詩《うた》をきかせて

☆第２８話 荒ぶる怒りと静かな怒り

「一体どういうことか説明してもらおうか、えぇ！？」

　次の日の朝、大賀は学校の職員室に入るなり、デスクでテストの採点作業をしていた若菜を指差してこう言った。

　今にも若菜に殴りかかりそうな程、大賀は激しく怒り狂っていた。

　若菜の目の前で、ぶんぶんと振り回している大賀の両腕を、同席していた明博が自身の両の腕でがっちりと押さえる。

　明博に身体を固定された大賀はその場でドタバタと暴れると、必死に自分の身体を押さえつける明博をひどく睨みつけて、こう叫んだ。

「えぇい！離せ、明博！俺は若菜と話があるんだぁ！」

　そう叫びながら大賀が明博の両の腕の中でもがく。

　じたばたとする大賀に苦笑しながら、明博は若菜の方に目をやってこう言った。

「若菜先生。僕からも昨日の件のご説明をお願い致します」

　いつもより語尾を強めている明博の様子に驚いて、大賀がぴたっと身体の動きを止める。

　若菜の前で礼儀正しく笑顔で振る舞ってはいるものの、幼稚園からの付き合いである親友の明博が、静かに怒っている事に大賀は気が付いた。

　そんな二人を尻目に、若菜はテストの採点をしているプリントから目を離さないままでこう言った。

「君達に話す事は出来ない」

　その言葉にカッとなって、大賀が若菜の方に、一歩足を手前に出した。

　感情を剥き出しにして若菜に詰め寄る大賀を、明博が冷静に止めに入る。

　視線を全く交わす事もなく、若菜は大賀に向かって、「君は本当に反抗的な生徒だな」と言ってため息を付いた。

　その言葉に反応した大賀が「反抗的な生徒で悪かったなぁ！」と言って、若菜からそっぽを向く。

「……余り生徒が教師に反抗すると、後で厄介な事になるぞ。だから止めておけ」

　そう言って若菜は、採点のし終わったテストの答案用紙の束をとんとんと整える。

その言葉に歯ぎしりをした大賀は、キッと若菜を勢いよく睨みつけた。

「それは脅しのつもりかよっ！？」

「……私は本当の事を言っただけだ」

　そう言って若菜は、今度は別のテストの答案用紙の束に手をかける。

　若菜はさっきから鋭く自分を睨む大賀と、対照的に笑顔で接する明博に、正直呆れていた。

「……ここに居ても何にもならないし、この後も君たちには何も起こらないぞ」

「お前が説明さえすれば良い話だろうが！？」

　そう言って大賀がひどく若菜に対して逆上する。

　自分に反発する二人を落ち着かせようとすればする程、二人の反骨精神が掻き立てられている事に若菜は気が付いて、また溜め息を付いた。

　すると若菜と大賀の様子を静かに見ていた明博が、おもむろに口を開いた。

「……昨日の事、何事も無かった事にするおつもりですか？そうだとしたら僕達にも考えがありますよ？」

　その言葉に一瞬赤いボールペンを握っていた、若菜の身体の動きが止まる。しかしすぐにまた採点作業を再開すると、若菜はゆっくりと重たい口を開いた。

「……今度は君たちが私を脅すつもりか？」

　明博の言葉に反応した若菜が、ようやく大賀と明博の方に目をやる。

　赤いボールペンをゆっくりと机の上に置くと、若菜は大きな溜め息を付いた。

　昨日のことを思い出しながら、明博はゆっくりと若菜の方を見やった。

「脅すだなんてとんでもない。ただ何で昨日、あのような展開になったのか、僕たちは若菜先生に説明して頂きたいのです」

　そう言うと明博は若菜の方を向いて、にっこりと笑った。