! 迷惑なんてこと……ないよ」
「そう? それなら良かった」
「うん。……じゃあ、やってみようかな」
黒木さんも結構乗り気なのか、本当に始めてくれそうだ。
いい子だよな。
他人の興味があるものを知ろうと思って行動するなんて普通ならめんどくさがってしないだろうに。
それだけ黒木さんは優しいということなのだろう。
「でも、お店にもせっかく来たから……。もう少し見ていきたい、かな」
「それもそうだね。この店なら、オンラインゲームの情報誌とかも取り扱ってると思うよ」
黒木さんの言う通り、わざわざビルの中に入ったのにすぐに出るのは勿体無い。
それに、情報誌くらいならそこまで高くもないし多少は僕が口出ししても問題ないよな。
そういった配慮をしながら、ゲーム誌が並ぶコーナーへと移動する。
「要くんが遊んでるゲーム……ってなんていうの?」
「えっとね、『ブレイズワールド』っていうんだけど」
「ぶれいず……わーるど」
そういえば、最近ブレイズワールドの特集本が出たんだよな。いきなりゲームをするよりも、まずはそういう物から手をつけるのも悪くないだろう。
思い出すな。子供の頃はゲームショップでソフトを買って家に着くまでの間、車の中で説明書をずっと読んでたっけ。
ゲームを始めたばかりの事を思い出しながら、黒木さんの横で僕も同じゲームタイトルの雑誌を探す。
「……あっ、これかな」
と、隣で黒木さんが言ったので僕もそれを横目で見た瞬間。
「あっ! ごめんなさい」
黒木さんの伸ばした手が反対から伸びた誰かの手とぶつかる。
「いえ、こちらこそすみません」
互いに手を引っ込めたところで、相手を見て仰天する。
『えっ!』
僕と黒木さんの声が重なった。
引っ込められた手から窺える色白くて美しい肌。背が高くスタイルの良い女性の切れ長の瞳に僕たちは映る。
「ん? 要くん。それに……黒木さんもですか?」
そう僕と黒木さんの名前を口にしたのは。
「ひ、柊澤先輩⁉︎」
「会長⁉︎」
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