第39話 自己紹介―チーム・スターレイン
「えっと、初めまして、勇者候補のリリアス=ハーレイと言います」
金髪碧眼で柔和な雰囲気の男が勇者候補の情報を添えて言う。
「……ミレイスター=ハーウェイ」
赤髪をツインテールにして肩まで垂らした少女がぶっきらぼうな態度で続ける。
「ん? 自己紹介する流れなんか? まぁ良いか。ランド=ビリジアンだ」
茶髪の大男――ガゼットよりも一回り大きい体躯のいい男も不思議そうな顔をしながら自己紹介を終えた。
ちなみに、リリアスはガゼットより若干小さいぐらいで、それよりも小さいミレイスターはレンナより少し大きいぐらいだったりする。
「俺はガゼット=アルマーク。そういうことだから、雑魚は引っ込んでろ。じゃあな」
「いや、どういうことよ!」
勇者候補パーティ(?)の誰よりも早く、ガゼットの暴言にレンナ=レイが突っ込む。
これまでの流れだと無視しそうなガゼットだが、自らが首を突っ込んだからか、それともレンナが声をかけたからなのか、珍しく足を止めて口を開く。
「ワイバーン10匹に加えて、ちょっと図体がデカくなったトカゲにビビり散らす雑魚がしゃしゃり出てきたってことだろ?」
もっとも、黙っていてくれたほうがマシな主張であったが。
「な、なんですって!」
「怒るな怒るな」
上から目線で呆れてくるガゼットにミレイスターが金切り声を上げてキレるが、それをランドは押さえつける。
(リリアスくんが優しさで、ミレイスターが憤怒で、ランドさんが制御?)
適当に3人の役割を邪推していると、リリアスが前に出てガゼットと向き合う。
「この依頼は危険なんだ。実の所すでに何人かの被害がでていて、そのために僕たちがやってきた」
「だからどうした? 依頼が受理されていない以上、誰がやっても問題はないだろ?」
「なんですって!? だとしてもよ! いきなり奪うのはおかしいんじゃないの!」
「いや、お前……」
レンナから依頼書をひったくったミレイスターが、ガゼットの強奪を指摘するが、その後ろでランドが呆れた表情を浮かべる。
「ふむ、そうか。じゃあ、返そう」
『えっ?』
ミレイスターの手の上に依頼書を置くガゼットに、3人+レンナが驚く。
「これでいいか?」
「えっ、あぁ。うん、いいよ」
いきなり質問されたリリアスは意外そうな表情をするも、すぐに嬉しそうな様子で微笑み返すとガゼットの質問に同意する――同意してしまった。
「じゃあ、寄越せ」
「はぁ? 嫌よ」
何がどういう理屈でガゼットが主張したのか不明だが、すぐさま依頼書を寄越せと言われたミレイスターはベーッと舌を出しながら依頼書を握りしめて両手を後ろに回す。
「そうか」
そのままガゼットは素直に頷くと、左の上腕を掴み、握力に任せて捻りあげた。
「君、何を」
いきなりの暴挙に、リリアスが声こそかけるが、男二人は立ちすくんでしまう。
そんな数秒の間に、ミレイスターは地面に突き倒され、依頼書を持った右手の腕はガゼットの足に踏みつけられた。
そして、そのままろくな抵抗も許さず、ガゼットが依頼書を奪う。
「おまえ……どういうつもりだ?」
正気に返ったランド――もっとも、あまりの暴挙を前に、どこか正気を失った様子で、ガゼットに問いただす。
そんな鬼の形相を浮かべた相手にガゼットは目を向けず、無視をしているのか返答をしているのか微妙なラインで、地に伏せたミレイスターに話しかけた。
「ちゃんと言う通りにしたから問題ないよな?」
「なんの問題がないだって?」
「いきなり奪うのがダメとは知らなかったんだ。今回はちゃんと事前通告したし、渡してくれたってことは納得ってことだよな」
もし仮に、これが納得して渡したという主張が通るなら、この世に強盗といった言葉は消えるのは間違いない。
「そんな奪い方を許すと思ってるのか!」
血管がブチギレそうな勢いで、怒りを噛み締めるようにランドが聞く。
そんな男に対して、ずっと下を向いたまま――あくまでミレイスターに話すようにガゼットは答える。
「お前が奪うのを見て、てっきり、同じパーティからなら盗っていいのかと思ったんだよ。今回はちゃんとリリ……カルからじゃなく、君から奪ったし問題はないだろ?」
「問題ないわけあるか、糞餓鬼いいいいいいい」
結局、ガゼット相手に我慢しきれなかったと見るか、非常に長く我慢できたと言うべきか、ランド=ビリジアンが斧をガゼットの脳天に振り下ろす。
「やめろ!」
リリカル――ではなくてリリアス=ハーレイが身を乗り出して止めに入る。
流石に、仲間を巻き込むつもりはないらしく、振り下ろされた斧は二人の頭をかち割ってしまう前に止まった――そもそも、ガゼットの頭がちゃんとかち割れるかは謎だが。
「ふざけんなよクソが!」
吠え叫びながらも、斧を片付けたランドがミレイスターを介護する。
幸い踏まれた右腕も、捻りあげられて左腕も対したダメージは残っておらず、割とすぐに立ち上がることができた。
「なぜ、君はこの依頼にこだわるんだい?」
あまりの暴挙に対して、疑問を浮かべたリリアスが聞く。
依頼は他にもあり、もしかしてのっぴきならない事情があるのかと考えての質問。
ただ――
「楽な割に報酬がいい」
「いやっ、その……はぁぁ……」
なんも考えていない馬鹿発言。
これだけ説明しても理解せず、楽でもなんでもない依頼に、報酬金額で釣られる浅はかさは目に余るものがあった。
「ふざけるのも大概にしろ餓鬼ぃ」
斧を首元に添えて、目を血走らせるランドに対して、ガゼットは冷たい視線を向ける。
「なんか言ったらどうだ!」
「なんか――」
「テメェ!」
素直な返答が平和的解決になるわけではない。
売られた喧嘩に対して、ランドは怒りに任せて斧を振り上げるが、ガゼットはそんなことを気にせず言葉を続ける。
「――ようか?」
いつの間にか近づいてきた女性への質問――揉め事の元にやってきたギルド職員の前で、ランドは斧を振り上げたまま固まった。
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