散華 ダイ・イン・スカイ
葉茎 蕚
鬼籍睡蓮
―――ライチ基地のエースを落とせ。その命令を受けたのは梅雨が明け季節も夏になりかけ、夜空の天の川が綺麗に見え始まった頃だった。
季節は梅雨、1年を通しても最も出撃命令が少ない時期だ。
悪天候での飛行は危険だから、この時期は敵だって飛びたくはないのだろう。
「やっぱり人なんだなぁ、敵だって」
トムル島チフル航空基地の宿舎部屋で、戦闘機パイロットのスイレンは思う。
雨が戦闘機の格納庫の屋根に小さな川を作っているのを何気なく眺めていた。
屋根の端っこで滝になって地面に水溜りを作る。
ふと雨音の中に足音が聞こえる。
部屋に向かってくるそれが大きくなるや、扉を勢いよく開ける小柄な女。
「スイレン姐さん、睡蓮を見に行こうよ」
「まだ咲かないよ、葉っぱしかないじゃない。少し落ち着きな」
飛行場の側に、睡蓮が咲く池がある。
そこの睡蓮が見たいと駄々をこねるは、自分が手塩にかけ育てあげた妹パイロットのサクラ。
きらきらと輝かせる目にスイレンは呆れて笑う。
「分かったわ」「やったぁ!」
暇を潰すためだと、重い腰を上げる。
傘をさして飛行場のほうへ。
桜は終わって、葉桜が青々と茂っている。
池の睡蓮はやはり葉だけで、水中に小さく蕾が見えている。
何色の花が咲くのか、どんな形なのか知らない。
―――生きている間に花を見れるだろうか?
明日死ぬかも知れないのに、花を見たいなど。
サクラは池を覗き込んで愛おしそうに見ている。
1月前は桜に感動していたのに。
雨の中、辺りを見回すと国旗掲揚台が靄の中に沈んでいる。
国旗は黒字にグレーの丸、ここは軍国である。
トムル島から数百海里先には、母国と呼ばれる場所がある。
実情は知らない、産まれたときからこの島にいて、外のことなど何一つ。
ただ戦闘機に乗れと、敵を落とせと教えられてきた。
戦争。
そう、これは戦争なんだ。
この国の敵は、ライト島にいる人々。
戦争が始まった理由は知らないが、自分が戦争のある国に産まれたということだけは分かる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます