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三国鹿子
第1話 真由香
いつもなら、そろそろホームルームが始まる時間だった。
七月も半ばに差し掛かるのに、今年はまだ梅雨が開けないらしい。車窓から見える空も青みがかったグレー色のせいかとても低く、空気も重く感じる。
二両しかない電車の中はそれほど混んでおらず、私は良樹とボックス席に向かい合って乗車していた。座席の生地は臙脂色で、毛羽立ちの強い別珍みたいで肌触りがあまりよくない。スカートから出た素足に少しチクチクする。
良樹は窓枠に肘をついて、目を瞑っていた。まぶたはしっかり閉じられているけど、絶対に寝てはいないと思う。何ていうか、目を閉じながらこちらを意識しているのを感じる。
私は隣の空いた席のザラザラした手触りを確かめながら、良樹を見たり外の景色を見たりしていた。
西鹿児島駅で降りた私たちは、サラリーマンや近所(おそらく)の高校生たちと一緒に改札までの流れに混じった。
制服を着た学生たちは定期券を駅員に提示しながら改札を足早に抜けていくけれど、私は鋏を入れてもらうために切符を差し出す。
芋洗式に流されていく中で振り返ると、良樹もすぐ後ろで切符を切ってもらっていた。
駅構内から東口へ出て駅前の通りを歩いていくと、次第に周りの視線が気になり始めた。あれどこの制服?という声が聞こえて、思わず万引きがバレたような気分になる。
「学校サボってんのバレたら補導とかされちゃうのかなぁ。」
今さらだよなぁと自分でも思いながら、前を歩く良樹に小走りで近づいて、小声で話しかけた。駅を出てからほぼ地面ばかり見て歩いていたので気付かなかったが、良樹は堂々と、何なら肩で風を切って歩くように不良ぶって前を歩いていた。
「知らね」
くせのある短い黒髪は無造作な感じに、後ろへ流すようにセットされている。良樹が髪の毛をいじっているところをあまり見たことがないけど、私の私服にケチつけるくらいの人だから、あれはきっと無造作を装ったヘアセットだろう。
「…。」
どこに行くつもりなんだろう。行き先を聞いてないことが急に不安になってきた。
そもそも今日はいつも通り学校へ登校する予定だったのだ。そのつもりで私は家を出ている。それなのに最寄り駅で降りたところで良樹に呼び止められ、手を引かれたのだった。
良樹は大きな歩幅で、何が入ってるのか分からないほどペタンコな学生鞄を脇に抱えて、ずんずん歩いている。あんなんだから、こないだも地元の駅で暴走族に絡まれたのだ。
こっそり毒づいていたら良樹がすっと手を挙げて、何とタクシーをとめた。
「えっ」
ますます訳が分からないまま、とにかく乗り遅れてはいけないと車に乗り込む良樹の後に慌てて続いた。
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