最強剣士配信中~最凶コミュ障剣士は配信者との相性が一番いいらしいですよ?~

かむや

第1話 無謀な挑戦

「やほはろ~見えてる~」


 棒の先についてる細長い板状の魔道具――空間の記録保存ができる媒体【ホルダー】に向かって、少女が手をふる。


 ――そこはどこ?

 ――レンナちゃん今日もかわいいね

 ――なんか暗くない?


 様々さまざまなコメントがあらわれては消え、少女――レンナ=レイはニヤリと笑う。


「なんと、今日はアビスフェルシアに来てみました!」


 片田舎に現れた超高難易度と噂されるダンジョン。

 まだ誰も訪れたことのない前人未到ぜんじんみとうの場所へ少女は入っていた。


 ――大丈夫?

 ――危なくね?

 ――無謀だろ


「ふふふ、さぁ行くわよー!」


 無謀な挑戦ちょうせんであるが、対策はある。

 超高難易度ダンジョンの最初のお披露目ひろめをするパイオニア――もとい、投げ銭目当てにダンジョンの奥地へと進むのであった。


 ピチョンと響く水音。

 ツンとする錆びた鉄の匂い。

 歩いているだけでビンビンに恐怖を刺激するが、幸か不幸か誰にも会うことなく、少女は歩みを進めていく。


「い、意外と余裕ね~」


 じわじわ恐怖が本能を蝕んでくるが、それでも歩みを進めるしか無い。

 みんなが気になる超高難易度ダンジョンの配信に、期待という名の投げ銭がチャリンチャリンと放り込まれているのだ。

 なにもないタイミングで逃げられるはずもなく、レンナはダンジョンの奥へと進んでいった。


 ――意外と拍子抜けだな

 ――もしかして楽勝じゃね?

 ――レンナちゃん最強!


 気の緩んだコメントが板状の【ホルダー】に表示され配信者のレンナを褒め称えるが、だからといって気を緩めることなく慎重しんちょうに進んでいく。

 心臓が押しつぶされそうな恐怖は感じるものの、なぜかモンスターとは出会わない。

 進めば進むほど腐った匂いが強くなっていくのだが、さすがにその程度で引き返すほどやわではない。しかし――


(なーんか、やな感じだなぁ)


 ――本当にアビスなんか?

 ――思ったより、しょーもな

 ――いや、なんか変じゃね?


 画面越しでは伝わらない緊迫感に対する緩んだコメントを見ながら、レンナは笑顔を振り絞りながら歩いていく――ある意味、笑顔を振り絞る状況になければ恐怖で逃げていただろう。


 Guoooooo!


「なっ」


 ――なんか聞こえた!

 ――きたきた!

 ――大丈夫か?


「はーい、大丈夫でーす!」


 もちろん、このまま無防備でいけば、あの世一直線であるが、そのための対策はちゃんとしてきているのだ。

 【ホルダー】を付けていた棒――棍支自撮り棒を腰につけると、転移魔道具をにぎめ、いざとなればいつでも逃げられる準備をしておく。


「さぁ、今から奥に進むわよ! みんなもぜひ確認してね♪」


 レンナはなんとか恐怖を押し殺して、奥へ進むと大きな金属の扉が現れた。


 Guoooooo!


 世界各地に存在する魔物が住む洞窟どうくつ――通称、ダンジョン。

 様々な特殊とくしゅ環境の噛み合わせによって生まれた不思議な空間。グネグネとうねった暗い道に、どうあがいても説明がつかない不思議な扉、数々の鉱物が混ざり合うことで出来た貴重な宝。

 そして、数多くのモンスターが潜んでいる――そんな、危険で魅惑みわく的なダンジョンに人々は熱狂した。


「では、いっきまーす!」


 ギギギと床をする音を立てて、レンナは重苦しい金属の扉を開いていく。


 ――すげー

 ――強そう

 ――大丈夫?


 扉の先で吠え声をあげて現れたミノタウルス――レンナの倍ほどの大きさのあるモンスターに対してニッコリと笑う。


(大丈夫? と聞かれたら、絶対に無理)


 勝てるはずがない。というよりも、レンナは身のこなしの軽やかさにこそ自信があるが、モンスターをまともに倒すことすらできない。

 転移魔道具を握りしめて、配信映えを意識しながらミノタウルスと向き合う。


「さぁ、来なさい!」


 少しばかりヒヤヒヤさせる展開を演出してからの逃走。

 演出プランを脳内で描くとレンナは牽制けんせいとばかりにナイフを投げる。

 屈強な肉体を持つミノタウルスにはなんのダメージにもなっていないが、不快感ぐらいは覚えたのか、レンナに向けて襲ってきた。


「たぁ、やぁ!」


 ひらりと相手の攻撃をかわしながら距離を取ると、転移魔道具を起動していく。

 現状、配信にどのような感想が並んでいるか不明だが、数回ひらひらと躱していればお金はちゃんと振り込まれる。

 ダンジョンの鉄則――それは無理と思えば即撤退てったい


 ガシャン


「へっ?」


 思わず間抜けな声が漏れて、レンナは右手を見る。

 そこには転移魔道具の下側が残された――そして、その上には刀身が乗っていた。


「なっ、なっ……えっ?」


 ギギギと音を鳴らしそうになるほど、恐怖に震えながら振り向いたレンナの後ろには、全身が甲冑かっちゅうの剣士――いや騎士だろうか?

 剣を突き出した亡霊ぼうれいの甲冑騎士にレンナは唇を噛みしめる。

 多分、生前は優秀な人間だったのだろう。しかも、かなりのドS

 そうでもなきゃ、背後から刺すのが人間ではなく魔道具になるはずないのだ。


 ずしん


 後ろから響くミノタウロスの足音。


 ガシャ


 間近で響く鎧の金属音。


 手に持った策が尽き、レンナは絶望しそうになる。


(いや……いったい、どっから来た?)


 ここに来た段階では確実にいなかったはずの甲冑の亡霊騎士。

 自分と同じ方向から来たのでなければ、この場所はミノタウロスを倒すことで道が開かれるのではなく、すでに開いている道が隠されているだけに過ぎない――のか?

 一瞬、悩むも選択肢は一つしか無い。


「やぁ!」


 振りかぶられる剣をレンナは躱し、ミノタウロスに突っ込む。


 Gurroooooo


 咆哮ほうこうと共に振り下ろされたミノタウロスの棍棒に乗ると宙高く舞い上がり、亡霊騎士の後ろをとる。

 レンナの細腕では背後を取ったところで勝てやしない。

 だからこそ、モンスターがレンナを見失っている探している間に彼女自身も新たな道を探す。


「予想が正しければここらへんに……あった!」


 壁に手を当てて、甲冑騎士がやってきたであろう場所を必死に探していると、奥へとつながる道を見つける。


「くっ、っぶな!」


 振り向きざまに凪ぐ剣先を躱すと、レンナは濃厚な殺気が満ちているダンジョン――超高難易度と称されるアビスフェルシアの奥へと入っていくのであった。

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