第10話 錬金先輩、スパチャを解禁する
【激アツ!】先輩と後輩の錬金チャンネルを語るスレ【レシピ公開】
001.ナナシの錬金術師
さぁ、いよいよ公開されました『むくみ取りポーション』
価格高騰の波を受けて模倣品もたくさん出てきましたね!
なんの価値もない偽物まで出回ってさぁ大変!
しかし我らが先輩がそんな圧力に屈するものか!
簡単にレシピの公開だぁ!
むしろここまで高騰するのを待ってたかのような歓迎っぷり!
立ちはだかる制作難易度【50】の壁。
まるで料理番組みたいな錬金法!
みんなもう作った?
製作難易度【50】
<超濃縮ポーション(ポーション×50【下級融合】)>1
<超濃縮アロエシロップ(アロエ×50【下級融合】)>1
煮卵(下級融合中の先輩のおやつ)20
002 .ナナシの錬金術師
まじで料理番組だった件
003 .ナナシの錬金術師
なんら焦った様子もなく、むしろ爆増したチャンネル登録数にビビってたもんな先輩
004 .ナナシの錬金術師
相変わらずノーリスクで作る手際の良さ
俺でなきゃ見逃しちゃうね
005 .ナナシの錬金術師
煮卵全く関係ない件
006 .ナナシの錬金術師
襲いくる連続下級融合の罠
こりゃ中間素材だけでも利益出せそうだ
007 .ナナシの錬金術師
煮卵必要ある?
食べてる先輩可愛かったけどさ
008 .ナナシの錬金術師
これ、前の配当で錬金窯当たった人幸運だろ
009 .ナナシの錬金術師
それな
010 .ナナシの錬金術師
いや、普通に高い集中力を得られるガンギマリポーションの方が有能
あれ本当にハイスペックになれるから
魔材よりやばい性能してるぞ
011 .ナナシの錬金術師
それ本当に合法?
あとガンギマリじゃなくて、眼精疲労な?
012 .ナナシの錬金術師
俺は妥当に煮卵販売するかなぁ
下級融合のお供にって添えて
013 .ナナシの錬金術師
目的見失ってて草
014 .ナナシの錬金術師
超濃縮アロエシロップ完成!
色がすげー不穏だけどこれで大丈夫?
【画像】
015 .ナナシの錬金術師
低品質乙
016 .ナナシの錬金術師
あたしも超濃縮ポーションできたけど、先輩のと比べられない
【画像】
017 .ナナシの錬金術師
圧倒的透明度不足かなぁ?
これ、実際に出回っても先輩の高品質に劣るから性能も段違いになるんじゃね?
018 .ナナシの錬金術師
品質格差は今後ありそうだな
あくまでも先輩のむくみ取りポーションの品質が今の2000万相当で、そこから落ちていく感じだろうと予測される
019 .ナナシの錬金術師
ちなみに先輩の品質は?
020 .ナナシの錬金術師
まごうことなきSだぞ?
Sランク探索者にタメ口聞く実力持ってるんだよなぁ、先輩
021 .ナナシの錬金術師
抽選品全部Sとか頭おかしいって!
022 .ナナシの錬金術師
どうして今まで無名だったんだ?
023 .ナナシの錬金術師
どうしても何も、普通にVだし本名明かしてないから知らないだけだぞ
024 .ナナシの錬金術師
実際料理番組形式のレシピ公開でこれだけ認知されたから知られたのもあるよ
025 .ナナシの錬金術師
本当に熟練度320なんだなぁ、一体どんなスキル持ってんのか逆に気になる
俺らが総じて失敗してる下級融合以上のものを持ってる可能性はある
026 .ナナシの錬金術師
上級融合がもしあるとして、成功率幾つだ?
027 .ナナシの錬金術師
先輩の事だから5%でも勝負するだろ
028 .ナナシの錬金術師
それなー
錬金界隈でも『ゴミオブゴミ』と称されてるくらいだ
それを多用して出来上がった品々のレパートリーの数を考えたら1%でも勝負するぞ、あの人
029 .ナナシの錬金術師
なんでVなんてやってるんだろうなぁ
030 .ナナシの錬金術師
おおかた、後輩ちゃんの道楽だろう
先輩、前の会社クビになったって言ってたし
031 .ナナシの錬金術師
あの実力でクビになるってどんな会社だよ?
032 .ナナシの錬金術師
さぁ? 先輩あんな感じだし、要領いい連中に扱き使われてたんじゃね?
033 .ナナシの錬金術師
それを後輩ちゃんがVに誘って救ったってわけね
なるほど
034 .ナナシの錬金術師
隙あらば錬金術ばかりしてるイメージでいまだに錬金術大好きっ子が、会社に勤められてた今までがバグだったんだよ
035 .ナナシの錬金術師
あー、わかる
大量生産に向いてなさそうな性格してるもんな
常に新しいもの作りたい探究心の塊だし
036 .ナナシの錬金術師
俺としてはあの見た目で実年齢32歳の青年男性という方が脳がバグるんだが
037 .ナナシの錬金術師
声は普通に可愛いだろ?
性格が手に負えないから見た目だけでもカバーしたんだと思う
038 .ナナシの錬金術師
お前ら先輩の解釈たけーな
普通に可愛い錬金術師が駆け出し錬金術師を救ってるでいいじゃんか
039 .ナナシの錬金術師
レシピに集るファンより、半分くらいそっちのファンが多いけどな
040 .ナナシの錬金術師
お陰で変なガチ恋勢が湧いて迷惑だよ
041 .ナナシの錬金術師
こんなに売れてちゃコラボとかもしないだろうし、個人としても起業できると思うが、今後どうするんだろ?
金欲しさにVする連中が多い中、ああまで潤ってちゃな
042 .ナナシの錬金術師
いや、儲かってるか? あのチャンネル
043 .ナナシの錬金術師
え、むくみ取りポーションの相場は2000万だし儲かってるだろ?
044 .ナナシの錬金術師
何言ってんだ? あの人達一度たりともむくみ取りポーションを販売してないんだぜ?
口コミで広がって、瞬く間に高騰したけど、それは転売の値段であって、あの人達には一円も入ってないんだよ
045 .ナナシの錬金術師
あ、そうじゃん
あれ転売の値段か!
046 .ナナシの錬金術師
特許は取ってあるから、同じレシピと同じ名前、同じ品質で売ると何割かは持ってかれるからそれでようやくって感じか
047 .ナナシの錬金術師
先輩達のレシピ以外で同じ品質作れるの本人たちだけじゃね?
つまり一銭も入ってこないまである
048 .ナナシの錬金術師
普通にグッズのところで売ればいいのにな
049 .ナナシの錬金術師
それをしないのは俺たちのためだろうな
050 .ナナシの錬金術師
なんで?
051 .ナナシの錬金術師
そりゃ俺たちの成長を促すのがあのチャンネルの本来の目的だからだよ
先人として、いろんな企業へ入りやすくしてるんだと思う
実際にどこの企業も高い熟練度を欲してるだろ?
リスナーの中には大手企業の研究員だって複数いるし
052 .ナナシの錬金術師
金の為だけじゃないってか
まぁあんな武器配当する時点で頭おかしいもんな
053 .ナナシの錬金術師
あれを10万人達成記念で配ろうとする人だぞ?
あの人にとって、むくみ取りポーションがいかにちっぽけなものか俺らは想像力が足りてない
054 .ナナシの錬金術師
草
055 .ナナシの錬金術師
でも実際に配布されたのは750万人記念配信だったろ?
056 .ナナシの錬金術師
その前の配信で錬金術師協会からマークされたからだろうな
多分ダンジョン協会や探索者連合組合からもマークされてる
そりゃダンジョン産のアイテムを家庭の食材から錬金したらおまんまの食い上げだし
実際に高騰してたそれらの素材の価格が低下したし
057 .ナナシの錬金術師
価値そのものは下がってないはずなんだが
そもそも錬金術で簡単に作れるのはあの人たちだけで、俺らは5%の確率を越えなきゃならねーんだが
058 .ナナシの錬金術師
上はそうは捉えないんだろうな
そのレシピが公開された、実際に作れる
それが知れ渡った時点で不変だったダンジョン素材の価値が玉こんにゃくに抜き去られた
059 .ナナシの錬金術師
考えすぎで草
先輩達は高騰し続ける素材を無理して入手しなくても良いように気を使ってレシピ公開してくれたんだろ?
それらの素材そのものは今まで通りに錬金で使えるんだからいいじゃんか
誰も損はしてないだろ?
060 .ナナシの錬金術師
損してる奴は出てるんだよなぁ
061 .ナナシの錬金術師
誰?
062 .ナナシの錬金術師
中間素材で飯食ってた奴ら
063 .ナナシの錬金術師
害悪業者は消えて、どうぞ
064 .ナナシの錬金術師
そう考えると、駆け出しほどそう言う連中に食い物にされてたんだなって
065 .ナナシの錬金術師
ざまあされてるだけなんだよなぁ
錬金素材としての価値は変わってないだろうに
066 .ナナシの錬金術師
そう考えるとレシピに集ってる俺らもその害悪業者と同じようなことしてる気がしてな
067 .ナナシの錬金術師
あー、俺たちレシピによって熟練度あげたはいいものの、なんのお礼もしてないもんな
課金させろ!
068 .ナナシの錬金術師
先輩達、古参みたいな顔して駆け出しだもんな
スパチャの選定もそろそろじゃないか?
069 .ナナシの錬金術師
登録者6000万人も居てスパチャ解禁されてないの草なんよ
070 .ナナシの錬金術師
サクラ使っても達成できない人数だしな>>6000万人
071 .ナナシの錬金術師
ほぼ美容関係だろ、5000万人くらい
072 .ナナシの錬金術師
500万人はファン
1000万人は錬金術師
1500万人は探索者
3000万人が美容関係って言われてるぞ
073 .ナナシの錬金術師
こう見るとあのチャンネルのファンってすくねーな
074 .ナナシの錬金術師
十分多い件
他の数字がバグってるから、見劣りするだけ
075 .ナナシの錬金術師
お、言ってる側からスパチャ解禁配信やるみたいだ
076 .ナナシの錬金術師
先輩の挨拶、毎回チャンネル登録者数で草
077 .ナナシの錬金術師
そりゃ普通にビビるって
たった10回の配信でここまで伸びたら誰だってそうよ
078 .ナナシの錬金術師
投げゼニ解禁されたと同時に高額お布施投下されてる
大体が同業者かな?
079 .ナナシの錬金術師
中には予約したいというお気持ち表明してる海外勢も多いぞ
080 .ナナシの錬金術師
純粋なファンは衣装代と称して赤スパ投げてる
081 .ナナシの錬金術師
あ、先輩がダメージ受けてる!
082 .ナナシの錬金術師
恒例の
083 .ナナシの錬金術師
自分の首を絞めてて草
084 .ナナシの錬金術師
後輩ちゃんの策略なんだよなぁ
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「え、スーパーチャット?」
後輩から突然そんな提案を受けて素っ頓狂な声を上げる。
無論、僕も経験してるからその名前くらいは知ってる。
かつて後輩が大手製薬の広告等として配信者をやってる時、『癒し(5万)』の赤スパニキだった頃からの伝統芸だ。
「はい。私達投稿開始してから1ヶ月経つので、解禁して貰いました」
「え、もうそんな経ったっけ?」
「間におやすみ挟みましたからねー」
「あー」
肌を焼いてワイルドさを増してもナンパされまくった苦い思い出が蘇る。
まぁ真っ赤になった挙句、肌は焼けなかったんだけどね。皮はツルッと剥けた。
ゆで卵かよ。
「あ、先輩見てください」
「なに?」
「煮卵がトレンド入りしてます」
「美味しいもんね、当然」
僕はとあるメーカーの煮卵が好きだ。
しかし海外で暮らしてる手前、自作する事でしか口に運べない。
そこで前回の配信でおやつとして食べてみたところ、謝礼を送りつけられたのだ。その会社から真空パックに入れられて。
配信者をやってて初めて良かったと思ったよね。
「先輩、煮卵好きですもんね」
「これ食ってると平常心を保てるんだよ。お供にご飯が欲しいくらいだが」
「実は私、こんなものをお作りしました」
「なになに?」
「超圧縮炊飯器です。茶碗一杯分のご飯が適量の米を入れてスイッチ一つで一瞬のうちに炊き上がる革命品です!」
「いや、普通に炊きなよ。飯盒あるでしょ? 錬金術なんてほとんど待ち時間が多いいんだから。そんなに急いで作ってもらわなくたっていいよ?」
「じゃあこれはグッズ販売に回しますね!」
この子、あのフォームを不用品設置スペースか何かと勘違いしてるんじゃ?
いや、僕も作ったはいいけど使い道が皆無で置く場所に困るアイテムを置いてるけどさ。
「先輩の作ったあの水鉄砲、完売しましたね!」
「まじかー」
買うやついるんだ、あんなの。
正直僕の作った商品ならなんでも買うんじゃないか?
信者こえー。
「多分中に入ってたカチカチスライム君の弾丸を解明するのが大半でしょうけど」
「あー、包材に使ったもんね。ネズミに打ち込んで砂糖を打ったら硬化して、塩を振りかけたら蘇生したからそれを注射器から弾丸に改良したんだった。火薬を使わない魔道具製だからダンジョンでも使えるかなって」
「中身が判明したら飛ぶように売れました。再販の声が上がってますがどうします?」
「え、再販は面倒臭いから気が向いたらでいい?」
「それでいいと思います」
後輩はあんまり僕を働かせないように気遣ってくれる。
好きな事をして、たまに配信して。
興味のなくなったアイテムを売るスペースまで作ってくれて。
遊びでやってた事を商売にする。
ここは僕にとって理想の環境。
だからスーパーチャットの使い道も僕のため、だと思ってたんだけど。
いざ蓋を開けてみたら……
「スーパーチャットの総額で先輩の衣装が豪華になります!」
「待って、聞いてない!」
「今言いました。代わりに私はうっすら消えて壁と同化します」
「やめて、ひとりにしないで!」
画面内に現れる数字。
高額になればなるほど増えていく衣装。
それらを僕が着ることへの羞恥が上回り、胃の下あたりがキュッとする。
結局僕は配信中一人になって、衣装のレパートリーだけが無駄に増えた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「これはダメね。うちの規定では生産ラインに乗せられないわ」
美作は出来上がった“むくみ取りポーション”の品質を見ながら眉間を揉み込んだ。
世界で最速。品質B以上の完成品。
しかし多くのポーションを犠牲にしてたどり着いた境地にも関わらず、美作はこれは“売れない”と結論づけた。
今まではそれでよかった。
ポーションの品質は最低限でもCから。
品質命の大手製薬の規格はC〜Bのラインに乗せられていれば販売可能。
だから“むくみ取りポーション”も最低限のB〜Cを狙った。
が、それが裏目に出た。
「品質Bでようやくむくみが取れる領域? ならば美肌効果はA以上? それを生産ラインに乗せるまでに何年かかるのよ」
レシピが表に出た。
だから作れるだろう、と錬金術を知らない人は言う。
それはもう簡単そうに。
錬金術師にとって製作難易度と熟練度は絶対だ。
「それ以前に、このポーション。自社製品て嘘でしょ?」
美作を唸らせる原因は、むくみ取りポーションの難易度以上に、品質命の大手製薬にあるまじき低品質ポーションだった。
あまりの使えなさに自作したポーションを使った程だ。
確かにノルマは週5000と常識を疑うけど、だからって品質Fはプロの風上にも置けない。
「大塚元主任は私たちに内緒でポーションを作っていたらしいけど、一体どこから?」
「主任、裏口にお客様が来ています」
「こんな時間に誰かしら?」
大塚から肩書を引き継いだ美作はハイポーション部署の主任へと就いていた。
「あれ、大塚さんは?」
「あの方なら退職されたわ。今は私がハイポーション部署の主任よ。何かうちの部署にお届け物かしら? 前任からは特になにも聞かされていないのだけど」
「じゃあこれ、いつもの奴」
「……いつもの?」
理解のできない美作に、男は大量のポーションラックを持ち込んで代金の請求をしてきた。
「しめて5,000点。一点500円の250万だ。今の時期にこれだけ集めるの苦労したんだぜ?」
男はさも当たり前のようにお金をもらえる前提で振る舞った。
それに対して美作は顔を真っ赤にする。
「なんですか、これは! 持って帰ってください!」
「ちょ、なんだよ。絶対に必要だからって用意したんじゃないか! こっちだってなぁ、落ち目の企業に土下座されて仕方なく用意してやったんだぜ? くそ、今度の奴は融通が効かなくて参るぜ!」
男は舌打ちをしながら帰った。
美作は信じられないものを見たとばかりに身を震わせた。
前任者の大塚はポーション部署の統括だった。
では自社製品は全て外部からのものなのか?
事実を明るみにすべく、美作は社長へ直談判しに向かった。
「なに、美作君。それは本当か?」
「はい、残念ながら弊社の品質規定でむくみ取りポーションを仕上げても、顧客の要望を叶えられない可能性が出てきています」
「しかし物はできたのだな?」
「はい。しかしむくみを取る事しか出来ませんよ?」
「それでいいんだ。私達が販売するのはむくみを取るポーションなのだからな」
正気か? と言う顔。
しかしそれを既製品として売り出そうと考える社長を引き止められる美作ではない。
「ですが、その前に一点不安要素もあります」
「不安要素だと、それはなんだね?」
「こちらです。社長はポーション部署の品質が落ち込んでいる理由をご存知ですか?」
「人数が少ないことによる疲労が関係していると、鷹取君や富野くんからも申告されているよ」
「人手不足以前の問題です!」
美作は先ほど押しかけてきた業者の伝票を公の場に公開した。
それを見た社長は目を疑う。
「これは……ポーションが5000点?」
「外部委託してたみたいなんです、大塚主任の時から」
「何てことだ! では鷹取君や富野君も?」
「一枚噛んでいるかもしれませんね。そしてこれが一番重要なんですが」
「な、何だ?」
まだ何かあるのか、と美作の勢いに飲まれる社長は「ポーションの品質次第でむくみ取りポーションに美肌効果を乗せられるかもしれない」と言う言葉を耳にしてうぅむと唸った。
「それが本当なら、新たに生産ラインと人材を投入した方がいいか?」
「人事に関しては私からかけ合います。ですので私にポーション部署を任せていただけませんか?」
「ハイポーション部署と掛け持ちになるが大丈夫なのか?」
「何ら問題はありません。その為にも生産レーンと人員増加を認めてもらえさえすれば必ずや美容効果のあるむくみ取りポーションをものにして見せます!」
「分かった。大塚君には失望したが、君のやる気にかけてみよう。予算の方で足りない部分があるなら言いなさい」
「でしたら、目薬部署と湿布部署からこれくらい予算を引っ張って貰えますか?」
美作は全体の50%引っ張って来れないか? と提案する。
スライムコア(白)の素材価値が暴落したのもあり、こんなに高い予算は必要ないと示した上での提案だ。
目薬も同様にポーションの出来次第で代用できると知れば、社長の可決は目前だった。
「これは一体どう言うことですか!」
「ええ、ええ。これは由々しき事態ですよ!?」
翌日、予算減額を受けた鷹取、富野主任は社長室に怒鳴り込んできた。
社長は長年会社に巣食っていた悪事を洗いざらい並べ上げ、両者に辞任を言い渡した。
翌年から落ち込んだ業績は少しずつ上がっていき、品質の大手製薬として再び羽ばたくことになった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「お、トールさん。新作ですか?」
アフリカのサバンナにあるAランクダンジョンで、新作のお披露目も兼ねてトールは探索者として仲間と共に中層へと降りていた。
「おう。製作者は水鉄砲みたいなこと言ってたが、まぁそんなわけないんだが」
「それってもしかして例のボマーの?」
「ああ。試し撃ちも兼ねてな」
普段は魔導銃はあまり使わないトールだが、たまたま見かけた見た目を気に入って早速購入。
その手触りは既に水鉄砲の領域ではなかった。
哨戒役のオーランドが帰ってくる。
連れてきたのはヒートホークだ。
空を自在に飛んで、こちらに炎のブレスをかけてくる謎の多いダンジョンモンスターである。
仕留めない限り、持ち帰ることができない。
そもそも生捕りが最も難しいとされる部類のモンスターだった。
何せ全身が燃えている。
だがこの銃なら。
「キング、ブレスに備えろ! かつらは奮発するっすよ!」
「毛生え薬がいいなぁ!」
「悪いっすね、それは在庫切れっす」
「じゃあ、かつらで我慢する!」
ふんぬ! と力を込めると大地に根を張るようにキングの前でブレスが左右に割れた。ハラハラと毛が落ちる自然現象に吹き出しそうになりながらも、冷静にトールはヒートホークに狙いを定めて発砲した。
「ストップバレット、ファイア」
「──命中。目標は以前として動き回ってます」
「それでいいっす。血に潜り込ませるのが狙いっすからね。さぁ、ここからは長期戦っすよ!」
それからおおよそ二時間かけて、シュガーバレットが射出されると時が止まったようにヒートホークは体から火を消してその場に落下した。
拾い上げればカッチカチに固まっており、あっけなく捕獲できた事に誰よりも驚くトールだった。
「やっぱりやばい奴じゃないっすか、これー!」
「バレットだけでも再販申請出しとこうか?」
「毛生え薬のついでにお願いするっす」
その日を境にアフリカのダンジョンモンスター研究機関ではモンスター生態学が飛躍的に進歩したとかしないとか。
ヒートホーク捕獲を皮切りに、トールに複数モンスターの捕獲クエストが来たのもこの日からだった。
気分次第でグッズコーナーに並ぶ商品が、世界の裏側でこんなに活躍してるとは、作ってる本人も知らぬことだった。
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