第4話 学校生活の変化
教室が近づくにつれ、賑やかな声が聞こえて来る。
通り過ぎる教室からの声や廊下での話し声。
うちの高校は校則も緩く、それに伴う賑やかな校風がこの学校の良いところでもある。
まぁ、僕はどちらかと言うとその雰囲気の中では珍しい
それにしても、いつも明るくて賑やかなのは当たり前なんだけど普段の光景とは一段と違うように見える。
正直うるさいくらいだ。
「今日はいつにも増して賑やかだね」
「だから文化祭があるんだってば」
隣を歩く
そうか、様々な部活が休みなのに対して文化祭の準備も始まるわけか。
僕たちのクラスも実行委員とか決めたようなそうでないような。誰が務めるんだったかな?
「おっと……」
そんな時、自分たちの教室に足を踏み入れると、すれ違いざまに誰かが出て来た。
僕はぶつからないように反対側に避けて空間を作る。
目の端で捉えたその人物は黒髪のポニーテールをしていた女子生徒だった。
「あ、
「うん、おはよう」
僕の横をスッと通った女子生徒に挨拶を返すと、うるさかった教室が一瞬にして静まり返った。
……あれ?
そういえば僕ってクラスで挨拶を交わすような女子生徒なんていたかな。
ましてや新太以外の人から挨拶をされるなんていつぶりだろうか。
「ん?」
足を進めると、何やら視線を感じた。
教室内を見渡すとクラス中の皆が僕の方を見て驚いた顔をしている。
何だろう……。何かあったのかな?
「し、しししし、
「うわっ!」
今度は突然、一緒に歩いていた新太が僕の肩を勢いよく掴んできた。
そして、ガクガクと僕の身体を前後へと揺らす。
「ま、まって新太。……落ち、落ち着いて」
朝からこんなにも負担のかかる衝撃的な揺れは身体によくない。気分が悪くなるからやめて欲しい。
「な、何だよ急に……」
一瞬意識が飛びそうになったが、なんとか堪えて事の真意を新太へと問う。
何をそんなに焦っているのか僕には分からなかった。
「お、おおお前さっ!」
「だから何? どうしたの」
僕は早く用件を言うように伝えた。
一体何があったというのだ。何だかクラスの様子もおかしい。
慌ただしいというか、ざわざわとした話し声が耳に入った。
「お前っ、
「……へ?」
真剣な目で聞かれた事に、僕の身体に緊張が走る。
そのせいで、つい変な声を漏らしてしまった。
「ど、どうして? なんで黒木さんの事を?」
い、いきなりどうしたんだ。
確かにさっきまで彼女の事を考えて昨夜の事を振り返ってはいたけど、その事を新太本人には話していない。
なのに、どうしてそれと似通った話題が出てきたんだ。
「…………あ」
そこで周囲の様子と、今の質問の二つである可能性が頭をよぎった。
もしかして今の生徒は!
「あっ。おい真吾!」
僕はすぐに教室から顔を出して先程すれ違った女生徒を目で追った。
「……あっ!」
左右に首を振り、その人物を見つける。
ポニーテルを揺らしながら歩く彼女の後ろ姿が、確かにそこにあった。
同じクラスのボーイッシュガール。黒木岬さん。
僕にたった今おはようの挨拶をしたのは、まさにその人だった。
◇◇◇◇
「要! どういう事だよ!」
「なんでお前が黒木さんと仲良いんだ!」
席に着くと次から次へと質問の応酬が始まった。
主にクラスの男子からの勢いがすごい。
「待てよみんな! 真吾だってそんなにいっぺんには答えらんないって」
新太が仲裁に入ってくれる。
新太にだって聞きたい事は沢山あるだろうに、困っている僕に助け舟を出してくれた。本当に優しい幼馴染だ。
「おい
男子の一人が新太にも問う。
「それは俺だって知らなかったけど……」
答えに息詰まり、ちらっと視線を向けられる。
「それって友達にも黙ってたって事だろ? 三谷はそれで良いのかよ」
「それは……」
その言葉を最後に新太は黙り込んでしまう。
きっと本人も思うところがやはりあるのだろう。それでも僕を庇ってくれるのは新太の優しさの現れだ。
でも、本来なら僕だけが責められる事なのに、無関係な新太に嫌な思いをさせるのは違うよな。
僕もまだ新太に昨日の事を話していないのだから、知らないのも当然なのに。
「要も何か言えよ!」
新太に質問をぶつけた男子が僕の方を見る。
席が離れた生徒たちも、僕からの言葉を待っているのか、多くの視線を感じた。
「…………」
さて、どうしようか。
この場を収めるのに最適なのは、昨日の出来事を素直に話す事だ。
でも正直に話していいものだろうか。
皆が気にしている黒木さんは普段無口でクールな印象だ。
そんな彼女の弱み。というよりかは素性かな。
昨日の黒木さんには、普段の学校では見せない女の子らしい弱さがあった。
そんな話しを本人がいない所で僕から話す事に、黒木さんがよく思うかは分からない。
他の人が信じるとも思えないけど……。
そもそも、昨晩の時点でお礼は言われたし、いくら助けたとはいえさっきのように学校で声を掛けられる程の仲に発展したというのにも、いささか疑問が残る。
偶然? いや、不特定多数にする挨拶と違って名前を呼ばれた時点で既に言い訳はできない。
それに、黒木さんが自分から挨拶をするところなんて去年と今年を合わせても見るのは初めてだった。
「おい! 要ってば!」
痺れを切らしたのか追及される。
僕も僕でこのままずっと黙っているわけにもいかない。
なんの解決にもならないし、余計に黒木さんとの関係性を誤解されてしまう。それだけは避けないと。
「実は……」
「あっ!」
言葉が出かかったところで、一人の生徒が声を上げた。
その視線の先を見れば、教室を出て行ったはずの黒木さんの姿が目に入る。
「……?」
どうしてクラス中の生徒から注目されているのか分からないといった表情を黒木さんは浮かべるが、そんな事はお構い無しに彼女はそのまま教室へと足を踏み入れた。
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