第32話 錬金先輩、メス顔を晒す

ドラゴン徘徊の報を受け、日本は新たに連盟に加入し、資源を渡してなるものかと探索者への課税制度見直しを発表した。


まだまだSランクが活動するには厳しい課税内容だが、それでも緩和を喜んだA〜Bランク探索者が戻ってきたのが大きい。

今まで放置されていたダンジョンに人が入るようになり、資源回収の効率も上がりお互いにWin-Winとなった。


Cランク探索者では到底不可能だったSランク探索者召喚は、Aランク探索者の稼ぎによって果たされた。

Aランク探索者パーティ複数での討伐も可能だったが、目撃したドラゴンが特殊個体であった為、確実に葬り去るために万全を期したようだ。


ドラゴンを葬った報は日本中に瞬く間に広がり、民衆はようやく日本に平和が戻ったと安堵の吐息をついた。


が、連盟加入の皺寄せは日本の運送業全てにダメージを与えた。

それが探索者を相手に商売していた鍛冶屋、製薬会社、魔道具技師の事実上の撤退だ。

日本の変態的な技術力は目を見張るものがあるが、熟練度の差と扱える素材に大きな壁となって立ちはだかる。

そこに割って入ってきた海外のメーカー。

その斡旋業である僕たちは目の敵にされた。


相次ぐ失業者。

日本じゃ商売にならないと悟った腕のある者たちは海外に渡った。

技術の流出だ。今度は探索者じゃなく生産職が海外に飛んだ。


行政はこれにひどく動揺している。

裏で職人と癒着していた議員も多かったのだろう。今まで通りの甘い汁は吸えないと悟って別の手段を考えてるっぽい。


ふざけた名前のふざけた会社の台頭は、市場と政界に大きなダメージを与えていたのだ。無論、僕は知らないよ?

後輩は知ってたっぽいけど。


「一度あげた生活水準って、そうそう下げられないんですよね。中間サービスは全て廃業に追い込まれると思います。これからどんどん荒れますよぉ〜」

「他人事みたいに言うじゃない」

「他人事ですからね。でも誰かがやるべきことだったんですよ。政界に直接メスを入れる事は」

「一般企業が入れていいもんなのかなぁ?」

「無駄な税金を減らすための策ですよ。よく言うじゃないですか、痛みを伴う政治と」

「痛みを負うのは国民だけだったって言うアレでしょ?」

「今回の痛みは議員のサイドビジネスを一網打尽にするタイプのものです。うざったかったんですよね。あれ」


製薬会社に勤めてる時、政界の息のかかった銀行からの出向組に散々嫌味を言われたのを気にしてるらしい。


「ちなみに僕たちも税金を払うの?」


一応日本国で商売をさせてもらってる手前、払うのが義務だろう。


「払いますが、『にゃんにゃんプラント』の所得なんて微々たるものですよ?」

「え、装備とかは?」

「コーディさんの工房からこちらの技術を利用して借りてるだけです。手間賃を含めてこちらにほとんど回ってきません。所得にはなりませんね」

「でもコーディさんにうちの魔道具の利用料は貰ってるんでしょ?」


それは所得だよね?


「そちらは日本の会社となんら関係ないので会社としての利益にはなりませんね。ハワイに籍を置く個人Vとしての収益です」

「あー、そう言う。日本人は、と言うか連盟国は僕たちに大量の資金を投じてると思ってるが、実際会社にお金なんて殆ど残らないと?」

「はい。実売してるバンドエイドとポーションくらいですね、利益なんて。本当に駆け出し探索者ぐらいにしか売れませんし、以降売り上げは落ちていく一方です。赤字一直線ですよ。後は自社製品の維持費です。利用料は免除されるので実質タダみたいに使ってますが、他国がこのサービスを利用するだけで億は動きますね」

「そこは開発者の強みだよなぁ」


上手いやり口だ、と思った。

装備の利用料は『にゃんにゃんプラント』に一切入らず、転送陣を利用した配送業が実態だと述べれば所得なんてあってないものだってすぐに判明する。

行政は僕たちの会社からたんまり税金を掠め取るつもりだろうけど、そもそも稼いでないので振る袖がないと言うやつだ。


「じゃあ一件落着かな?」

「それでですね、海外向けに新しいサービスを考えてまして」


話を締めようとしたところに、やたら食い気味に割り込んでくる後輩。

この興奮具合、絶対に碌な事じゃないぞ?


「一応聞こうか」

「はい、実はですね!」


後輩の話はこうだ。

上位探索者向けに、どうせ装備一式を転送するならそれを一つのアクションと取り入れたらどうだと言う提案。


「まぁ、装備の付け替え機能、マネキンみたいなものかと思えば」

「スタイルの変更には装備の付け替えは必須なところありますし、売れると思うんです。設定した装備を順番に付け替えることによって、こう言う感じになります」


既に売り込む用のプレゼンは出来上がってるようだ。

後輩は腰に巻いたベルトのボタンを押してから右腕の宝石をベルトの中央にある宝石にかざすと即座に周囲に光が舞い上がる。


それは変身だ。一般人からヒーローとなる変身バンクを兼ねての変身。

僕は手に汗握って興奮した。

漆黒の軽鎧を纏う後輩は悪の組織の幹部みたいな出立になった。


「カッコいいじゃない! そう言うのだよ! 今の探索者に求められてるのは! ニチアサの主役的な! いいじゃんいいじゃん! 僕のもあるの?」

「先輩用にはこれですね」


悪の組織の幹部となった後輩はマスクをつけてるので表情がうまく読み取れない。彼女が手渡してきたのはベルトとバングルタイプではなく、ステッキと宝石箱タイプだった。すこぶる嫌な予感がするぞ?


「これを、こうすればいいのか?」


宝石箱を開くと、メロディが流れて一瞬で今来ている服が消え去る。

ショッキングピンクのハートのステッキを振ると、中心の宝石がクルクル回り出す。

全身を彩る虹色の光で細部は見えないが、ほぼ全裸と言っても差し支えないアレだ。ボディ、腕、足、最後に髪と帽子。

髪に至っては帽子とセットになってるのか、普段短いのに急にロングになって驚いた。


「ぎゃー!」

「わぁ、魔法少女ですよ、先輩! 今先輩が魔法少女になったのを確信しました。写メに……ああ、この格好だと撮りにくい。解除!」


後輩は即座に普段のスーツスタイルに戻るなり、懐から慣れた手つきでスマホを取り出すと僕の姿を画像に収めた。連写である。ビデオモードにしないのは何か拘りがありようだ。


「撮るな! 見るなーー!! それ以前に僕は男だーー!!」


酷い目にあった。絶対僕にこのステッキを渡す時、ニチャアって笑ったに違いない。

僕そういう勘鋭いんだからね? 女装してから特にそういう粘っこい視線向けられる事多くなったもん。


「これは没収します!」

「あーん、いけずー」

「女装する時は僕の許可が必要って言ったでしょ!」

「許可さえ取ればいいんですね!」

「やっぱ今の言葉取り消す。自分で設定してない挙動したらすぐに没にするからね!」

「でもこの機能ってきっと売れると思うんですよ」

「そりゃ、装備の付け替えを即座に出来るのは嬉しいけど変身機能まで必要か?」

「テンションが上がります!」

「分からんでもないが……」

「でしょでしょ、だから先輩はこちらのお召し物を着て配信頑張りましょうね」

「いや、この格好は嫌」


後輩はなかなか引き下がらなかったが、業務提携先のトールに話を振ったらめちゃくちゃ食いつかれた。

強い装備って結構厳つい、職人の趣味が入ることが多いから、既存のヒーローとコラボすれば子供達の人気も獲得出来るとはしゃいでいた。


いや、お前の場合は性格の問題だから。

見た目を整えたところで評価は変わらないと思う。


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【利用してる?】上級探索者専門スレ【転送サービス】

001.セヴィオ【フランス】

 ここは日本の研究者『槍込聖』こと先輩の打ち立てた技術、転送陣によって変わったダンジョンでの出来事を語ってくところだ。

 純粋に金がなくて買えなかった装備が破格でレンタルできるのはいつ見ても頭おかしい

 とても助かるって意味でな

 買い付けるにしたってどんなもんか性能を見てみたいからレンタルは助かるよ


002.アメリア【アメリカ】

 センパイを理解しようとしたらダメ

 可愛くてすごいことを認めるだけでいい


003.キング【イギリス】

 あいつはすごいしかわいいが、一応男だから

 本人もそれを望んでるから一応汲んでやれ


004.トール【パリ】

 この連盟で一番旨い思いをしてるのはコーディっすよね?


005.ロギン【ヨーロッパ】

 そうでもないぞ?

 ウチの鍛治連は錬成すんのも骨で、親方自ら仕上げてるからアホみたいな手数料かかるって言ってた

 弟子たちが手をつけられるようになったら気持ち値下がりすんのかね?


006.アメリア【アメリカ】

 熟練度が満たないとそもそも成功率低いんじゃないっけ?


007.キング【イギリス】

 製作はそうでもない

 成功率をお祈りするのはコア強化の方

 そっちは先輩がやってくれるらしい

 片手間で仕上げるから毎回鍛治連が頭抱えてるらしいな


008.トール【パリ】

 他人事っすねぇ


009.ゼキス【イングランド】

 実際他人事だろう?

 それより聞いたか、イエローカラー

 NNPが新作出すって話だ


010.ガイウス【オーストリア】

 聞いた聞いた。マネキン機能だろ?

 装備をセットしていつでも着せ替えができるようだ

 パワータイプか持久タイプかでスタイル変える前衛にもってこいだ


011.トール【パリ】

 ロマンが無いっすね、ガイは

 アレは変身ヒーローになって民衆から喝采を浴びるためのモノっすよ?


012.キング【イギリス】

 やけに詳しいな、お前

 もしかして事前に話行ってたか?


013.ゼキス【イングランド】

 変身ヒーローっていうのはなんなんだ?


014.アメリア【アメリカ】

 マーヴェルみたいなものかしら?


015.ロギン【ヨーロッパ】

 スパイディみたいな奴か?

 ヒーローというよりはクリーチャーにならないか不安だ


016.トール【パリ】

 実際に変身してみた姿がコレっす

 【映像】


017.アメリア【アメリカ】

 一瞬で、ではなくモーションが凝ってるのね

 でもいちいちそれをやるのは戦闘中に隙を作らない?


018.キング【イギリス】

 あのボマーがそんな無駄な機能をつけるか?

 きっとその機能はON/OFF出来るだろう

 問題は何種類の装備をセットできるかだな

 予備の追加も可能なら荷物が少なくて済む


019.ゼキス【イングランド】

 今やマジックバックを共有できる時代だろう?

 荷物の心配をするのなんてお前くらいだろう


020.ガイウス【オーストリア】

 多分キングの懸念は装備で場所をとりたくないって意味だろ

 素材の解体でも場所取るから仕分けも込みで荷物を減らしたいんだろ


021.ロギン【ヨーロッパ】

 ジャップは肝心なところで財布の紐が硬いな

 それで飯食ってんだろ?

 金のかけどきだぜ?


022.トール【パリ】

 キングは几帳面っすからね

 無駄は省きたいんすよ

 ただでさえ土地が高いっすからね

 本当ならそれに頼らずに済ませたいまで考えてるっすよ

 日本で荷物持ちだった感覚が抜けてないんす


023.セヴィオ【ヨーロッパ】

 分かんないねぇ、タンクは必要なロールだろ?

 ジャパンはそれを軽視する

 どんな思考してたらランクをハブにするんだ?


024.ガイウス【オーストリア】

 ジャパンはサムライの国だからな

 死なば諸共の精神でいく脳筋が多いんだ


025.トール【パリ】

 ブーメランっすよ、ガイ


026.カシム【インド】

 お前も人のことは言えんだろうに

 しかしアレだな

 転送陣の登場でダンジョンは一つのレジャーに変貌しつつある

 変身ベルトだっけか?

 これが流行れば子供が遊び感覚でダンジョンに潜るぞ?

 我々が出回る前に法整備するべきことではないのかね?


027.セヴィオ【ヨーロッパ】

 どれだけ未来見据えてんだお前は

 こんなの商売にできるのはSランク以上だろうに

 一般市民に渡るのはもっと後だよ

 それよかインド方面にSSランクダンジョンが出たって話は本当か?


028.カシム【インド】

 耳が早いな

 上層部で誰を派遣させるか揉めに揉めてるよ

 俺には少し荷が勝ちすぎる

 ワシントンで持ち帰った資源の量に惑わされて危険度を無視してるところがある

 実際潜った奴らの意見が聞きたいな


029.アメリア【アメリカ】

 センパイとのコラボがなければ中層で引き返すのが賢明


030.キング【イギリス】

 上に同じく

 ボマーの装備の有無では中層で全滅もあり得る

 コーディの装備じゃアレには至れないからな

 配信中では点数形式で評価されたが

 ボマーの性能がおかしいだけで参加者の武具の性能は普通に最高水準だった


031.トール【パリ】

 アメリアちゃんとキングに全く同意っす

 最終的にボスまで討伐できたのは模造ヒヒイロカネの槍でハメられたのが大きいっす

 アレの有無で攻略難易度が大きく変わるくらいにはオーパーツっすよアレ

 封印指定も残当っすね


032.アメリア【アメリカ】

 バトルウェーブには実装させたのよね?

 評価はどうなの?


033.カシム【インド】

 全く参考にならないというのがよくわかった

 ヨシ、俺は数日行方をくらませるかな

 それかボマー? とコラボのお誘いが来るのを待つ


034.アメリア【アメリカ】

 センパイ人見知りするから知らない人とは関わり合いにならないと思う


035.カシム【インド】

 インド終わった


036.トール【パリ】

 バトルウェーブ上ではまだ誰もレシピ解明してないのでオーパーツ扱いっすね

 でも配信と絡めばワンチャンあるかも?

 インドが全面的にボマーと協力すればっすけど

 あの人まだまだ隠し球持ってそうなんすよね


037.セヴィオ【ヨーロッパ】

 でもインドだけじゃないんだろ、SS認定ダンジョンの出現って


038.キング【イギリス】

 怖いこと言うなよ

 日本でもCランクからドラゴンが出たって聞いた時は気が気じゃなかったが


039.ゼキス【イングランド】

 世界の終わりが近づいてるってか?

 あんなもん、歴史家のいつもの法螺だろ

 お家芸だよ

 歴史の節目にゃ騒ぎたがるんだから病気だよ。


040.ガイウス【オーストリア】

 一応気にしとけってことだろう

 ボマーだって毎回手を貸してくれるわけじゃない


041.アメリア【アメリカ】

 センパイはもう十分アタシ達の道は示してくれたよ

 これをどう使うかはアタシ達次第でしょ?


042.セヴィオ【ヨーロッパ】

 まぁな


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「へっくち」

「リコさん、風邪ですか?」

「いや、そんなことはないぞ?」


誰かが僕の噂をしてるのだろう。

何かと噂の中心人物である自覚がある。


「それより秋生、久しぶりの配信だし緊張してない?」

「大丈夫です。お休み中は普通に中学に通ってましたから」

「まだ中学生だったもんな」

「リコさんもですよね?」

「?」

「アレ? 違いました?」

「僕は前述したようにおじさんだぞ?」

「いやいや、そこまで卑下する必要ないですって」


文字通りの意味で言うのだが、秋生は違う意味で納得したように頷く。

なんなら君のお父さんと同級生だぞ? そう述べてもいいがそれは僕のショックが大きいので忘れる事にした。

まるで僕が男であることを否定するかのような態度だ。


「まあいいや。同級生とは仲良くやれてる?」

「はい。病欠扱いだったので顔を見せたらすごく心配されました。欠席理由は告げてたはずなんですが、先生が病弱だからと同級生に伝えてたみたいで」

「いつでも学業に復帰できるようにか?」

「僕の意思は固いので。でもその気遣いはありがたかったですね」


わかる。退路を絶たれちゃうと自由度って制限されちゃうからね。

僕はそうだったので探索者一本で行こうとする秋生に退路が残されてて一安心だ。

自分の子供くらい歳の離れた子供との会話は難しいが、孤独な戦いになら少し気持ちがわかってあげられるからね。


今日はいつも以上に秋生に入れ込んで配信した。

何故かそれをメスの顔と揶揄されたのだけはいまだに納得できていない。


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お読みいただきありがとうございます。

作者の双葉です。

なんと今話で拙作の文字数が20万字に到達しました!


平均一話あたり2000字のカクヨム作品で見たらおおよそ100話相当だとお聞きしてます。すごいですねー。まだ投稿初めて一ヶ月くらいなのに。


よく頑張った。まだまだ頑張れとおっしゃってくれる方は★などで応援してくれると嬉しいです。


すでに星はつけたぞ、と言う方はフォロー、ハートでの応援で先輩へのわからせパターンが増えていきますぞ!


まだまだ始まったばかりの二章。今後ともお楽しみに!

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