第3話 錬金先輩、過去を振り返る
【近況】上級探索者専用スレ【語ってけ】
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021.ライオット【Aランク】
なんか最近ポーションの質落ちてね?
大手製薬のだからって信頼してたんだが中毒起こしたんだけど?
匂いも変だし、大手だからって手を抜いてんじゃねーだろうな
022.ソリオ【Bランク】
ああ、あの噂本当だったんだ
023.キャリバー【Bランク】
噂って?
024.ソリオ【Bランク】
どうも最近ポーション部署の責任者の入れ替えがあったらしい
業績低下の煽りを喰らって前任者をクビにしたらしいんだよ
それからポーション以外の薬品が軒並み低品質になったって噂
品質の大手で売ってたのに、これからは違う場所で買った方が良さそうだ
025.マリオン【Aランク】
ポーションはわかるけど、他のも落ちるってどういう事なの?
変わった部署の責任者ってポーションのだけなんでしょ?
026.ソリオ【Bランク】
そんなもん知らねーよ
わかるのは大手に今までの様な信頼は置けないって事だな
お値段据え置きで品質低下なんてそいつに命預けてる俺らに対して敬意が足りないだろ?
027.キャリバー【Bランク】
ポーションに頼り切ってる時点でお荷物確定だがな
028.ソリオ【Bランク】
タンクがダメージ喰らわない前提で動けるわけねーんだわ
ヒーラーだってタイミング次第ではタンクよりアタッカー優先して直すだろ?
俺らタンクはポーションが友達なんだよ
HP損いすぎても戦線崩れるし、多すぎても働いてないって文句言われるし世の中クソだよ
029.キャリバー【Bランク】
お、おう
そいつは悪かった
030.ガイウス【Sランク】
10年前は錬金術師も粒揃いだったんだがな、ボマーとかいう頭のおかしい奴もいたが
031.キング【Sランク】
いたいたwww
錬金アイテムでモンスター爆殺して素材すら入手できずに詰んでたよな
032.ガイウス【Sランク】
戦力としては十分だが、報酬の分配で揉めて探索者やめたって聞いたけど
あいつら今頃何してんだろうね?
033.ソリオ【Bランク】
ほえ〜、そんな危険人物いたんすね
034.キング【Sランク】
二人組でな、そいつらが通った後はぺんぺん草も生えない更地になるって噂が絶えなかったんだよ
正直俺らもドン引きしてたぜ
035.キャリバー【Bランク】
Sランクをドン引きさせるなんて何者なんだそいつら!
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「ぶえっくしょん!」
「先輩、風邪ですか?」
「いや、昨日飲みすぎたかな? 体が冷えてしまったようだ」
まさか僕の噂がどこかでされている?
なんてね、そんな事あるわけないよ。
「今日の配信お休みしますか?」
「やらいでか。せっかく錬金レシピも考えたのに、これを非公開にするなんて勿体無いだろう?」
「意外にウケが良かったですもんね、炸裂玉」
それなー。
意外と配信見てくれてたんだって嬉しくなる。
なんせアーカイブの類は公開してない。
あるにはあるけど随分と危険な事を口走っていたのでお蔵入りとなった。
編集したって、どこをどう切り抜かれるかわからんしなぁ。
「例の炸裂玉、ダンジョンバザーにすごい勢いで流れてるけど、誰も買い手が付かないのまで想定通りだなw」
「笑い事じゃないですよ。熟練度は上がりますけど、熟練度が上がれば上がるだけ威力が上がるなんてゴミ以外の何者でもないでしょう」
「威力が高すぎてモンスターが消し飛んでドロップ品すら落とさなくなるもんな! 僕が作ったのはダンジョンで使用禁止になったから後輩の炸裂玉だけが頼りだったんだぞ?」
「私のもいつ使用禁止になるかハラハラ物でしたよ?」
使用禁止になる前にダンジョンに出入り禁止になったんだけどね!
資源まで吹っ飛ばしてどうすんだって責任追及されてあちこち回ったっけ。
諦めて真っ当な錬金術の使い道を模索したわけだ。懐かしいなぁ。
「でも、先輩が抜けてさぞかし大慌てでしょうね、大手製薬も」
「僕よりも要領のいい同期がいるからなんとかしてくれると思う。大塚とか口から生まれてきたって言われても信じるぞ?」
「あはは、言い回しは上手でしたもんね、あの人」
後輩は僕以外には塩対応なんだよねー。
社長に対してはさらに過激になる。
すけべジジイだったかな?
セクハラが過剰だったらしい。
製薬会社に入っても、まるで錬金術を活かせないから一念発起して独立したんだそうだ。僕と同じで研究者希望だったんだけど、ずっと広報に居たからね。
もし立場が逆なら僕もきっと独立してただろうと思う。それ以前に広報に回されてないか、僕口下手だもん。
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「大塚君! これは一体どういうことだね!?」
力強くテーブルが叩かれる。
社長室に呼ばれた大塚は萎縮しながら社長の次の言葉を待った。
つい先日起きた業績低下。
それは担当者の槍込がとうとう過労でぶっ倒れて、人事異動でその部署に大塚が回されたことより起こった。
週に5000本のノルマ。
そこまでは良い。いや、良くない。
ポーション部門のノルマはもっと緩かったはずだ。
槍込がその地位につくまでせいぜい1000本だった筈。
いつからこんなに増加した?
そのことを問い詰めねばと大塚は身を引き締めて質問する。
「失礼ですが社長、今一度ポーション部署のノルマを再確認してください。ノルマ5000を納期1週間は無謀すぎます」
「前任者はやれていたんだよ? 君は彼よりも優秀で、錬金熟練度も高い。そうだったよね? ハイポーション部署の大塚君?」
「ぐっ!」
大塚は常日頃から槍込聖をコケにしていた。
ポーションしか作れない無能。同期の恥。
そうやってこき下ろして、その上で本来自分でやる量も槍込に回していた。
そのツケが自分に回ってきているだけだった。
だと言うのにノルマを達成できずにいる。
製作難易度1のポーションだ。
20人体制なら一人頭のノルマは250。
それでも厳しいが、製作難易度は1。よそ見しながらでもできる筈だった。
一日38本、作ればいい筈だったのに、それすらもままならない。
そもそも部署は圧倒的に不人気で人が集まらなかった。
それもその筈、事前にネガティブキャンペーンを行い人気を低迷させたのだ。
募集したところで集まるわけもない。
『ポーションなんて低い製作難易度の薬品ばかり作ってる部署で働きたくないね。働くなら製作難易度30のハイポーションの部署の方が同業者に誇れる。そう思わないかい?』
そうやってポーション部署から興味を無くさせ、人離れを起こして自分の部署に呼び込んだ、それもこれも同期の槍込をイジメるため。
同期の中で一番錬金術の熟練度の高かった槍込が気に食わなかった大塚は、鷹取と富野と結託してイジメ抜いた。表面上は仲の良さをアピールしつつ、お願いと称して自分たちのノルマを回していた。
都合のいいポーション製作マシーンだ。
その槍込が抜けた。
皺寄せが大塚一人に絞られた。
意味がわからない。一番に頭を抱えたのは当人である。
不人気部署と悪評を垂れ流したのは大塚で、大塚信者は大塚の言葉を鵜呑みにしている。
製薬会社にあってはならない思い込み。
本来製品に優劣などないのに、とある嫉妬から会社を巻き込んだいじめに発展していた。
「ですがたった一人で5000個は……」
「おかしいね、ポーション部署に従業員は20名いる筈だよ? きちんと出社してるし、タイムカードも押されてる。一人とはどういうことだろうね?」
ハイポーション部署に引き抜きましただなんて言えず、大塚は黙りこくった。
引き抜いたは良いものの、ろくに仕事もさせずに遊ばせてる。
一応仕事してるふりはしてるが、殆どが給料泥棒と成り果てている。
それは大塚も同様だった。
「とにかく、あちこちからクレームが来てるから頼むよ? うちは品質で看板を掲げてるんだから。人手が足りないんなら、君のポケットマネーでもなんでも使って元通りにしなさい。そのために多めの給料を払ってるんだよ? じゃあハイポーションの納期も近づいてきてるから、そっちも頼むよ?」
そう言って社長は接待ゴルフの段取りに身を焦がした。
部署毎の不手際など知ったこっちゃないと言わんばかりだ。
命令だけして、後は部下任せ。
それは今まで大塚のとっていた態度そのものだった。
一人の人員も確保出来ぬうちに、ハイポーションの納期まで来て頭を抱える大塚。何せ今まで5000本、槍込を丸め込んで作らせていたのだ。
今ハイポーション部署にいる社員の熟練度はギリギリ30。
製作難易度ちょうどの熟練度では、かなりの回数失敗するだろう。
作れたところで成功しなければゴミと同じ。
成功を約束されているのがポーション部署の役割なのだから。
それでもなんとかなっていたのは、希釈するポーションが高品質だったから。
なんだったら混ぜてたハイポーションの品質を上回ってすらいた。
それだけ槍込のポーションは頭のおかしい出来だった。
だから入院したって聞いた時は無理矢理にでも引きずってでも作らせようと思った。そうしなければ今まで築き上げてきた地位が総崩れになる。
それはごめんだった。
しかし大塚が手を回すよりも先に槍込は業績低下の責任を取らされて解任されていた。何が何だかわからない。まるで悪夢を見ているようだった。
拍車をかけるように悪い話が舞い込んだ。
大塚にポーション部署の責任者を任せられないかと言う推薦があったらしい。
その人物とは……
「望月ヒカリ……確か広報の?」
「ああ、人望もあるし、熟練度も高い。大手製薬の次代を背負って立つ男だと太鼓判でね。自分は独立するので、大手製薬の後を任せられるのは大塚君だと期待していたよ」
社長は笑う。使えないポーション部署の前任を首にしたことも、その部署に大塚を着任させたことになんの疑問も抱かずに、今まで通りに会社が回ると本気で思っている。
今まで飼殺しにしていた凄腕錬金術師は世に放たれ、自分には首輪をはめられた。今度こき使われるのはお前だ、と指をさされたように硬直する。
「退社届は……揉み消されるか。鷹取と富野は……ダメだな。俺と同じ穴のムジナだ。他人の不幸は蜜の味と言って追い込んでくる。せめてハイポーションだけでも間に合わせるか。最悪ポーションは外注で間に合わせよう」
窮地に追い込まれても、他人任せの大塚。
もうここまできたら死ぬまで変わらないのかもしれない。
大手製薬の品質神話は脆くも崩れ去り、ダンジョン内の安全は再び野良の錬金術師の手に委ねられることとなった。
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「っくちゅん!」
配信準備中、後輩が可愛いくしゃみをした。
タオルを手渡すと、ありがとうございますと受け取る。
「君も風邪かい?」
「誰か私の噂でもしてるんでしょうかね?」
「前世のアカウントのファンかもね?」
「あー、あり得そうです。結構ファンいましたし」
「未練とかはないの?」
「企業アカウントのですか?」
「そうそう」
「ないですねー」
「ないんだー」
その日は特にぶっ飛んだレシピも出さず、無事にアーカイブも残した。
初回ほどの反響はなかったが“こう言うのでいいんだよ、こう言うので”みたいなコメントがついたので、この路線で行こうと思った。
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