第023話 気になる視線
「今日はプレイヤーギルドに出かけるか」
一昨日と昨日は寄らずにそのまま家に帰ってきた。
ギルドに登録すれば一定の金額の報酬が支給されると言っても、それほど多いわけじゃない。一人で暮らすならまだしも、俺、マヒル、ヨル、ワラビモチの今や四人。それなりの人数になった現状では心許ない。
少しでもお金が欲しい。
「よーし、皆出かけるぞ」
「「キュンッ」」
「ピッ」
俺は準備を済ませ、皆を肩と頭に乗せて家を出た。
プレイヤーギルドはそう遠くない場所にあるので歩いていく。
それどころかプレイヤーに与えられた家の傍には大抵の店が揃っていて、ほとんどの用事が家の近辺で済むように配慮されていた。
それだけプレイヤーが優遇されているというわけだ。
「平日のこの時間に外を歩くのはなんだかソワソワするな」
就職以来、一応休みは土日だったから平日の日中に外を出歩くことはなかった。
落ち着かないし、他人から無職に見られているような後ろめたい気持ちになる。
そのせいで少し挙動不審になってしまった。
「キュウン?」
「あ、ああ。大丈夫だ。さっさと用事を済ませような」
そんな俺の気持ちを察したのか、俺の顔に頭を擦り付けてから顔を覗き込んでくるヨル。
俺は心配かけないように笑みを浮かべて一撫ですると、気持ちを切り替えてプレイヤーズギルドに向かった。
「いらっしゃいませ」
「すみません、討伐報酬をいただきたいのですが」
「え、あ、はぁ!?」
プレイヤーズギルドの中は役所とあまり変わらない。
俺は受付をしていた女性に声を掛けると、彼女は俺を見るなり、狼狽して声を上げた。突然の大きな声に周りから視線が集まる。
俺はこの人に会ったことはないし、なんでこんなに驚かれているんだ? それに皆の視線が凄く居心地が悪い。
「えっと……」
「ん、んんん、コ、コホンッ。い、いえ、なんでもございません。大変失礼いたしました。本日はどのようなご用件でしょうか」
困惑しながら話しかけると、受付さんが取り繕って俺に尋ねた。
「モンスターを討伐したので報酬をいただきたいんです」
「承りました。それでは、魔石をご提出いただけますか?」
「分かりました」
改めて用件を伝えると、受付さんは何事もなかったように話を進める。
俺は、先日倒したケムーシーとメタルグミーの魔石が入った袋を取り出して、机の上に置いた。
シャイニングミーの魔石は、亜理紗に「出しちゃ駄目!!」と言われたので仕舞っておく。なんでか分からないが、彼女がそういうのなら従っておいた方がいいだろう。
「ありがとうございます。少々お待ちください」
受付さんは袋から魔石を取り出して何かの機械に掛けた。
「Fランク魔石が百八個、Eランク魔石が二十一個ですね。お間違いないですか?」
「あ、はい」
魔石は一番小さい物がFランクで一番大きな物がSランクになる。大きさや形、色などで簡単に判別できるし、アイテムボックスに入れれば名称が表示されるので、間違えることもない。
「それでは、しめて十五万九千円になります」
「え゛……!?」
思わず変な声が出た。
それもそのはず。たった二日で前の会社の手取りとそんなに変わりない金額になってしまったからだ。
活動を始めたばかりの俺でこんなに稼げるのなら、三カ月前から始めている人達はもっと稼いでいるに違いない。
俺はプレイヤーという仕事の凄さを改めて思い知らされた。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、何でもありません」
「そうですか。それでは口座にお振込みしておきますね」
「お願いします」
今度は俺の方が取り繕う番になり、頭を掻きながら手続きを終えた。
「思ったよりもなんとかなりそうだな」
「キュンッ」
「キュウッ」
「ピッ」
ギルドから外に出ると、四人でも問題なく暮らしていけそうなことに安堵する。皆を撫でると、彼らは気持ちよさそうな声で鳴いた。
「ん~?」
なんだろう。ここに来た時よりも周りの視線を感じる。
受付さんが驚いて注目された時からそんな気がしていたが、外に出るとさらに顕著になった。
「ねぇねぇ、もしかしてあれが?」
「あ、そうだよ!!」
「あれが絶対そうだって」
「いやぁ、まさか本物を見ることができるなんて……」
視線だけで辺りを見回すと、俺の方を見て指を指しながらひそひそと話している人が多い。
え、俺が何かしてしまったのか?
なんだか急に心配になる。
しかし、少し考えてみるが、全く身に覚えがない……いや、そうだ。俺にはこの子たちがいるじゃないか。
俺は視線を向けられてもおかしくない理由を思い出した。
「皆マヒルたちを見ているんだろうな」
マヒルたちは世界一可愛い。ついつい見てしまうのも仕方ないだろう。でも、正直沢山の人の視線を浴びるのは少し居心地が悪い。
俺は足早にその場を後にした。
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