いつの間にか同居していた小指サイズな妖精によるまったり癒しのASMR

黒ノ時計

いつの間にか同居してた妖精とまったり過ごす日々

注:( )はあなたの行動、環境音、(※)はあなた自身のセリフです。


(※あなたはいつも通り仕事から帰宅して、買ってきたご飯を食べようとコンビニの袋を食卓の上に置くと、奇妙な気配に気がつく)


「……え?」


(よく目を凝らしてみると、そこには小指くらいのサイズのトンボとは似て非なる形の羽が生えた綺麗な金髪をお団子で結んだ女の子がいた)


「にににに、にに、人間!? どうして私のことが見えるの!? わっとっと!」


(慌てた彼女は転んでしまったので、あなたは優しく手のひらに乗せて顔に近づけた)


「な、な、なな、何よ! 人間のくせに私が見えるくらいでいい気になってるの!? わ、私なんて! 食べても美味しくないわよ!」


(※別に食べないよ)


「食べない……? 私のこと、食べないの? どうして?」


(※どうしてって……。食べ物じゃないから)


「食べ物じゃないから……。そう。てっきり、あなたたちは私のような妖精を見つけたら食べるのかと思ってたわ。だって! あなたより背は凄く小さいけれど……。嬉しそうに私をしゃぶる人間がいたのよ!」


(※それって、もしかして赤ちゃんのこと?)


「赤ちゃん……。人間にとっての赤子なのね。にしても、サイズは私たちからしたら同じようなものよ。だって、巨人なんだもん!」


(※確かに……)


「でしょ? 同じ種族内でほんの数ミリ単位違うならまだしも、センチどころかメートル単位で違うなんて……。まあ、ともかく! 人間! あなたは私のことは食べないってことね! 理解したわ!」


(※それは嬉しいんだけど……。人間かって呼び方は……)


「呼び方? そんなの、別にどうだって良いでしょ。私たち妖精に名前なんてないの。だから、名前とか割と無頓着なのよねー。……でも、人様の嫌がることはしちゃダメよね……。なら、お兄さんならどう? あなたくらいの年齢の男性に使う言葉なんでしょ?」


(※それなら大丈夫)


「オッケー。それじゃあ、今日からお兄さんはお兄さんね! でも、お兄さん。私を食べないなら、私をどうするの? ま、まさか! 私の体が目当て!?」


(※別に狙ってない)


「それも違う? なら、どうしようって気なのよ。怒らないから、正直に言いなさい!」


(※どうもしないけど……)


「え、どうもしない? そんなことってある? 私の姿が見えるのに? 本当に何もしないの?」


(※しないよ……)


「へえ、しないんだ……。人間なら、私を食べないとしたら、あとは捕まえてペットにしようとしたりとか、どこかに売り飛ばしたりするのかって思ってた。本当に良いの? 捕まえるのなら最後のチャンスだと思うけど?」


(※……はい、放してあげる)


「え、あ、降ろしてくれるの? ありがとう……」


(あなたは彼女を優しく机の上に下ろして、自分のご飯を広げ始めた)


「……って、嘘でしょ? 本当に無視ってわけ? しかも普通にご飯食べ始めてるし! ちょっとお兄さん! こんなにも珍しくて、可愛らしい妖精が一人いるのに感心ないってのはどういう了見!?」


(※どうして怒ってるんだ……)


「お兄さん、そりゃ怒るでしょうよ! お友達になりたそうにしてる人を目の前に、まるで見せびらかすように自分の食事を取り始めて! まさかお兄さん、家にお客さんがいる状態でお茶の一つも出さないでほったらかしにしとくわけ!?」


(※……言われてみればそうかもしれないが)


「ほう、何か言いたそうな目をしてるじゃない。言ってみなさいよ」


(※君に合うお空とか、湯飲みがないからおもてなしができない)


「ああ、人間サイズの食器しか置いてないからね……。それは、ごめん。私の配慮が足りてなかったかも。なら、別に私に合うものじゃなくてもいいから、一番小さなお皿にお水を汲んでくれない? もう喉が渇いて仕方ないんだ~」


(あなたは仕方ないと思いつつ、彼女に要望に応えてあげた)


「あら、優しいじゃない。お兄さん、顔はそこそこだけど、心はイケメンね!」


(※誉められてる気がしない……)


「褒められてる気がしない……? ちゃんと褒めてるわよ! じゃあ、早速……。ゴク、ゴク……。ぷは~。私、友達もいないし、頼れる仲間もいないし、困ってたから助けてくれて嬉しいよ。ありがとう、お兄さん」


(※どういたしまして)


「あ、そうだ。お兄さんの肩、借りるね~。よっと。えへへ、飛び乗ってしまった。私は妖精だからね、この羽があればどこにでも行けるのよ! ここ、定位置にすることに決めたから!」


(※……いや、それは困るんだが)


「困る? どうして? 昔から、妖精に懐かれた人間は決まって幸せな人生を送れるって私たちの間では伝わっているくらいなのに」


(※肩を定位置にされたら、色々とするときに困る)


「色々するとき? ああ、大人だから仕事とかするしね。そういうときは退いてるから、心配しないで。それに、妖精は普通の人には見えないから見つかる心配もないし」


(※いや、そういうわけでは……。まあ、いいや)


「ふふん、断ろうとしても無駄よ。そもそも、妖精は普通の人には見えないって言ったでしょ? 私たち、別に誰かの許可を取らなくても勝手に住み着いたりすることってあるし。まあ、話し相手がいるかどうかの違いくらいでしょ」


(※……なら、聞いても良い?)


「何? 質問? 私に答えられることなら、答えてあげてもいいわよ?」


(※妖精の住処は人間の体なのか?)


「妖精の住処について? 別に、人の体以外にも住処はあるわよ? ただ、人間って見てると面白いし、近くに便利なものとか沢山あるでしょ? 偶に、物を拝借したりして、自分たちの生活に役立てているのよ」


(※そういう……。なら、幸せな人生を送れるっていうのは?)


「ああ、言い伝えのこと? 妖精は人間から物を借りたりするから、小さいけれど恩返しをするの。困ってるときとか、悩ましい夜があるときとか、人知れずに悩みを取り払ったりするわけ。私たちの羽の鱗粉は、振りまくとリラックスできたり、陰鬱な気分が晴れたりするから。まあ、悲しいことに全員を幸せにできるわけじゃないんだけれど……。でも、お兄さんにはこの私がついてるんだから! 安心して、どんどん幸せになっちゃいなさい!」


(※……)


「何よ、そのジト目。私じゃ不安だって言うのかしら?」


(※……まあ、好きにすればいいと思う)


「そうね、あなたの言う通り好きにさせてもらうわ。私は私の好きにやって、あなたはその結果、どうしてか勝手に幸せになるのだから問題ないわ」


(※ところで、君のことは何て呼べばいい?)


「うん、私の名前のこと? あー、そうね……。私、名前ないんだもんね……。呼ぶときとかは困るわよね……。ねえ、何か良い名前とか付けてくれない?」


(※う~ん……。じゃあ、ティニーとかどう?)


「ティニ―? どうして、その名前にしようと思ったの?」


(※ティターニアっていうのからヒントを得た)


「ティターニア? 妖精女王のこと? そこから文字ったってことか……。へえ、中々洒落てるじゃない。まあ、私たちの女王の名前の一部を貰ったのは恐れ多い部分もあるけど……。お兄さんが付けてくれた名前なら、別にいいよね! 分かった、私は今日からティニーで! よろしく! お兄さん!」


(※よろしく)


(~~次の日の朝~~)


「ふわっ……。あ、おはよう。今日も良い朝ね。カーテンから差し込む日差しが気持ち良いわ~……。んーー! さーて、今日も元気に……。って、元気ないわね……。どうして、そんな出鼻を挫くみたいな大きな溜息をするの? 朝から辛気臭い」


(※今日も仕事があるから……)


「仕事? ああ、人間たちがやってる労働の義務のこと。私たち妖精には、そういうのは無いからね。強いて言うなら、生きていくのが仕事ってところかしら。でも、あなたたち人間だって生きるために労働をするのでしょう? それが嫌なの?」


(※働いたら、きっと嫌でも分かる……)


「そうねえ、私は働いたことがないから辛さは分からない。でも、私たち妖精が生きることも同じくらい大変だってことは分かって頂戴よ?」


(※うん。それを否定したつもりはないんだ。ごめん)


「いいのよ、謝らなくて。私を侮辱するつもりで否定したわけじゃないってのは分かってる。でも、そうね……。生きていたら辛いことの一つや二つ、あるものね。お兄さんの勤労もきっと、そのうちの一つってだけなのよね。そ、れ、な、ら! 私が、お兄さんが仕事に行きたくなるように耳元で応援してあげましょうか? お兄さん、仕事までの時間はある?」


(※まあ、あと三十分くらいは横になっていても大丈夫)


「三十分くらいね。なら、その間にお兄さんがやる気になるようにエールを送ってあげる! それじゃあ、ちょっと耳元まで失礼して……。お兄さん、いつもお仕事お疲れ様。お兄さんは、きっと生きるために頑張って働いてる。昨日もそうだったのでしょう? なら、今日もきっとできる。昨日だけじゃない。一昨日も、その前も、ずっとお兄さんは働いてこれたんだから。それなら、今日だって乗り越えられる。頑張り屋さんで、お利口さんなお兄さんなら大丈夫。私が付いてる。何なら、私がずっと肩の上で応援し続けてあげるわ。そう言えば、チアガールっていう風習があるのよね? 確か、ポンポンを持って、凄く短いスカートを穿いて、ふれ~、ふれ~ってやるんでしょ? ふふ、耳がちょっと赤い。もしかして、私のチアガール姿を想像したの? ごめんね~、今の私には衣装がないからできないけれど、応援自体はちゃんと続けてあげるね~。ふれ~、ふれ~、お、に、い、さん! ふれ、ふれ、お兄さん! 頑張れ、頑張れ、お兄さん! どう? ちょっとは元気が出てきた?」


(※何だか、むず痒い)


「むず痒い何て、贅沢な悩みね~。私、これでも妖精の中ではかなりの美人の方……のはず! だから、私に応援されるなんて光栄なことなんだから! むず痒いとか言ってないで、素直に喜んでればいいの!」


(※でも、応援されたことないから)


「え、応援とかされたことないの? ほら、頑張れ~とか言われるんじゃないの?」


(※言ってくれる人がいればね。お父さんとお母さんはいないし、親戚の人は僕に興味ないし、友達もそう多くないから……)


「父と母がいない上に、親戚に冷遇されて、友達も多くない……。最後のやつに関してはお兄さんの人徳の問題な気がするけれど、家庭事情はあまり良いとはいえないみたいだね……。でも、安心して! 物とかをあげるのとは違って、言葉を発するのはタダだし、何も失うものはないもの! だから、私が皆の代わりに応援してあげる! 勿論、慰めたりとか、愚痴を聞いたりもしてあげる! だから、そう落ち込まないで? 下を向いて落ち込んでいても良いことって正直ないし、むしろ、辛くても前を向いていた方が良いことと出会ったときにちゃんと向き合えるでしょ? だから、空元気だったとしても、元気を振り絞る! あ、でも自殺とかしないでね? それしようとしたら、このティニーがお兄さんのことを引っ叩いてあげちゃうんだから!」


(※……ありがとう)


「どういたしまして。さて、どうする? まだまだ時間は残ってるけど、このまま応援し続ける? それとも、もっと別のことが良い?」


(※うーん……。ティニーのお任せで)


「私のお任せ? なら、とっておきのお呪い、してあげましょうか。あなたの耳に……。ちゅ。どう? フレンチキス。私たち妖精のキスには、祝福を授けるっていう意味があるの。あなたに幸が多からんことをって意味を込めてね。ついでに……。ふぅぅ~~~~……。こうして、吐息を吹きかけることで授けた祝福がちゃんと実りますようにって願うの。ふふ、くすぐったい? ほれ、もっとやってやる! ふぅぅ、ふぅぅ~~、ふぅぅぅ~~……。ふふ、体がピクピクって跳ねて面白い! お兄さん、実は耳が敏感だったりするんだ! そんなに気に入ってくれたのなら、もっとしてあげる! ほら、ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~~~~~……。ふふ、本当に弱いんだ。お兄さん、本当に可愛い。じゃあ、反対の耳にも平等にしてあげないといけないね! ほら、ちょっと反対側に回って……。はい、到着~~。やっぱり、羽があるって便利だよね? わざわざ、歩かなくていいから。そう思うと、人間って本当に不便な生き物だなって思うけど、反面、歩幅は私たちよりもずっと大きいから羨ましいとも思うけど……。っと、無駄話してごめん、お待ちかねだったね? じゃあ、まずは……んちゅう。……どうしよう、そんなに耳を赤くされると私の顔まで赤くなってくる。キスって、私たち妖精の間ですることは一生にほとんどないけれど、人間たちにとっては確か愛情表現だったよね? お兄さんも、そういう愛情を表現する人がいたりするの?」


(※いや、特にいない)


「ふ〜ん? なら、何も問題ないね! ほら、もっと肩の力を抜いて、気分を楽にして。あ、でも寝ちゃダメだからね!」


(※分かってる)


「分かってるなら、何も問題なし! それじゃあ……。ふぅぅ〜〜〜。また、祝福に拍車をかける吐息をかけちゃう。はい、敏感な耳に息吹きかけられて、気持ち良くなっちゃえ! ふぅ、ふぅぅ、ふぅぅぅ〜〜〜〜……。どう? どう? 幸せになっちゃう? なっちゃうよね? だって、このティニーが授ける祝福なんだから、幸せにならないわけがないよね! ……と、そろそろ起きた方がいいんじゃない? お兄さん、凄いウトウトしてるし、このままだと完全に二度寝コースじゃないの?」


(仕方なく起き上がる)


「全く、そんな名残惜しそうな顔してもダメよ。時間があるからって横になってたら、いつの間にか三十分過ぎてるんだから。でも、そうね。お兄さんが望むのなら、またしてあげてもいいよ? お兄さんの反応は可愛いし、私で幸せな気持ちになってくれてるんだって思うと私も何だか嬉しくなってくるから。……さあさあ! 今日も張り切って生きていこう! 大丈夫! 私がそばにいるから! 何かあったら頼って! 私にできることなら、だけど! へへ!」


(〜〜ある日のあなたとティーはいつも通りに帰宅をする〜〜)


「たっだいまー! うんうん、やっぱり我が家っていうのが一番落ち着くよね。お兄さんの肩の上って、今じゃ凄い心地良いスポットになってるし。お兄さんはどう?」


(※僕もそう思う)


「だよねー。お兄さんも同じ気持ちで良かった、良かった」


(※でも、急にどうしたの?)


「そんな急ってわけでもないと思うよ? でも、そうだなー……。こういう風に思ったのは、やっぱりお兄さんの仕事ぶりを観察してたからかな? 最初に会ったときお兄さんが言ってたけど、仕事って凄い大変だって分かったから」


(あなたはリビングのソファに腰を下ろす)


(※だから言ったでしょ?)


「うん。それに関しては本当、お兄さんのいう通りだった。というか、その原因はお兄さんが先輩とか呼んでるあの男のせいでしょ! あいつ、自分の分の仕事もあなたに押しつけて、自分は職場の女をナンパしてたりとか……。それで、仕事が終わってないと理不尽に怒ったりとか、部長さん? に褒められに行ったりとか、色々とさ! お兄さんも何か言い返してやればいいのに! 私があの場にいれば、普通に殴ってやってたわ! 何なら、本当にぶっ飛ばしてあげましょうか?」


(※気持ちは嬉しいけど、割と理不尽なことが多い世の中だから)


「そうは言うけれど、限度ってものがあるでしょう? 何で、努力してる人が報われないのよ? 私が祝福をあげたってのに、お兄さんが不憫でならないわ!」


(※いや、もう祝福は十分貰ってる)


「祝福は十分貰ってるなんて、冗談はよして。何よ、まさか上司に苛められるのが嬉しいってこと?」


(※そうじゃなくて。ディナーがそばにいるから)


「私? 私がいることが関係あるの?」


(※うん。毎日楽しい)


「私がいたら、楽しいの? だから、幸せだって? ……お兄さんね、言おうか迷ったけど、あなたって欲が無さ過ぎじゃない? 私を見ても捕まえようとしないし、上司にはペコペコして怒りもしない。まあ、そうだからこそ私の姿が見えるのだろうけれどね」


(※どういうこと?)


「言ってなかった? 私たち妖精の姿を視認できるのは、青空を再現できるくらいの鏡面のように清らかな心を持った人だけなの。お兄さんの生活ぶりからも、根っこの部分は本当に優しいんだって分かるし。うん、私はそんなお兄さんのこと、好きよ」


(※ありがとう)


「どういたしまして。でも、お兄さんが落ち込んでるのは事実だよね? 今日は割と強めに怒られてたし。本当、ストレスで頭が禿げるんじゃないかっていう勢いで怒鳴ってたよね、あの先輩さん」


(※本当、禿げないか心配だよ)


「あんな先輩でも心配するんだ……。やっぱり優しいね、お兄さんは。それじゃあ! そんな優しくて格好いいお兄さんのために! 私が頭の上でよしよし~ってしてあげる! じゃあ、まずは……。お兄さんの頭の上に失礼して……よっと! へへ、お兄さんの頭の上はベッドみたいにフカフカだね。寝心地良いし、サイコー!」


(※ゴソゴソするとくすぐったい)


「あー、ごめんごめん。でも、くすぐったくても気持ち良いのに変わりはないでしょ? そうしたら……、このまま優しく私の小さなお手てでフワッと髪の輪郭をなぞるように撫でてあげる。ほら、よしよし〜。お兄さんは優しいくて、良い子だね〜。お兄さんは格好良くて、意外とスタイルも良くて、その上に気遣いもできちゃって〜、できる男って感じが良いな〜。毎日、お仕事は一生懸命してるし、後輩への配慮もできるし、先輩たちの嫌がらせにも何とか耐えて、辛くて厳しいのに一生懸命に生きてて偉いよ〜。頑張り屋さんなお兄さん、生きててくれてありがとう〜。私と出会って、ティニーっていう素敵な名前まで付けてくれてありがとう〜。よしよし、良い子、良い子〜」


(※色々な意味でむず痒い)


「ふふん、ティニーさんの誉め殺しに参ったみたいだね! でも、良いんだよ〜? 負けちゃっても。私はお兄さんのことが好きだし、お兄さんには幸せになってもらいたい。お兄さんが私の言葉で照れるってことは、嬉しいってことだもんね。なら、私は何度でもお兄さんを負かしてあげる。お兄さんが毎日、毎日、ティニー今日も褒めて〜って甘えてくれるようになるくらいね。だから〜。ほれ、ほれほれ! 今度は髪の毛を両手でかき分けて〜、わしゃわしゃ〜!」


(※ちょ……くすぐった……!)


「ふふふ、そんなに笑っちゃって気持ち良かったの? そうだよね〜、髪の毛って意外と敏感だもんね。なら、もっとイタズラしちゃえ! ほら、くしゃくしゃ〜、わしゃわしゃ〜、さんさわさわ〜! はは、気持ち良い! お兄さんの髪を布団にして包まるの結構癖になるかも!」


(※お気に召したようで良かった)


「うん、気に入った! 凄く良い場所だ! ……ねえ、お兄さん。お兄さんはさ、恋とかってしたことあるの?」


(※恋? 特にないけど)


「そっかないんだ。いやね、恋をするってどんな感じなのかなってふと気になったの。お兄さんがこの間、見てたドラマでもやってたけどさ」


(※一般的には、その相手のことを考えると胸がドキドキするって言うよね)


「胸がドキドキ? 恋してる相手を思うと……。……っ!」


(※どうしたの? 急に声なんか上げて)


「なるべく声を抑えた筈なのに、どうして聞こえてんのよ! もう、恥ずかしいわね! 何でもないわ!」


(※もしかして、気になる人でもできたのか?)


「そんなこと言ってないじゃない! ただ、ちょっと気になっただけって話! はい、この話はお終いね! 気にするべきは、お兄さんのメンタルの方なんだから! ほら、もっと撫で撫でしてあげるから、これで誤魔化されておきなさい」


(※分かった)


「うん、聞き分けのいい子は大好き。でも、そうね……。お兄さん、私のことを見捨てたりとか、見放したりとかしないでね。私は、もうお兄さんと一緒にいることが当たり前なんだから。そりゃ、寿命が違うからお兄さんとずっと一緒にいられるわけじゃないけどさ。でも、できるだけ長く……。ううん、お兄さんが歳を取って、よぼよぼのお爺ちゃんになっちゃったとしても、私は傍に居続けてやるんだから。私のこと、簡単に追い出せると思わないでね?」


(※そんなことしない)


「そんなことしない? 本当かな? ふふん。でも、その言葉を今は信じてあげる。私は優しいから、心の優しいお兄さんの言うことなら信じちゃうんだけどさ。……お兄さん! 大好きだから、髪の毛に絡みついてクルクル~ってしちゃうね!」


(※くすぐったいし、ボサボサになっちゃうよ)


「いいじゃん、別に。これからお風呂入って、あとは寝るだけなんでしょ? どうせお湯を頭の上からたっぷり浴びるんだから、ボサボサになったって平気、平気! だから、今は大人しく私の布団になってなさい! 妖精の布団になれる人間なんて、きっとお兄さんが世界初なんだから、ちゃんと味わっておかないとだしね!」


(※……はい、分かったよ)


「うんうん。それじゃあ、もう少しこのままでいよーねー。大好きな、お兄さん!」


(~~それから暫くして~~)


「全く、コンビニに行くって言うから出かけたっきりで戻って来ないじゃん。何処ほっつき歩いてるのよ……。そりゃ、漫画の続きを読みたかったから付き添いを断ったのは私の方だけどさ? にしたって、三十分も戻って来ないなんて何してんの……? さて、コンビニの前に来たけど、お兄さんは……いた。おーい、お兄さー……って、あれ? お兄さんの隣に女の人がいる……。確か、あの人はお兄さんの仕事先の先輩だったような……。何の話をしてるんだろう? こっそり近くに行って、盗み聞いちゃおう!」


(ティニーは低空飛行で忍び寄り、近くのゴミ箱の影に隠れた)


「さて、どんな会話をしてるのかな~……。ふむふむ、あのいじめっ子上司の話をしてるのかな。そう言えば、今日も嫌がらせが酷かったっけ……。え、先輩があの現場を見てたんだ。それで、部長に報告して……。近いうちに、内々で処分が下される……? やった! っていうことは、もうお兄さんが虐められなくて済むってことじゃん! お兄さんもちょっと嬉しそう。そうだよね、あの先輩のせいで仕事が辛かったんだし、クビとまでは言わなくても異動になってくれたら……。え、このあと私の部屋に来ない……? 前から色々と話がしてみたかった……? あなたが有能だということが増々分かったから、仕事の秘訣がうんたら……って、どう考えても建前じゃん! うわ! あの人、よく見たら胸大きいし……、腕に押し付けてるし……。こら! お兄さんもデレデレしてないで何とか言え! ……家で待ってる人がいるから? あ、走ってった……。お兄さん、何とか振りほどいたみたいだけど、果たして誘惑に勝ったと言えるのかな? そもそも、お兄さんに唾を付けてたのは私の方だったのに、あの女……。でも、これは一度、話し合いが必要かもね。お兄さんが一体、誰のものなのかを改めて教えておかないと! そうと決まれば、先回りして家に帰らなきゃ!」


(~~あなたが帰宅してリビングのソファに座ると、頭上から逆さの状態で飛んで降りてきたティニーと鉢合わせた~~)


(あなたはびっくりしてその場で小さく飛び跳ねる)


「あれ、どうしたの? 私が逆さで降りて来たって、そんなに驚くことじゃないでしょ? こんな芸当、今に始まったことじゃないのに。それとも、コンビニに行ってる間に何かあったとか?」


(※いや、上司の人に会ったんだよ)


「上司ねえ……。もしかして、女の人だったんじゃないの? ほら、いつもお兄さんの面倒を見てくれてる」


(※よく分かったね)


「ま、まあね。それで? どんな話をしたの?」


(※あの僕の先輩……。あの人がやってたことを上司が知ったから、それを部長に報告したって話。たぶん、異動とかになるんじゃないかな?)


「あの先輩が異動……。まあ、妥当じゃない? ずっと楽してきたんだから、自分で努力するっていうことを覚えるべきなのよ。それで? 話はそれだけ?」


(※えっと……)


「どうして口ごもるの? 私には言えない話?」


(※それは……。その、実は……)


「……はあ、そんな気まずそうにされても困るんだけど。私、その会話直接聞いてたから知ってる。部屋に誘われたんでしょ?」


(※う、うん……。というか、聞いてたって……)


「お兄さんの帰りが遅かったから、迎えに行ったの。そうしたら、上司の人と話してるのが見えたから、話を聞かせてもらったわ。お兄さん、結構デレデレしてたし、付いて行っちゃうんじゃないかって心配だった……。何とか振り切ったみたいだけど、実際のところはどうなの? 誘われて、嬉しかった?」


(※まあ、男としては嬉しいかな)


「……だよ、ね。男なら、美人に誘われたら嬉しくないわけがないよね。体型はスラっとしてたし、胸だって私のより大きかったし、おまけに色気むんむんで優しそうな人だったし……。実際、傍で見ていて思ったけど、あの人は誰に対しても平等な態度を仕事では取ってる。きっと、職場でも人気はある方だと思うし……。分かってる。きっと、これはお兄さんにとってもかなりチャンスだと思うし……。一度誘われたってことは、二度目も誘われるかもしれない……。お兄さんが幸せになること、それが私の願いで、そのためにキスだってしたんだから……。でも、それでも……。お願い! あの人じゃなくて、私のことを一番に思って欲しいの!」


(※ティニー……)


「このタイミングで告白するのは、凄くズルいと思うけど、ズルくたっていいよ。私、お兄さんのことが本気で好きだもん! 私、あの人にお兄さんを取られたくない! 他者の幸せを願うはずの妖精が、自分の幸せを優先するなんていけないことだって分かってるけれど……。でも、私はお兄さんのことが好きなの! もちろん、姿は他の人には見えないから誰にも祝福されることはないと思う。何なら、あの人と関係を持っても良い! でも、お兄さんの一番は私でいたい! だから……!」


(※ティニー、おいで?)


(あなたは手の平でティニーが乗れる足場を顔の目の前に作った)


「う、うん……。じゃあ、お邪魔します……。どうしたの? やっぱり、私じゃ駄目ってことかな?」


(※そうじゃない)


「違うの? なら、何? 私、返事とか待たないからね? 振るなら、今すぐに振って欲しい。これは、完全に私の我儘だって分かってるから」


(※僕はね、ティニー。僕も、ティニーのことが好きなんだ)


「え、お兄さんも私のことが好き……? 嘘、じゃないの?」


(※嘘じゃない)


「でも、どうして? 私、あの人とは違って胸もないし、頭を覆えるほど手が大きくないからよしよしってしても風が撫でるくらいのものだし、他の人に姿は見えないし……。私を好きになっても、変な人って思われるかもよ?」


(※それでもいい。僕を励ましてくれるのは、いつもティニーだから)


「私が、お兄さんを励ましてた? でも、あれは割とごっこっていうか、私が退屈だったから気まぐれみたいな感じてやったところあるし、何ならお兄さんの反応を見て面白がってた気がするんだけど……」


(※それでも、元気をくれたことに変わりはない)


「……っ! お兄さんが、まさか私に元気を貰ってた、なんて思ってくれてたなんて思わなかった……。でも、本当に良いの? 私は優しいから、今なら引き返せるよ? 冗談だって、訂正するならこれが最後のチャンスだよ? 本気にしちゃうよ?」


(※僕は本気だ)


「……分かった。じゃあ、もう本気だから。お兄さんのこと、絶対に誰にも渡してあげないから。だから……。お兄さんの唇、頂いちゃうからね……。じっとしてて、動かないで。んちゅ……。ふふ。何か、小鳥とキスしてるみたいだね。お兄さん、唇だけで私の顔全部覆えちゃうし」


(※でも、祝福のキス何だろう?)


「そうだよ、これは小鳥じゃできない幸せを運ぶキスだから。でも、これからは少しだけ違うかな。お兄さんだけじゃなくて、私も幸せになっちゃうキスだもん。お兄さんは幸せが運ばれて、私も同時に幸せになれるなんて素敵じゃない?」


(※それも少し違うかも)


「少し違う? どこが?」


(※僕は、ティニーにキスしてもらえて既に幸せだ)


「そっか。私にキスされて幸せになっちゃうんだ……。それで満足しちゃうなんて、やっぱり欲が無い人だなって思うけど……。私は、とっても嬉しい! じゃあ、もっと幸せになろう? もっとキスすれば、この先はきっと幸福だらけの人生になるはずだから……。だから、いい?」


(※うん)


「ありがとう……! じゃあ、失礼して……。んちゅ、ちゅ……。ちゅ、ちゅ、んちゅ……。ちゅ……。うわぁ、私の唇の痕が付いてる。ふうん? 姿は見えなくても、ちゃんとした証は付けられるんだ。えへへ、良いこと知っちゃった。ということは、だよ? 私がキスして、私のものですってマークを付けておけば、他の人は寄って来ないってことだよね? ふふ、ならもっとしちゃおう! 唇だけじゃなくて、右の頬っぺたにも……。んちゅ、ちゅ。あとは、左の頬っぺたにも……。ん~~……ちゅ。ちゅ、ちゅ、んちゅ……。このまま、左耳の方にも……。んちゅ。後ろから反対に回って、右耳に……んちゅ。どうしよう、顔中がキスマークだらけになっちゃった。もしかしたら、他の人から見たら虫刺され程度にしか思われないかもしれないけれど……。でも、これが私たちの愛の証だもんね。ねえ、お兄さん。私、お兄さんのことが本当に大好き。お兄さんも、もっと言って? 私のこと、どう思ってる?」


(※好きだ。大好きだ)


「うふふ、ありがとう。お兄さんは、やっぱり素直で、優しくて、とっても素敵な人だ。お兄さん、だ~い好き! えへへ!」


(~~~それから、数日後の夜のこと。ベッドの上で~~~)


「今日も、お仕事お疲れ様。そう言えば、あの先輩が異動になって、担当があの美人上司さんに変わったけど、相変わらずお兄さんへの興味は尽きないみたいだね。敢えて、首筋にキスマークを残して会社に行ったときは、虫刺されって言われちゃったし……。やっぱり、私のサイズ的に人間からしたら愛情表現には足りなかったみたい。でも、お兄さんったら鉄壁のガードで「僕には大事にしたい人がいるので」って断ってくれるの嬉しい! 本当は、いつも肩の上とか頭の上にいるのに、他の人には見えないからしょうがないけど。でもね、最近はあの上司さんに時々、気配を悟られそうになることがあるんだよね。もしかたしたら、あの美人上司さんも良い人で、私が近くをうろちょろしてるから気配を覚えちゃったのかも。見えるようにはならないと思うけれど、もしも見えるようになったらライバルってことになるのかな?」


(※ライバルにはならないよ。僕はティニーが好きだもん)


「そっか、お兄さんは私にぞっこんだからライバル関係にはならないのか。良いこと言うじゃん! 大好き、お兄さん。ちゅ。ふふ、私ってばキスするの癖になっちゃったかも。手を繋ぐのも難しいし、夜伽とかはちょっと無理だし、恋人らしいことって色々とするのが難しいんだけど……。キスは、こんな私でもちゃんとしてあげられる数少ない行為だからなのかも。だから……。ちゅ。ふふ、またしちゃった。私も、お兄さんに凄いメロメロなんだと思う。いや、思うんじゃなくてそうなんだよ。今夜は、そうだな……。愛の言葉を囁きながら、寝てあげる。そうすれば、きっと夢の中でも私に会えると思わない?」


(※そうなると思う)


「でしょ? だから、耳元にもっと近づいて……。じゃあ、行くよ? 好き、好き、好き。お兄さんのこと、好き。一番好き、大好き。私の愛は、お兄さんだけのものだからね。だから、お兄さんはもっと私のこと好きになって、メロメロになってくれていいからね? 大好き、宇宙で一番大好き。すき、すき、すーき、すき、す~~き、大好き。愛してる。格好良くて、真面目で、ちょっと不器用だけど、一途で、私のことが好き過ぎて仕方ないお兄さんが大好き。思わずキスしちゃうくらい大好き。んちゅ。また、しちゃった。好きって気持ちを込めて、今度は……んんちゅ。好き。お兄さん、大好き」


(※……僕も、好き……。すぅ……)


「ふふ、寝ちゃった。お兄さんったら、私を置いて先に夢の中に入っちゃうなんて、いけないんだ。でも、安心して? 私もすぐに追いかけるから。だから、ゆっくりお休みなさい。お兄さん、だ~~いすき。ちゅ」

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