第36話 非力な僕
声に振り向くと、ギャル達二人を強く睨む黒木さんの姿があった。
「えっ、誰」
「急になに?」
二人は突然現れた黒木さんに対し困惑の声を漏らす。
そんな事はお構いなしに、黒木さんは僕たちの間に割って入った。
「黒木さん……」
「要くん、もう大丈夫だからね」
目の前の彼女の小さな背中は、見た目以上に頼もしい威圧感を放っていた。
「……ねぇ、あなた何? アタシら彼に用があるんだけど」
「私も……、彼に用があります」
「用って、もしかしてこの子の彼女とか」
「えっ、彼は違うって言ってなかった?」
「私は……、彼の友達です。ですから、離れてください」
どこから見られていたのかは分からないが、黒木さんは今の状況についてある程度理解しているようだった。
でもまさか、こうして助けられる事になるとは。うれしい反面、自身の不甲斐なさに胸が締め付けられる。
「はあ? 何言ってんの突然割り込んで来て。彼女でもないなら出しゃばんないでくれる?」
「そうよ。友達くらいで良い気にならない方が身の為だよ」
だが、二人は黒木さんの登場にも屈せず、黒木さんへ敵意のある発言をした。
「嫌です。要くんだって、困って……います。迷惑です」
「はあ、アタシらからしたらこっちが迷惑なんだけど。別に悪い事してるわけじゃないんだし」
先程までと違い高圧的な態度を見せる二人。
だが、黒木さんは怯む事なく依然として僕の前に立ち続けてくれている。
「あんたも高校生くらいでしょ? あんま調子に乗らない方がいいよ」
「別に、調子にとかは……」
「いいからどいて。じゃーま」
「どかない、です」
ギャル達はこの場を離れるどころか、逆にこちらへと距離を詰めてきた。
これ、ちょっとやばくないか。
周囲を歩く人たちも、こちらの様子は見るものの萎縮してすぐに目を離してしまう。
「てか声がちっちぇーんだよ! いいからどけよ!」
「どっ、どきません! 帰ってください」
僕に声をかけてきた言葉が嘘のように、急に荒い言葉を黒木さんへとぶつける。今にも掴み掛かりそうな勢いで。
それでも黒木さんは臆する事なくその言葉を否定した。
「……ちっ。 邪魔なのはお前だっつの!」
「きゃっ!」
「!」
そんな中、僕の腕をさっきまで掴んでいたギャルが黒木さんの肩を押して突き飛ばした。
「黒木さん⁉︎」
背後に居た僕は咄嗟に彼女を受け止める。
なんとか黒木さんが足を崩して後ろに倒れかけたところを支える事ができた。
「か、要くん……」
黒木さんの瞳が僕の顔を捉える。
僕が後ろにいて良かった。もしなにも支えるものが無ければ、黒木さんは怪我をしていたかもしれない。
「……!」
黒木さん、怯えてる。
彼女を支えている手からその震えが伝わってきた。
そこでようやく、彼女が無理をしている事に気が付いた。
それもそうだ。いくら女性同士とはいえ、ついこの前の柊澤先輩との言い合いの時とは訳が違う。
こんな見た目の二人だ。酷い目に遭う可能性もゼロとは言い切れない。
どんな人達とつるんでいるのかも分からない年上のギャル二人に黒木さんは立ち向かってくれていたのだ。
……僕のために。
「ちょ、ちょっと、何やってんのよ!」
「だって、あいつが邪魔するからじゃん!」
「でもさすがに今のは……」
目の前の二人もこんな事になるとは思っていなかったらしく、予想外の出来事に驚いていた。
「要くん……。大丈夫、だよ。私が要くんの事、守るから……」
黒木さんはそう言ってくれたけど、身体はまだ震えたまま。声だって弱々しい。
なのに僕のためにもう一度立ち上がろうとしてくれている。
どうしてそこまでして僕の事を……。
このままでいいのか? いや、良いわけ無いだろ。
こんな彼女の姿を見て、男の僕が何もしないだなんて、できるはずがない。
僕は黒木さんを安心させるように、笑顔で答えた。
「ごめん黒木さん。無理、させちゃったよね」
「えっ」
「大丈夫、ここからは僕がなんとかするから」
「要くん……でも」
僕は、黒木さんの両肩を支えながら、目の前の二人に視線を移す。
「!」
そんな僕の目を見て、二人とも肩をビクッと揺らした。
いくら気に食わない事だったとしても、手を挙げるなんて間違っている。
ましてや、その後の事を何も考えずに自分勝手な行為に及んだこの二人に僕は頭にきていた。
でも、一番ムカついたのは結局自分にだ。
僕が非力なせいで黒木さんを危ない目に遭わせてしまった。それが許せない。
……だから、これからするのは半分八つ当たりだ。
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