第14話 錬金先輩、ゲーム配信する
アメリアさんとオフで会うには距離というなかなか詰められない問題が立ちはだかったので、取り敢えずチャンネル同士で何か雑談しながらゲームでもしようということになった。
残念なことに僕の苦手分野だ。ものづくりゲームならたくさんやり込んだけど、アメリアさんは絶対やらなそうだもんなぁ。
ゲームと一つに括っても、ジャンルによっては得意、不得意が出てくるものである。
そんな中で挙げられたタイトルは、当然僕の知らないものだった。
『バトルウェーブ?』
『そう。ジョブごとに分かれたキャラクターを選んでウェーブごとに突っ込んでくる敵を倒していくタワーディフェンスだって。最近探索者育成ゲームとして頭角を表しているらしいのよ』
まるで説明書でも読んだかのような言わされてる感。
彼女の言葉には違いないのだけど、これはバックに誰か居るな?
話の流れの性急さもさることながら、現役探索者の彼女の口からゲームだなんて言葉が出てくるのもおかしいもんね。
まぁ、僕と一緒に何かできるか? って言われたらせっかくコラボするんだし雑談だけで終わらせるのは勿体無い。ならゲームでもどう? となるのは配信者としては結構頻繁にあるようだよ?
僕はそこら辺あんまり詳しくないんだけど。
『へぇ、誰の受け売り?』
『やっぱり気づく? トールよ。これでお誘いしろって言われたの』
『トールがね、彼がそんな気遣いできるタイプだとは知らなかった』
『そう? あの人結構外面は良いのよ? 基本的にサポーターだからか波風立てない生き方なのかもしれないけど』
言われてるよ、トール?
『あはは、あの人も結構苦労人だねぇ』
『センパイも苦労した?』
『どうかなぁ? 僕の苦労は人付き合いの悪さが目立つから』
『人付き合い?』
僕はアメリアさんに自身の要領の悪さを説いた。
彼女も思うところがあるのか、僕の悩みに仕切りに相槌を打つ。
意外なことに接点がいくつもあった。
彼女はバトルジャンキーで、僕は錬金術ジャンキー。
お互いに一度集中したら先へ先へ気が向いてしまう傾向にある。
そんな似たもの同士だから、きっと一緒に遊んだら楽しいに違いない。
そう結論づけてアメリアさんは誘ってくるのだ。
『で、どう?』
お誘いの言葉を、僕は快諾しながら決行日の段取りを決める。
流石に今日の今日で配信するには僕の方の不手際が目立つ。
何せ僕にはブランクがある。ゲームで遊んだのなんて中学生の時以来だ。
『やりましょう、先輩』
『いや、僕このゲーム未プレイだよ? そもそもゲームのプレイ自体、中学生以来だ。ブランクがすごいけど? 迷惑かけまくるよ?』
『それが良いんです! 先輩は何でもかんでも高得点を狙い過ぎです。所詮はゲームですし、失敗したって大丈夫。そう思いましょ?』
後輩に宥められて納得できないながらも許諾した。
普段僕の発言はヘイトが強いらしく、ここらで苦手分野をあらわにすることでとっつきやすさをリスナーに公開すべきだ。だなんて言われる。
いや、最悪僕は良いんだよ?
ただ負けず嫌いなアメリアさんがそれで納得するかだけが心配だ。
告知を挟み、コラボの延長として雑談を挟みつつのゲーム実況配信を始める。
「どーもー、先輩だよ!」
「後輩です」
「アメリアだぞー!」
順番に画面にキャラが登場して挨拶をする。
こっちで翻訳を挟んでの登場なので、アメリアさんは流暢な日本語を喋った。
後輩は相変わらず壁の中に埋まってる。最早壁そのものが後輩のキャラとなっている。
もうずっとそのキャラで行くつもりか?
僕の格好は動きやすいルームウェアになっていた。
ちょっと女児向けっぽいのさえ気にかけなければドレスより全然マシだ。
足元がスースーする感覚があるわけではないが、気恥ずかしさってのはどうしても出る。特に今回は雑談以外のこともするのでミスにだって繋がりかねない。そんな懸念が募る。
<コメント>
:やんや、やんや
:きtらぁああああああ!
:きちゃ!
:わこつーー
:あれ? 今日は雑談配信ですか?
:《キング》ちょ、次は毛生え薬のレシピ出すって言ってただろ!
:キング必死過ぎ
:すっかりスキンヘッドが似合う男になったよな
:最初は笑ってたけど、もうそれが定着しつつあるから
:良い加減諦めろ
:アメリアちゃん! コラボ延長!?
:すっかり部屋着まで用意されて……
:後輩ちゃんに弄ばれてるなぁ
:どう見ても姉妹です。本当にありがとうございました
:ゲーム配信、このチャンネルとは縁遠いと思ってた
コメントからはゲームとは縁遠いなどの指摘が入る。僕もそう思うよ。
後輩とはずっと錬金術のレシピで語り合うものだと思ってたから。
「ちなみに僕はこのゲーム初めてやるんだよね。開発にトールが携わってるらしく、今をときめく駆け出し探索者がこぞって遊んでるらしいんだが、知ってる人いる?」
<コメント>
:BWかな
:MWかもよ?
:ウェーブシリーズなのは確か
:初代がモンスターパニック、次世代がスタンピード
:ダンジョンからモンスターが溢れる前提のタワーディフェンス
:え、先輩バトルウェーブやんの?
「有名なの? 僕ゲームで遊ぶの17年ぶりだけど大丈夫かな?」
<コメント>
:これはダメかもしれませんね
:諦めるな、ワンチャン遊んでたゲームのタイトルで反射神経が鍛えられてるかもだろ?
:ちなみにどんな作品で遊んでたとかお聞きしても?
「アトリエシリーズって知ってる? 錬金術師の卵がお店開きながらダンジョン探索者と一緒に魔王倒すの」
:はい、ゲームオーバー確定
:RPGやんけ!
:17年前だもんなぁ
:テレビ接続型のコントローラータイプで草
:今は脳波コントロールのVRが主流ですけど大丈夫ですか?
「無理そう。いろいろコメントで教えてくれる? きっとアメリアさんはガンガン先に行くと思うから。僕も足は引っ張りたくないからさ」
<コメント>
:先輩この時以外に素直
:かわいい
:¥50,000/くそ、俺を惑わすな!
:こうやって普通にお願いされると弱いな
:嘘だぞ、きっとすぐに錬金術師の本性が出る
:錬金術師の本性ってなんだよwww
:どっちにしろ、アメリアちゃんの機嫌を取れるかどうかは先輩と俺たち次第だ
:責任重くて吐きそう
:アメリアちゃんがあまり先に進みませんように
それから五分後。
ウェーブ1〜3は良かった。
モンスターを倒すとドロップ品が出る。
生産職はそれを加工して武器の強化、防具の強化、ポーションなどの様々な薬品を作れるようになる。
戦闘職はたまにドロップした武器を拾って戦闘を有利に進めるのだが、当然拾い物だけでやっていけるものではない。
ウェーブが進むごとにモンスターの種類も変わり、強く狡猾になっていくのだ。
だが悩まされるのは生産職も同じこと。
作れるものによっては素材が重複してるので常に何を作るかで戦闘を攻撃、守り、回復重視のどれかを選ばされた。
脳筋なアメリアさんは武器の強化さえしとけば勝手に無双してくれる。
序盤こそそう思って進めるとウェーブが進むごとに詰む。そう言う作りになっていた。
<コメント>
:あー、あそこで防具選んでれば!
:アメリアちゃん、多勢に無勢だぞ
:それでも負けじと無双してんの草
:武器のスペック以上の力出さないでもろて
ゲームである以上、パワーバランスというものがある。
ウェーブ5からは遠距離武器の弓や魔法などが飛んでくる。
いかにやられる前にやるアメリアさんであろうとも多勢に無勢という言葉が当てはまる。
武器とポーションだけで回らなくなってきたのだ。
どう考えても二人プレイでの限界を感じる。
それでもアメリアさんは止まらなかった。
<コメント>
:アメリアちゃん、新しいポーションよ!
:これ生産にもクールタイムついてるの鬼だよな
:あーっと、ゴブリン達が細切れに!
:アメリアちゃんもレベルアップしてるしな!
:先輩もよく頑張ってる
:プレイに慣れるまで凡ミスで素材ゴミにしてたのが嘘のようだぜ
ゲーム内では僕の生産慣れしてない時のミスが今に響いてるだなんて指摘を受ける。そのミスをカバーするようにアドバイスして欲しいのに、みんな好き勝手言うんだもん。やるせないよね。
そしてモンスターを全滅させる事に資金にボーナスが入る。
生産も資金次第でやれることが縛られるからこのボーナスは嬉しいのだ。
最初こそ苦手意識の強かったプレイも、気がつけばすっかりのめり込んでいる。
アメリアさんの戦闘スタイルは切り込んでからの離脱。
高い敏捷力を駆使したヒットアンドアウェイだ。
なのでどうしても防具の強化が後回しになってしまうが、今回ドロップしたリザード革の胸当ては重さを感じず丈夫さが目立つ。
いつもの鉄材はゴミ処理して至近に替えてたが、これは使えそうだと早速強化。
アメリアさんの防御力を+50にした。
今まで防御力15でよく戦ってたと思う。相手が一般人なら無理ゲーと叫ばれててもおかしくないだろう。
Sランク探索者ってみんなこれくらいアグレッシブなんだろうか? 日本人3人組からは全く想像できない。
それはさておき、今回用意できたのは防具強化だけにあらず。
当然扱いやすい、投擲武器も用意する。
炸裂玉擬きだ。クールタイムは武器強化、防具強化、アイテム作成、薬品開発ごとに決められていて、同時に進行できる。
それを逆手にとっての開発だ。
ゴミ素材は腐るほどあったので組み合わせで遊ぶ手間はかかったが、クールタイムが開けるのを待っていた甲斐があった。
このゲーム、レシピの類は一切なく、アイテムの詳細を見てどうなるかの方向性が決まるのだ。
その上で時間ごとに襲ってくるモンスターを捌きながら、プレイヤーの強化を測るシビアさまで内包している。
本当にダンジョンからモンスターが溢れてくる悲惨さを追体験しているかのような緊迫感があるのだ。
ウェーブ事に準備期間が短いと感じる時さえある。
<コメント>
:炸裂玉!?
:炸裂玉くんつっよ!
:オーガ君爆殺したぞ!
:実際には爆殺どころじゃない件
:これで坂の上から無双できるな!
「出来ないよ。素材調達が序盤に偏り過ぎてる。もっと早くレシピ知りたかった。なんで教えてくれないのさ!」
<コメント>
:現実見せないでもろて
:先輩さぁ
:未発見レシピなんだよなぁ
:BWでそんなアイテム作れたんだ?
:ほらー、アメリアちゃん困り顔だぞ?
:先輩宥めてあげて
:さっきまでの優位性が急に消し飛んで草
:普通は投擲槍とか、投げナイフが出来るはずなんよ
:上位錬金術師に任せるとこんな危険物ができるんか!
:トール、今日に合わせて仕込んだな?
:ありうる
:あり得る
:じゃあ先輩の錬金アイテムも作れる可能性が?
:序盤のアイテムでこれを!?
:ゲームバランス壊れるわ
まさかそんなわけ……
<コメント>
:ホワイトスライムからところてんドロップしたぞwww
:快癒湿布を作れと言う流れだ!
:これは俺の知ってるBWではないですねぇ
:待って、これ制作難易度と熟練度無視して作れるってことは神調整じゃね?
:やっぱり今日に向けたコラボ用の仕掛けじゃないか!
:待て! 実際のBWにも期間限定のイベントとして実装されたっぽい!
:草草の草
:ふぁー、ここまでやるんかライトニング!
ライトニングというのはトールのところの子会社らしく、そこで開発と運営も手掛けてるらしい。
両方やれてるからこそ、こんなタイミングで僕に都合のいいレシピが出てきたのか。それを先に教えて欲しかったな。
<コメント>
:カチカチスライム君つええ!
:簡易バリケードとして優秀すぎる!
:そこへ〜?
:炸裂玉で一網打尽だぜ!
:ヒャアア、ンギモヂィイイイ!!
:超☆エキサイティング!
:おいこれ、本当にウェーブ10か?
:最終局面の筈が地獄絵図ですよ
:俺の知ってるBWじゃないのは確か
:もうアドバイスのしようがないくらいの無双で草
:理想すぎるタッグだわ
僕の遊びで作ったレシピが、まさか現実で活躍したどころかゲームにまで実装されるなんて思いもしなかった。
トールの系列会社だというからもっと悪用されると思ったけど、ゲーム内ではゲームとしての機能を持たせるだけにとどめていたので戦略の幅が広がる広がる。
もう武器や防具の強化も忘れて未公開レシピ物も作ってやろうと夢中になったが、流石にそれらは作れなかった。
そりゃ公開してなきゃどんなものまでかはわからないか。
トールも実装して欲しけりゃ自分のところに優先順位を高くしろと言わんばかりである。まぁそれくらいで優先順位は上げないけど、物によっては上げちゃっていいかな? というのはいくつもあるのでそれは検討しておこうか。
<コメント>
:おい、エンディングだぞ泣けよ
:ノーマルエンドです、これ
:次はハードですかね?
:ハードは人数と攻撃力が増すから二人じゃきつい
:さっきの錬金術無双を見てまだそう思えるんか?
:実際にハードプレイヤーはパーティ組んで挑むよ
:エアプが口出すな
:BWは遊びじゃないからな
:デスマーチなんかはウェーブ時間がさらに短くなってドロップも渋くなるから
:マジの地獄じゃん
:推奨人数30人は伊達じゃない
:ノーマルでも最低6人なんですが、それは
:推奨と最低は実力によって決まる
「次はハードやろ、ハード!」
「しょうがないにゃあ」
まだまだ遊び足りないぞ! というアメリアさんに押されて僕はハードを選択する。まぁ分かってたけど忙しさはノーマルの比じゃないよね。
<コメント>
:¥10,000/尊い
:¥20,000/ご馳走様です
:もう姉妹のやりとりなんですわ
:どっちがお姉ちゃんですか?
どっちかだなんて決まってるだろ!
いや待て、僕は男で年上だからお兄ちゃんの筈では?
なんでお姉ちゃんか妹ちゃんかの二択なんだ!
質問そのものが歪んでるぞ!
「センパイがお姉ちゃんだぞ?」
「うえぇ、なんで!?」
「じゃあ妹やる? アタシお姉ちゃんでもいいぞ?」
「なんで僕を男あつかいしてくれないんだよぉお!」
<コメント>
:その格好じゃ無理
:かわいい
:声まで女の子なんだよなぁ
:実は性自認男なだけの女の子なのでは?
:ああ、今流行りのLGBTQ
「ちゃうわ!」
「先輩、役づくり忘れてますよ?」
「僕は僕だろ?」
「今は先輩ちゃんという女の子なので、女性用下着も着用してます。ドレスだって似合ってましたよ?」
<コメント>
:後輩ちゃんの策略だった
:ならお姉ちゃんでええやないか
:Vに中の人なんていませんよ
:実際に美少女の側で声だけおじさんとかそこら辺にいる
:猫耳つけといて今さら男アピールしても遅いぞ
「ぬぐわぁあああ!」
結局僕は妹ポジションに落ち着いた。
ゲームの方は12ウェーブまで勝ち進んだが、コメント返しでダメージを蓄積して自滅。
もう二度とこれで遊ぶか! と誓うが、意外なことにこの配信を皮切りにトレンド入り。ニッチな業界から瞬く間に全世界に広がり、僕のレシピも共に産業革命の発展に大きく貢献することになった。
「先輩、またニュースで取り上げられてますよ!」
「取材受けてないんだよなぁ」
「私が素材の提供をしました! バッチリかわいい姿をピックアップしてます」
「もうやだぁあああ!」
その後一週間、配信を休んだ。メンタルの回復に努めるまで錬金術にそりゃもうハマったよね。僕がメンタルを回復してる間に何やら日本側で事件があったらしいけど、よく知らないや。
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