第三十七話

 週末、ワンストップの会議室で文月さんを和音と持っていた。


「兄さんは今日はどんな話だと思いますか?」


「そうだな、今後の方針とか、人気の傾向は聞きたいとは思うけど。どうなるんだろうな」


 和音と話していると文月さんが入って来て、俺達の向かいに座る。


「来ていただきありがとうございます。早速ですが、オムライス先生が気にされていた人気なのですが、ファンレターの数なら圧倒的に配信もされている葉山先生の方が多いです」


 文月さんはそう言って、五枚の紙を俺の前に置いてくれた。


「これは?」


「オムライス先生宛のファンレターです。この会社では作者様の同意がなければ、渡さないのですが、人気を気にしていたので持ってきました」


 それはすごくありがたい。


 五通も来てたなんて……。


 お礼を言って、手紙を開けていく。


「兄さんにファンレターなんて……」


 そんなに俺に人気があったら変なのかよ。


 気にしないで手紙を読もう。


 えっと、何々――先輩、期待したっすか? 私ですよ、七緒です。


 よし、次。


 ああ、和樹君。七緒に言われて手紙を出したんだが、どう書けばいいのやら……。まぁ、頑張ってくれ。


 初春さんだ。ありがとうございます。


 次は――七緒とは何時になったら結婚するのかしら? 漫画頑張ってね。


 結さん、それはない未来です。


 次こそは身内以外で――オムライス先生、妹をください。天月。


 天使先輩か……。でもこれで身内は無くなったよな?


 俺は最後の望みをかけて、最後の手紙を開く。


 兄さん、ファンレターが欲しいと言ってましたので書きました。


 不埒な理由なら、許しませんからね!


 和音、お前ってやつは。


「あの、他にはもうないんですか?」


 俺は最後の望みをかけて、文月さんに聞く。


「ないですよ」


 ですよねー。


 うん、分かってたよ。悲しくないもん。目から垂れてるのは鼻水だもん。


「兄さん、汚いので一度顔を洗ってきてください」


 その言葉に俺は本気で泣いてしまう。


「あの、オムライス先生の人気は絶対にありますから。私が保証しますから」


 文月さんにまで慰められてしまう。


 ・・・・・・・・・・


 少し落ち着いてから、話し合いを再開してくれた。


「今日来てもらったのは、単行本発売についての話なんですよ」


「え? もうだせるんですか?」


「はい、次の回で五話目なので描きおろしを入れて出版する予定で話を進めています」


 年内は無理だと思ったけど、もう出版か……。


「あの、描きおろしって何ですか?」


 和音そう質問する。


「要するにおまけです。でも今回は少し異例でして、ニ十ページ分描くことになります」


 確かにそれだけの描ききおろしは見た覚えがない。


「それって、どうしてそこまで長い描きおろしなんですか?」


「今回オムライス先生の漫画は五話分、約百ページ。単行本を出すには短いのでそうさせていただけたと思います」


「その、私にはよく分からないんですけど、そこまで長く描いてまで単行本を出す理由って何ですか?」


「これは完全にワンストップの方針ですね。今勢いが一番あるオムライス先生の作品を出すことによって、少しでも稼ぎたいのみたいです」


「俺は全然かまわないんですが、内容の指定ってありますか?」


「今回はファンレターの中でも要望の多い妹をメインヒロインに書いてもらいます」


 その言葉に俺は言葉に詰まってしまう。


 実の妹がいながらパンチラ多めの作品のメインに妹キャラを使うのは少し抵抗がある。


「了解しました。少しで見いいものにできるように頑張ります」


 俺に代わって和音が先に答えてしまう。


「和音がいいなら俺も問題はありません。ぜひやらせてください」


「ありがとうございます。では、妹キャラのメインがおまけであることを宣伝させてもらいます」


 文月さんは安心したように息を吐いて、俺達に笑いかけた。


 元々上の人たちにその方向で動くように言われていたんだろうな。


 その後は最新話の原稿を読んでもらい意見を出し合って、話し合いは終了し帰路についた。


 帰り道の和音はどこか上の空で、もしかしたら書下ろしの内容を考えてくれていたのかもしれない。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る