第38話 依頼選び

 太陽が登り始め、活気がわいてきた道をレンナが一人で歩く。

 昨日、ガゼットとは同じホテルの別の部屋で寝たが、朝起きた時間は同じであった。


 問題は朝ごはん。

 昨日の夜に、でっかい肉が手に入ったらしく、それを食べたがったガゼットをレンナは置いてきたのである。


「よくもまぁ、朝から肉を食う気になるわねぇ……」


 教会から金を下ろしたり、ギルドで依頼探したりとすることがあるため、なんの問題もないのだが、ガゼットのイカれた生態について暇つぶしついでに気にしていく。


 ガランガラン


 ギルドのドアを開けると、ダンジョンで過ごしてきたものの汚い匂いが満ちており、ギルドに来たなぁといった感じがする。


「むしろ、ガゼットがいる所だとあんまり匂わなかったなぁ」


 血と汗と、様々な情念入り混じる場所で、レンナは良さそうな依頼について探す。


「何がいいのかしら?」


 できれば日帰りで終わり、ペガサスを使わずに行けるほどの距離でなければ困る。

 今日中まではペガサスをタダで見てもらう都合上、下手な延長も利用もするべきではなかった。


「あとは配信映えも考えて討伐系がいいわよね」


『ガゼットに草むしりさせてみた』なんてのも面白そうだが、それが受けるのはガゼットの実力を知っていればこその話。

 今のタイミングでは、ギャグとしてではなく、マジのつまらない動画として終わってしまう。


「これとかいいかも!」

「やめといた方がいい」

「……誰?」


 ワイバーンの討伐依頼を手に取ったレンナに対して、いきなり声がかかる。


「リリアス――リリアス=ハーレイだ。よろしく」

「よろしくです」

(女みたいな名前ね……)


 金色のサラサラとした髪に青色の瞳。

 柔和そうな雰囲気だが、その真剣な表情は、しょうもないナンパとして声をかけてきたわけではないだろうと想像がつく。

 それはそれとして、


「えっと、心配していただきありがとうございます。大丈夫ですよ」


 レンナは依頼内容にもう一度目を通して読み返す。

『討伐以来 西にある森に住み着いたワイバーンを10匹と巨大ワイバーンの討伐』

 10匹なんて誤差の範疇だろうし、巨大ワイバーンであれば、問題もなさそうである。

 むしろ超絶ミニマムワイバーンの大群とかの方が厳しいのではないだろうか?

 どちらにしても、あとでガゼットに聞くことにはなるが問題はとりあえずない。


「あんたさぁ。配信者よね?」


 リリアス=ハーレイの隣にいる女が声をかけてくる。

 ちなみに、さらに隣にはかなりガタイの良い男がいて3人パーティのようであった。


「はい! レンナ=レイって言います!」


 昨日にしてもそうだが、だんだん知名度が上がってきたのかと喜ぶレンナだが、相手は侮蔑的な表情を浮かべる。


「邪魔なのよね。役立たずがダンジョンに入らないでくれる?」

「えっ?」

「ちょ、スターちゃん」


 いきなりの罵倒にレンナが驚いていると、リリアスがスターというらしい女を窘めていく。


「いきなりごめんね。でも、そこに書いてある黒焔飛竜ダーク・ドラゴニックは本当に危険なんだ」

「ダー、えっ? 名付き!?」


 名前が付いているだなんて書いていなかったが、巨大ワイバーンのことを指すのだろう。

 それはそれとして、ガゼットが負けると思えないのは何故だろうか?


(冷静に考えると、別にドラゴンを倒せる保証ってないわよね)


 レンナとしてもドラゴンの強さについては知らない。

 それでも、ガゼットの腕の中で感じた恐怖も、安心感もドラゴンに比べればちっぽけなものであった。ドラゴンについて知らないけど。


「わかったら、早く渡しなさい」

「ん? えっ? なにを?」


 レンナがコミュニケーション能力0の相手と一緒にいてわかったのは、ちゃんとどういう意図なのか、じっくり聞かねば、話の意味はわからないということ。

 もっとも、そんな行動指針を知るはずもなく、なんなら、とぼけたようにも見える行動にスターと呼ばれた女が苛立ちを募らせていく。


「その依頼は私たちがこなすわ! 雑魚は引っ込んでなさい!」


 いうと同時にレンナの手から、依頼書がひったくられる。


「お前なぁ、いくらなんでも、マナーが悪すぎるぞ」


 女の隣にいるガタイの良い男が女の傍若無人さに口を挟む。


「だって……」

「配信者が嫌いだからってして良い事と、悪い事があるんだよ」

「でも……」


 唇を尖らせて不満げな態度を見せる女の手から金髪の青年――女みたいな名前のリリアスが依頼書を手に取る。


「配信者が人気欲しさに危険なところへ行くのは知ってる。でも、命は大事にするべきだし、なにより早く退治を望んでいる人がいるんだ」

「そうよそうよ!」

「黙ってろ」


 囃し立てる女の口を大男が塞ぎ、金髪青年は苦笑しながら、再度口を開く。


「君を雑魚と言ったのは謝る。だが、君が行くには危険な場所なんだ。言いたいことはわかってくれるね?」

「あぁ、お前らみたいな雑魚が行くべきじゃないってことだろ」


 リリアスの後ろから、いきなり声をかけた男が、レンナの選んだ依頼書をリリアスの手からひったくる。


「ちょっと! あんた、なにすんのよ!」

「なにって、早く退治をしたほうがいいんだろ? だったら、雑魚は行くべきじゃない」

「なっ、好き勝手言っちゃって、そもそもあんた誰よ!」

「そういうお前らこそ誰だよ」


 依頼書をひったくった男――ガゼット=アルマークが疑問を返すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る