第054話 そうだ、建築しよう

 肩の荷が下りた俺は帰りに、消耗品を追加で購入してそそくさと家路についた。


 火事で人命救助したり、歴史的な大発見の可能性の落とし物を拾っただけに、拠点に着いた時にはいい時間になってしまった。


「ただいま~」


 夕食の準備の途中で亜理紗が帰ってきた。


「おかえり。早かったな」

「うん、急いで帰って来たから」

「そうか。悪いな。今日は色々あったからまだご飯が出来てないんだ。先に風呂に入ってきなさい」

「はーい」


 俺は亜理紗を風呂に送り出し、料理を続けた。


「え、一人で出かけたの!?」

「ああ。小判の件は早めにどうにかしておきたかったからな」


 戻って来た亜理紗とご飯を食べながら今日の出来事を話す。


「えぇ、一人で出かけちゃだめだよ!!」

「おいおい、俺は子供じゃないんだぞ?」


 警察署に行った話をしたらどういう訳か亜理紗がプンプンと怒り出す。


「ある意味子供みたいなものでしょ。叔父さんゲームのこと知らないし」

「うぐっ……って出かけるのとゲームは全然違うだろ」


 痛いところを突かれたが、論点が違う。今は現実の話だ。


「あはははっ。ばれたか。でも、残念だなぁ。一緒に行けたら、絶対動画配信チャンスあったのに」

「そんなものあるわけないだろ? ただ警察署に行っただけなのに」


 何を言ってるんだ? 用意を済ませに出かけたくらいで配信のコンテンツになるわけないだろうに。


「ホントかなぁ? 急いでたから見てなかったけど、検索してみよ」

「そんなことよりもご飯を食べなさい」


 スマホをいじるのを注意したが、亜理紗はそのまま操作し続ける。


 はぁ……俺も姪っ子には甘くなるな。


「ちょっと待って……あぁああああっ、やっぱりぃいいい!!」

「な、なんだよ、そんなに大きな声を出して」


 そして、しばらくしたら、急に大声を上げて勢いよく立ち上がった。


「掲示板でおじさんが火事で親子を助けたって盛り上がってんじゃん」

「そのくらい他のプレイヤーだってそれくらいできるだろ?」


 プレイヤーの体は一般人とは比べ物にならないくらい頑丈だ。火事の火や煙にまかれたくらいじゃびくともしない。


「できるかできないかで言えば、そりゃあできるけど、そもそもプレイヤーで人助けをしようって人があまり多くないわ。元々ただのゲーマーだからね。正義感があるわけじゃないし」

「そういうもんか? 助ける力があって、助けを求める人がいたら助けるだろ、普通」

「それは叔父さんの価値感よ。それに、叔父さんが来た途端、大雨が降って建物の火が消えたって聞いたわ。叔父さんの幸運に違いないでしょ」

「ははははっ。そんなわけないだろ。あれはな。マヒルがやってくれたんだ。偉かったぞ、マヒル」


 マヒルは気候を操作することができる。あの時、火を消すために雨雲を呼んで雨を降らせてくれたんだ。


 あの時は騒ぎを解決することと、警察署のことですっかり忘れていたが、今になってそのことを思い出した。


 俺は食事の邪魔をしないようにマヒルの頭を撫でてやる。


「キュウッ!?」


 マヒルが嬉しそうに鳴いている。後でブラッシングもしてやろう。


「はぁ……誰かこの叔父をなんとかして……」

「なんか言ったか?」

「なんでもないよ。それよりも今度から出かける時や何かをする時は前もって言ってよね!!」

「分かったよ」


 亜理紗と約束をして、その後も雑談をしながら楽しく夕食を食べた。





「それじゃあ、スキルの使い方を説明するね」

「おう。よろしく頼むな」


 それから数日後の土曜日。


 今日は建築スキルで小屋を建てることにした。まだ建築スキルの熟練度が低いので、ルウのようにはいかないだろう。でも練習すれば、その内、立派なログハウスが建てられるはずだ。


 森の中に佇むログハウス。おっさん心がくすぐられてやまない。そのためにもスキルを磨いていかなければならない。


 幸い木材は整地した時に伐採して整えたものが沢山ある。これを使って建てよう。


 亜理紗に教わったように建築スキルを使用することをイメージすると、ウィンドウが表示された。


 自動で作れるのは小屋だけだ。材料も幸い足りているので、そのまま作成ボタンを押す。


 パァッと円状に光が噴水のように立ち昇り、完成までの時間が表示された。


「一時間か」

「その間は狩りに行きましょ」

「それがいいか」


 時間を潰すため、近場にモンスター討伐に出かける。


 間引かないと街に行ってしまう可能性があるため、これも立派なプレイヤーの仕事だ。


 沢山狩りをすれば、するだけ一般人が安心して暮らせるようになる上に、俺たちは魔石やドロップアイテムを売って生計を立てることができる。


 お互いにウィンウィンの関係だと言えるだろう。


――Critical Hit!!

――Critical Hit!!

――Critical Hit!!

――Critical Hit!!

――Critical Hit!!


 今日も運が良くて攻撃が何度もクリティカルヒットになる上に、魔石以外のドロップアイテムを落としてくれる。


 そういえば、一度きりしか換金したことなかったけど、今換金したらどのくらい貰えるんだろう。


 この前たった二日で十五万円になった。


 アイテムはよく分からないから亜理紗が売っていいと言っている魔石だけ売却するとしても、すでにその数がとんでもないことになっている。


 俺とマヒルたちが手に入れたものと、もう百匹近いシープたちが毎日狩ってくるものがあるからだ。


 正直お金の使い道に困る気がする。


 どうにかしてここまで電気とインターネットをひいてもらうか? ちょっと相談に乗ってもらうのもありかもしれない。


 亜理紗も配信するの大変そうだしな。


「あっ、もう時間が完了してるよ」

「ちょっと待ってくれ」


 亜理紗に言われて光に近づくと、「完成させますか?」のウィンドウとイエスorノーのボタンが表示される。


 俺は迷いなく、イエスボタンを押した。


 その瞬間、光が消え、納屋と呼べるサイズの小屋が出現し、家の説明が書かれたウィンドウが表示される。


――――――――――――

◆名称:神秘の小屋

◆耐久値:999/999

◆特殊効果

・超快眠

・快適空間

・在宅時経験値取得

・聖域

――――――――――――


「本当にできた。それになんか付属効果ってのが四つ付いてるぞ?」

「はぁああああああっ!?」


 ウィンドウを亜理紗に見せると、森の中に彼女の声が木霊した。

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