#06
靖幸には女性ファンが多い。容姿がいいからかおもしろいからかわからないけど、女性ファンが多い。それは悪いことではない。
手売りのチケットがさばききれずアタシが買って劇場に行っていた頃、靖幸が劇場から出てくるのを待つ──いわゆる出待ちの女性がいくらかいた。その子たちは手紙やプレゼントを渡したり、握手を求めたり、一緒に写真を撮ったりと靖幸と交流して、次回の手売りのチケットを買ってくれる。
大事なお客様だ。
私がそれを最後に見た時、靖幸の前にはだいぶ長い行列ができていた。
他の女性に向ける靖幸の笑顔を見るのは正直イヤだった。それと同時に私は特別なんだという優越感もあった。女性たちの行列を横目にその場を立ち去った。
それらの女性たちのおかげで手売りチケットをさばけるようになった靖幸は、今は私に頼まなくなったのでしばらく靖幸の舞台を観に行っていない。
理由はそれだけではない。
私はキャバクラに週に5日間出勤して夜は不在にしている。靖幸の舞台もたいていは夕方から夜にかけてなので平日は観に行くのは無理だった。土日は自分を磨くための時間に使いたかったし、なにより昼夜逆転の生活は想像以上に体力を奪って家でのんびりしていたかった。
だからといって靖幸はなにか不満を言うわけではない。
「凜はウチで笑わせてあげるから、来なくてもええよ」
と、言っている。恋人が職場に行くというのを普通で考えたらおかしいことだし、いつの日か観に行かないことが普通になっていた。
私を待つ列もできていた。私を指名してくれるお客さんが少しづつ増えていた。同じタイミングで来店してしまったお客さんには順番で相手する。順番を待っている間はかつての私がやっていたようにヘルプの女性が場をつなぐ。
自分のお客さんが途切れ一息ついていた時、
「リリーちゃん、太田に管理されちゃった?」
と、最近の私を見て、この店に長く在籍している先輩の女の子が話しかけてきた。彼女とは気が合ってよく話している。私がどう返事するか困った顔をすると
「黒服たちも私達の頑張りで給料もらってるから、頑張らせるためにはなんでもするよ」
と、言う。黒服 ── 男性スタッフたちは担当している女性の成績が、自分のスタッフとしての評価につながるので、いい成績をとってもらう為に何でもするというのだ。プライベートの相談に乗ったりは序の口で、男女の仲になって自分のためにも頑張ってもらうという手段さえとる。
私は太田にプライベートの相談に乗ってもらったのは確かだが、それ以上の関係になっていないし彼に男としての興味もない。
「私、彼氏の為にこの仕事してるからさ」
と、彼女に言うと「そうだったね」と言って、太田が管理しているであろう女性の名前をコソコソと次から次へと教えてくれた。
そしてまた私は自分のお客さんが来たので、そのテーブルに行き愛想をふりまく。
出待ちの女性を相手をしている靖幸もこんなかんじかな……と、思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます