第二十二話
どうしてこうなった。
状況を整理しよう。まず、七緒の口車に乗った。で、今はその七緒の部屋のベットで七緒が風呂から出てくるのを待ている。
「お待たせしました~。先輩どうして、顔が青いんです?」
「いや、冷静になろう。やっぱりマズいだろう?」
「え~、今更ですよ。この間だって、一緒に寝たじゃないですか」
その言葉に以前、七緒が泊まった日の事を思い出す。
和音、怖かったな。
「確かにそうだな。奥で寝てくれ、落ちないほうが良いだろ?」
壁際にベットが配置してあるので、奥を勧める。
そして俺はギリギリの端っこで眠ることにきめた。
ここまでくればもうひけないので、これが最大の防御だろう。
「では先輩、おやすみなさい」
「ああ、お休み」
電気を消して、背中をくっつけて横になる。
七緒の体温と心音が伝わってくるのを感じて、緊張してしまって寝付けそうにない。
七緒はもう寝てしまったようで、規則正しい寝息が聞こえてくる。
疲れてたんだろうな。
いつも突拍子もないことをしてくるけど、俺は七緒に感謝している。
俺はそう思いながら、一年前の事を思い出す。
・・・・・・・・・・
親父の海外転勤が決まり猛反発して、俺は日本に残った。
そして始まるかと思ったマンションでの一人暮らしだったのだが、予想外なことに妹の和音も一緒に暮らすことになったのだ。
五歳くらいまでは一緒に遊んだりしてたと思うけど、今では話すこともほとんどない。
俺と暮らすより、母さん達と暮らした方が楽しいだろうに何で残ったんだ?
疑問はあるが今はそれどころではない。
学校から帰ったらまず、料理をしなくては何も食べられないのだ。
越してきてからしばらく経ったが、このが意外と大変だと分かった。
和音と家事を分担とか言う以前に、和音は引っ越してきてから一度も部屋から出てきてくれないのだ。
本当に何がしたいのか分からない。
ただ、嫌われていることだけは分かっているけど……。
朝にセットした炊飯器を確認しながら、また考えてしまう。
最後に和音と話した日の事を。
泥だらけで帰ってきた姿が心配で話しかけたら――
『あんたみたいなキモいやつに、話しかけられたくない!』
そう言って俺の大切にしていた魔法少女のフィギュアを投げつけて壊されたのだ。
「あれ? 炊けてない」
苦い記憶がよみがえってしまったが、衝撃的事実に現実に戻されてしまう。
朝にセットしたはずのコメが炊けてないのだ。
理由はすぐに分かった。予約の日付を間違っていたようだ。
何か買いに行くか? でもこの辺り何があるんだ?
商店街はそろそろ閉める時間だから、総菜はないだろうし……。
そうだ、確かそう遠くない場所に洋食屋さんがあったな。
俺は外に出る準備を手早く済まして、行ってみることにした。
・・・・・・・・・・
「いらっしゃいませ」
「あ、すみません。ここってテイクアウトできますか?」
店に入ると同い年くらいの女の子が笑顔で声をかけてくれたのでそう聞いてみる。
「へ? 少しお待ちください。ママ、なんか持ち帰り用の容器ってある?」
近くでお皿を下げていた女性にそう声をかけて確認してくれる。
「え? あ、うん。あるわよ」
その女性は俺の方を見てから、ニッコリと笑みを浮かべてそう答えてくれた。
「大丈夫みたいなので、あちらのカウンター席でメニューを見てお待ちください。後ほど伺いに行きますね」
「ありがとうございます」
言われた席に座って、メニューをを確認する。
この店で一番安いのはオムライスか……。
これを一つ持ち帰りでせっかくだから俺は食べてから帰ろうかな?
そう決めて店員さんに声をかけようと後ろを向くと、かなり店がにぎわっているのが分かった。
席がほとんど埋まっている割に店員さんは少なく同い年くらいの女の子とママと呼ばれていた女性の二人だけ、家族でやっているのかな?
「あ、お兄さん。決まりましたか?」
女の子が笑顔で近くに来てくれる。
「ああ、オムライスを二つ。一つは今食べていってもいいかな?」
ここまで人気の店ならせっかくだし出来立てが食べたいと思って、そう聞いてみた。
「はい、もちろん大丈夫ですよ! では帰りの際にお一つ用意しますね」
女の子は笑顔で店の奥に消えていく。
すごいな、疲れた様子がない。
取り敢えずスマホを見ながら出来上がるのを待つことにする。
小説の新人賞か……。
たまたま目に入ったバーナー広告をクリックすると、はやりの異世界物などの中に気になる単語を見つけた。
高校生受賞者? 同い年でも凄いやつはやっぱりりすごいな。
俺も書いてみるか? でもな……。
「お待たせしました~。オムライスです」
その言葉に現実に引き戻される。
「あ、ありがとう」
反射的にお礼を口にしてしまった。
女の子は足早に離れてしまったので聞こえてはないだろう。
良かった、恥ずかしい。
目の前に置かれたオムライスはケッチャップがかかったシンプルなものだが、卵が見るからにトロトロで美味しそうだ。
スマホをポケットにしまって、手を合わせて食べてみる。
うま! 何だこれ!? 人生で一番美味しいぞ。
俺は夢中でスプーンですくっては口に運んでいく。
「ごちそうさまでした」
すごく幸せな気持ちになって、手を合わせる。
「おそまつさまです~」
いつの間にか横に来ていた女の子が、空になったコップに水を注ぎながら返事をしてくれた。
「あ、ありがとう。メッサ
「ふふ、洋食の店ですからね。お持ち帰りの分、そろそろ作りますか?」
なるほど食べ終わるタイミングを見てくれていたのか。
「お願いします」
「はーい」
・・・・・・・・・・
帰宅した俺は和音の部屋をノックする。
返事はやはりない。
「晩御飯、めっちゃ美味しいオムライスを見つけたから買ってきた。扉の前に置いとくな?」
和音の引きこもりはどうにかしないとな。
俺にできることを考えよう。
そう決意して、自室に戻るのだった。
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