第69話 お茶会への強襲
メリ――ズッバシャーン
『きゃあああああああ』
いきなりドアが斧で切り裂かれ、店内には大勢の悲鳴が響き渡る。
「うおおおおおおおお」
「えっ?」
想像していない流れ、いや――
(ガゼットはわかっていた?)
わかっていたとしても、あと千倍ぐらいは素晴らしいやり方があると思われるが、そこには一旦、目をつぶろう。
いきなり、ドアをぶち壊した筋骨隆々の男があまり正気に思えない唸り声を上げながら周りを見渡すと、ガゼットとレンナを見据える。
「ったく、いったいなんなのよ」
「うがあああああああ」
ガゼットを目掛けて吠えながらやってくると、斧を振りかぶって、テーブルを叩き割っていく。
乗っていたものが飛び跳ね――ティーポットが宙に浮いているのを見たレンナは一瞬恐怖するも、すぐに視界から消えた。
「邪魔だ」
ガゼットの手に弾かれて、レンナが怪我する可能性のあるものはコップも含めて、全て除去される。
また、助け方としては処刑されてもおかしくない無礼な行動だが、一応事前に右側へと投げ捨てられたラスティーナも無事であった。
「うごおおおおお――うご?」
振り下ろされた斧の上にガゼットが足を置き、いきなりやってきた相手は振り下ろした斧を引き抜こうとするのだが抜けやしない。
「うぐぐぐぐ」
本当に相手が人間かどうか――あくまで唸り声を上げている相手のことレンナが疑い始めると、敵は斧から手を離してガゼットと向き合うと、すぐに逃げだした。
「えぇ……」
本当に一体なんなのか?
いきなりやってきた敵が自分で切り裂いたドアの前まで逃げると、仕事ができそうな執事服の男――ラスティーナにセバスと呼ばれていた執事が現れる。
「お待ちなさい」
左足で逃げようとする男の足を蹴り、左手で体を持つ。
そしてそのまま、手を引いて、相手の体を一回転させて倒して見せた。
『おぉ――』
あっさりと倒してのけた執事に賞賛が集まる中、そんなことを誇ることなく、コツコツと音を鳴らして歩いてきた執事が周りを見渡す。
「どういうことです?」
ガゼットはなぜかレンナを抱きしめており、肝心のお嬢様は床に放り出されている。
その上で彼らの右――2人から見て左側では、ティーポットが体にぶち当たって、気絶をしている男がいた。
テーブルが斧で叩き割られているのは、つい先ほど処理した男と想像はつくが、それ以外の状況はよくわからない。
「失礼。このようなものですが」
左手で名刺を差し出し、近くの店員に説明を始める。
「申し訳ありません。後処理をお願いします」
その後の処理にかかった金額の請求場所などを伝えると、執事はお嬢様に手を伸ばす。
「おい――金は?」
今この状況で優先すべき内容が果たしてなんなのか、1
執事は動きを固めると、顔を歪めながらも、左手を胸ポケットに入れる。
そして、取り出した封筒をガゼットに差し出した。
「これでよろしいでしょうか?」
「あぁ!」
そういってガゼットは封筒をもらうと、左でレンナを抱いたまま、ラスティーナの元に行き、脇に手を差し込んで無理やり立たせる。
両手に華を実行するガゼットに対して、執事を含めて周りの視線が冷たく突き刺さるが、その程度で揺らぐナイーブな男では悲しいかななかった。
「あ、ありがとうございま……す?」
胸ぐら掴んで投げ飛ばす時点でかなりやばいが、自分のいた位置付近で斧が振り下ろされていたら印象は揺らぐ。
「そういや、100万は持ってきてるか?」
「……50万だったのでは?」
来たばかりの執事に話の流れがわかるはずもなく、不思議そうに返される。
「じゃあ、その分の金も用意しておけ!」
なぜそこまで上から目線で
もっとも今更ガゼットの行動に文句を言う気は起きないレンナはいい加減に距離を取ろうとするが、なぜか逆に力を込められてさらにくっつかされてしまう。
「ガゼット!?」
ガゼットの左手は腰から尻へと移り、若干持ち上げられて抱きつけさせられる。
そして、右手側は無理やり立たせたラスティーナの腰に手を伸ばして、物のように担ぎ上げた。
「ふぇ?」
いきなり横向きにされて、人生で味わったことがないであろうほどの雑な扱いに、ラスティーナは状況が理解できないまま持ち運ばれる。
「ちょっと自分で歩けるから」
流石にこれ以上の横暴は許せないレンナはガゼットを拒絶しようとするが、手を離してもらえるばかりか耳元でボソッと囁かれた。
「絶対服従だろ?」
「それって……」
いったいなんの話なのか。
女の子を周りに侍らせて悦に入りたいといった意味なのか、それとも――
「あなた、なにを警戒してるの?」
先ほどの意味不明の襲撃――これは、もしかして序章に過ぎないのか?
ガゼットは意味のない行動はしない。
だが、意味の分からない行動はマジでする。
めちゃくちゃする――それでも、レンナは絶対服従を約束したし、それをまだ守り続けるつもりではあった。
それこそ、
それはそれとして、もうちょっとは周りに目を向けて欲しい。
ビシビシと突き刺さる冷たい目線に晒され、恥ずかしに身悶えながら3人はカフェから出ることになり、
「ぐへぇ」
「踏むな、踏むな」
邪魔とはいえ、途中に倒れている男をガゼットは躊躇なく踏んで出ていくのであった。
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