第二十話

 今度こそ普段の和音の事を知ろうと、夕食を作り席に着く。


 目の前に座る和音は、アジの開きの骨を器用にとりながら食べていた。


 俺は裏返してから骨を見ながら食べているので、どうしてあんなにきれいに食べれるのかが不思議だ。


「兄さん? どうしたんですか?」


 見ていることに気が付いた和音は小首をかしげて聞いてくる。


「いや、そうだ。和音って普段は学校でどう過ごしているんだ?」


 何となく話の中でと思ったが、つい直接聞いてしまう。


「授業を受けて、生徒会の活動をしてますけど?」


「そこじゃなくてほら、クラスの友達とかは?」


 淡々と受けこたえて味噌汁を飲みだしてしまった和音に食い下がるように聞く。


「意図が分かりません。私の暮らしに変なところがありますか?」


 少し機嫌を損ねてしまったかな?


 だが以前感じたモヤモヤを確かめるためにもここはひけない。


「実はさ……。この前寝ぼけた和音が結婚式は? って言ったことがあるんだ。もしかしたら好きな人でもできたのかなって」


「ごふぅ」


 和音はお茶を吹き出してしまう。


「大丈夫か?」


 声をかけながら、テーブルを拭く。


「変なことを聞くせいですよ! もう」


「いや、悪い。聞かないほうが良かったか?」


「当然です。そういう詮索はどうかと思いますし、妹の恋愛に興味があるとか気持ち悪いです。そもそも私が好きなのは、兄さんですし……」


 興奮したように捲し立てて言われてしまう。


 気持ち悪いという言葉がショックで最後の方はうまく聞き取れなかった。


「悪い、そうだよな。ただ、そういう家族がするような今日の出来事? みたいな会話を今までしてなかったからさ」


「と、ところで兄さんは、私に好きな人ができたらどうなんですか?」


 いまだ興奮気味に俺の話は無視して、そう聞いてくる。


「いや、それは普通にうれしいぞ?」


 モヤモヤはあるが、和音の幸せが一番なのでそう言っておく。


「へ、へ~。そうですか、そうですか」


 なんかすごく怒っているオーラを感じる。


「変な質問してごめんな」


「……」


 無言のまま和音はご飯を食べていく。


 これ以上の会話は、難しそうだな……。


 しかし今は好きなやつはいない感じなのかな?  


 そう分かると何だか胸のモヤモヤが消えていく。


 ・・・・・・・・・・


 部屋でネームを書いているとパソコンの通知音が鳴った。


 通知内容を確認すると、登録している配信者が配信を始めたことを知らせるやつだ。


 葉山ソラ、ライブ配信……。


 この間の配信は寝ていたが今回も生配信をするんだな。


 和音なんだよな……。


 実の妹の配信を見る兄って、どうなんだろうか?


 でも見たい、衝動を抑えきれず配信を開く。


『皆さん今晩は、葉山ソラです。本日は漫画の宣伝と登場キャラのイラストを描きたいと思います――』


 落ち着いたBGMをバックにそう挨拶をして、配信画面にイラストの線が描かれていく。


 配信ではあるが、パソコンの画面が映るだけで本人や部屋の様子は映っていない。


 だからだろうか、コメントには顔を見せてとか、何歳なの? といった書き込みもある。


 俺の妹に何聞いてるんだと、怒りのコメントを書きたいがここは我慢だ。


『師匠に言われたのですが、こういうライブ配信も需要があるとの事ですがどうなんでしょうか? 皆さん楽しいんですか?』


 絵が完成するタイミングでそう和音がリスナーに質問する。


 俺はリスナーとして、楽しめてるよとコメントをうつ。


 他の人も一様に楽しんでいることをアピールしていく。


『良かったです! 今日は嫌な事があったので急な生配信でストレス発散イラストを描かせていただきましたが、たくさんの方に来ていただけて良かったです』


 嫌な事か……。俺のせいか!?


 そう思うとこれ以上配信を見てるのはダメな気がするぞ……。


 俺はそっと動画を止める。


 今度ちゃんと謝ろう。


 そして、和音ともっと仲良くなれたらいいな。


 俺はまたネーム作業に集中するのだった。











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