忘れられない思い出 part1
田川侑
忘れられない思い出 part1
五限目の途中、不意にスマホのバイブが反応した。
先生の目を盗みスマホの液晶画面を見てみると、俺が好意を寄せている女子ーー白雪さんからのメッセージが。
『今日の放課後、渡したいものがある』
これを見た瞬間、胸が高鳴るのを感じた。
渡したいもの。それを理解するのにそう時間はかからなかった。
そして、理解すると同時に、歓喜に震えた。
今日は二月十四日。バレンタインデーだ。
チョコレートかクッキーか、手作りか市販か、いずれにしても嬉しいという気持ちに変わりはない。
ただ、気になるのは『義理』か『本命』かということだ。
ここで少し整理すると、まず義理チョコを渡すという行為は今日の一限と二限の間に女子から男子へ一度行われているという点だ。
さすがに二度も義理チョコを渡すというのは可能性的に低いと考えていい。
それに、義理チョコを渡すのにわざわざ連絡をするなんて面倒をしたりしないだろうし、放課後にするのもおかしい。
そこまで考えると、やはりこれはアレだろうか。もうそういうことなのだろうか。
あまり過信するのは良くないとはいえ、考えられずにはいられない。
ーー本命確定
そんな言葉が頭をよぎった。
とは言え、これで実は義理でしたなんて目も当てられない話だ。
ここは確証を得るため、情報収集が必要だ。
放課後までは残り二限しかないため、集められる情報も限りがある。
それに、一番注意を払わなければいけないのは、白雪さんに俺の気持ちを知られてはいけないということだ。
ただでさえ、パッとしない俺が高嶺の花とまで言われている白雪さんを好きだなんて知られた日には誰に何を言われるか。想像するだけで身震いしてしまう。
ここは慎重に人選を選ばなくては。
まずは一人目。
ここは無難に親友の田中からだ。
田中君にはクラスの男子にいろいろと聞き込みをお願いすることにする。
そして、二人目。
少し攻めようと思い、親友の佐藤にクラスの女子にいろいろと聞き込みをお願いすることにする。
何か言われるかと思っていたが、特に何も言われることなく寧ろ、二人ともサムズアップとともに心置きなく引き受けてくれた。
そして待つことホームルーム手前。
最後の授業中、俺の机に一枚の紙屑が降ってきた。
どうやら二人からの報告のようだ。
くしゃくしゃになった紙屑を開いてみると、
報告は下記の通り。
ーーお前のこと、好きっぽいーー
これで確信した。
白雪さんは俺のことが好きなのだと。
残すは、本命チョコを貰うのみだ。
放課後、運命の時がやってきた。
誰もいない教室内。
深く深く深呼吸を何度も何度もした。
今日は俺の学生生活の中で、きっと一番の思い出となる日だ。
教室を出て、廊下を歩き、上履きを下駄箱に入れ、外履きに履き替え、外に視線を移した。
そして、気がついた。
気がついてしまった。
決して忘れてはならないことに。
「返信返すの忘れてた」
忘れられない思い出 part1 田川侑 @tagawa_yu
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