第045話 ダウジングってすげぇ!!②

「きゅう?」

「きゅーん?」

「ぴぃ?」


 マヒルたちが俺たちの顔を覗き込む。


 どうやら心配させてしまったようだ。


「あぁ、悪い悪い。大丈夫だ。全然悪い事じゃないから。な?」

「う、うん、そうだね。むしろ大発見だよ!!」


 話を振ると、察した亜理紗はマヒルたちを安心させるように仰々しく振舞う。


「「きゅっ」」

「ぴっ」


 その様子を見てマヒルたちの頬が緩む。

 

「でも、これってこの後どうしなきゃいけないんだっけ?」

「埋蔵金とかが出た場合は警察に届け出必要だった気がする……」

「……あぁ~、ホントだ」


 返事を聞いた亜理紗が改めてスマホで調べると、やはり届け出が必要だということが分かった。


 でも、かなり時間を取られそうだし、ひとまず今日は水を確保したいので後回しにすることにした。


「ふぅ……次に行こう」


 俺はアイテムボックスに小判の入った箱ごとを放りこみ、気を取り直してダウジングを再開する。


「これは……」


 さっきのように激しい揺れではないけど、綺麗に円を描くように揺れていた。今度こそ間違いないはずだ。


「ヨル、頼む」

「きゅっ」


 今度は最初から夜に任せて穴を掘って貰った。


 ――プシャァアアアアアッ


「おっ」


 しばらく待っていると水しぶきが噴き出した。つまり水が出たということだ。これでようやく水が確保できる。


「あっつ!?」

「あつーい!!」


 そう思ったのだが、その水しぶきは熱を持っていた。そして、硫黄の匂いも漂ってきた。


 つまりこれは……。


「温泉か?」


 水柱は数十メートルに及んだ。上から雨のように俺に降り注ぐ。そのせいでずぶ濡れになってしまった。


 したたり落ちてきた水滴を舐め取ってみる。


「若干酸味のある味。これは日本に多い温泉っぽいな」


 以前口に入れたことがある味がした。これは温泉に違いない。日本人として風呂に入れない生活は問題外だ。だから温泉が出たことは素直に嬉しい。


 だが、嬉しいには違いないが、水源を探していたはずだ。それなのになんで、埋蔵金が出た上に温泉まで湧くんだ?


 意味が分からない。


 ただ、このまま温泉が噴き出し続ければ、その水が辺りをびちゃびちゃにしてしまうのは目に見えている。放置するわけにもいかないだろう。


「ヨル、温泉を溜める池と水路を通せるか?」

「きゅんっ」


 ヨルに頼んで整備してもらったおかげで、お湯は池に溜まり、溢れた分は川まで水路を流れるようになった。


「あ、あの~」


 作業が終わった後、亜理紗がなぜか恐る恐る俺に声を掛ける。


「なんだ?」

「温泉に入りたいなぁ、なんて……」

「ん~……そうだな。いいだろう」

「やったぁ!!」


 正直、温泉のことはかなりに気になる。それに、俺たちは今ずぶ濡れになってしまった。風邪を引かないように体を温めた方がいいだろう。


 もしかしたら温泉が湧いたのは亜理紗が望んていたからかもしれないな。


「ヨル、こんな感じに風呂を作れるか?」

「キュンッ!!」


 俺が地面に図面を引きながら説明すると、ヨルは胸をポンと叩く。


 そして、すぐに土が凹んで二つの湯船が出来上がったかと思うと、周りを土壁で覆って天井の無い四つの個室がものの数十秒ほどで完成してしまった。


 しかも、壁は土とは思えないほどに硬質で、金属のようにさえ思えるような光沢を放ち、つるりとした手触りをしている。


「ありがとな」

「きゅんっ」


 撫でると、普段無表情のヨルが蕩けるような表情になった。


 その落差がたまらなく可愛い。


 当然一人だけで済むはずもなく、他の皆も撫でてやった。何故か亜理紗も何食わぬ顔で混ざっていた。


「ふへへっ」


 人前では見せていけない表情になったので、俺しか居なくてよかったと思う。




「それじゃあ、おじさん、また後でね」

「ああ。マヒルとヨルは任せたぞ」


 俺と亜理紗は着替えを取ってきて温泉の脱衣所に入ろうとする。


「分かった。あ、覗いてもいいからね?」

「いや、そこは覗かないでっていうところじゃないのか?」


 訳の分からないことを言う亜理紗をじっとりと見つめた。


「ふふふっ。おじさんなら別にいいよ」

「そんなことするわけないだろ、まったく……」

「昔は一緒に入ってくれたのになぁ」

「今と昔は違うっての」

「はぁ、残念。それじゃあね。マヒルちゃんとヨルちゃん、行くよ」

「ああ」


 入る直前で揶揄ってきたが、適当にあしらって彼女たちを見送って脱衣所に足を踏み入れる。


「はぁ……いかんいかん」


 兄貴の電話や亜理紗の言動で思わず想像してしまい、頭を振って邪念を追い払う。


 まったく俺は姪っ子相手に何を考えているんだ。


 なんとか顔に出ないように気を付けたが、危なかった。


「風呂に入って、一緒に洗い流そう」


 俺はすぐに服を脱いで浴場へと移動する。


「これは凄い……」


 湯舟は俺がお願いした通りに、岩で周りが囲まれ、底には岩のタイルが敷かれていた。外には木々も見えるし、後は壁が木製とかだとかなり雰囲気が近づくと思う。


 俺はかけ湯をしてから湯船に浸かった。


「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」

「ピィイイイイ……」


 温泉はやっぱりいいものだ。


「そう思うよな。ワラビモチ」

「ピッ」


 俺とワラビモチは温泉に浸かって体の力を抜く。


「あっ。こらっ。そっち行っちゃだめだよ!!」

「きゅんっ」

「きゅっ」


 しかし、しばらくぼんやりしていると、その静寂を破る者たちがいた。日差しが遮られ、突然俺に影が落ちる。


「ん?」


 俺は空を見上げた。そこには二つの影。


 ――バシャーーーンッ


「うわっぷっ。な、なんだ!?」


 次の瞬間、その物体は湯船に着水し、大きな水しぶきが俺に襲い掛かった。


「マ、マヒルとヨルか?」


 胸元に頭を擦り付けている感触からマヒルとヨルだと当たりを付ける。


「きゅっ!!」

「きゅいっ」

「なんで、こっちに来たんだ。あっちにいないとダメだろ?」


 顔を拭って視界が開けると、そこには思った通り二人がいた。


「パパ~」

「パパ……」


 言葉を聞いた二人は俺にギュッとしがみついてくる。


 亜理紗が居るなら彼女に任せた方が良いと思ったんだが、どうやら俺と一緒に入りたいらしい。目を潤ませて懇願するように見つめられたら、断れるはずがないだろう。


「はぁ……しょうがないな」

「きゅっ!!」

「きゅんっ」


 返事を聞いた二人は嬉しそうに目を細めて俺に頭を押し付けてきた。


「あっ、それじゃあ私も!!」

「お前はダメだ」

「そんなぁ~!!」


 何故か亜理紗も塀から顔だけ出してこっちに来ようとするが、断固として拒否だ。


 ダメったらダメ。

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