第31話 二人の感謝
「さっきの……」
「へ?」
互いの沈黙を
「……参考になるかも」
「さっきのって、カップル割の事?」
こくりと頷き彼女は答えた。
「確かに他のクラスの喫茶店との差別化にもなりそうなアイディアだし、いいかもね」
黒木さんが言うように、校内の生徒を始め外来からのお客さんの中にはきっと彼氏彼女で来店する人もいるかもしれない。
それなら、その提案もありだと思う。
「取り入れても、大丈夫かな?」
「メニューに関することは後からでも間に合うし、またクラスで話し合う時にでも提案してみようか」
「……! うん!」
同意を得られて嬉しかったのか、黒木さんの声が少し大きくなった。
やっぱり女の子だから、そう言う事に関心があるのだろうか。
勝手に黒木さんのクールな印象ばかりに気を取られていたが、彼女についてはまだまだ知らない事は沢山ありそうだ。
「黒木さん……。なんだか楽しそうだね」
「えっ」
と、また声に出てしまった。
「最初の話し合いでもそうだったけど、何か意見言ってる時の黒木さん、楽しそうだなって思って」
クラスで黒板に出し物の案を書き出してくれていた時も、僕はそう感じた。
「うん……。でもそれは、
「僕?」
「そう。たぶん他の人とだったら、こんな風に文化祭の準備が順調にできたかも……分からなかった」
「そんな、大袈裟だよ」
彼女は僕の言葉を否定するように首を振った。
「要くんが文化祭の実行委員を一緒に引き受けてくれて、良かった」
「……!」
時折見せられる黒木さんの柔らかな表情。自然と僕の心も穏やかになる。
「それなら、僕も一緒かな」
「要くん……も?」
「うん。僕は普段から周りと一緒に楽しくやるって感じじゃないからさ、こんな僕を友達として黒木さんが受け入れてくれて、同じ実行委員として頼ってくれるのは嬉しい」
少なくとも、他の女子が相手なら休みの日を削ってまで僕と一緒に出掛けようって事になるとは思えない。
「だから頑張ろうって思えるし、僕の方こそ黒木さんと一緒に実行委員になれて良かったと思ってるよ」
「私、だって……」
僕の言葉を聞いて、黒木さんが前のめりになる。
まるでお互いに向けての感謝の応酬だ。
「要くんが友達になってくれた事、すごく……嬉しい。私の方こそ受け入れてくれて……ありがとう」
恥ずかしくなったのか、だんだんと彼女の声は小さくなり上げた腰も再び椅子へと落ち着かせていった。
けれど、黒木さんの言葉は全てちゃんと僕の耳に届いた。
「ね、ねぇ要くん」
「うん?」
その後も黒木さんは何かを言いたそうにもじもじとする。
僕はその言葉を待った。
「さっきの話じゃないけど……。文化祭って……、カップルが増えるん……だって」
そ、それを聞かされて僕はどう答えるのが正解なんだ。
「へ、へぇ。そうなんだ」
なんて、当たり障りのない事でしか今は答えられなかった。
でも、もしかしたら黒木さんの事だから、それも狙ってカップル割の起用を提案したのかもしれない。
「うん……。
って、情報源は高森先生だったのか。あの先生……、一体なぜそんな情報を教えたのだろう。
「ま、まぁ。一緒に回る異性の相手がいたらもっと楽しいんだろうね」
客観から見れば、今回のような学校イベントはまさに青春の一ページとでもいうのだろう。
去年までなら、自分は無関係だとそう思っていた。
それなのに、文化祭の当日。黒木さんの隣に僕がいれたらと、そんな想像までしてしまっている。
今でさえ、こんなに楽しい気持ちでいっぱいなのに、これ以上の事を望むのは欲張りだろうか。
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