第028話 い、一体何者なんだ……

「あぁ?」


 なんだか騒がしくて目を覚ます。傍に亜理紗が立っていた。しかも、眉間にしわを寄せて俺を睨みつけている。


「ん、どうしたんだ、こんな朝早くに……」


 俺は上体を起こして目を擦りながら亜理紗に尋ねた。


 外は薄暗く、まだ日も昇っていない。

 昨日来るとは言ってたけど、こんな時間に来るなんて何かあったのか?


「どうしたもこうしたもないよ!! この子たちは誰!?」

「ん? うわっ、誰だこれ?」


 ぷりぷりと怒る亜理紗に言われて初めて視線を落とした。


 彼女が指し示す場所には、幼稚園児くらいの幼女が二人スヤスヤと眠っている。


 ここ数日は家でのんびりと過ごしていた。その間、誰も家に来ていない。だから、家の中には俺とマヒル、ヨル、ワラビモチしかいないはずだ。


 昨日の夜も、いつものようにマヒルとヨル、そしてワラビモチと一緒に眠りについた。


 ワラビモチはいつも通り、俺の枕の隣で眠っている。ただ、マヒルとヨルが見当たらない。その代わりに二人の女の子が寝ている。そして、その女の子たちは黒髪と白髪で、その頭にはが生えている。


 そこから導き出される答えは……。


「まさか……」

「何!? ちゃんと説明してよ!!」


 俺の態度を見て詰め寄ってくる亜理紗。


「あぁ……この二人は多分マヒルとヨルだ」

「えぇ!?」


 俺の言葉に狼狽える亜理紗。


「二人の姿がないし、この子達には狐みたいな耳があるからおそらくな」

「ホントだ。獣耳がある……」


 亜理紗は眠る幼女に顔を近づけてまじまじと見つめる。


「きゅう?」

「きゅん?」


 俺たちが騒がしくしていたせいか、二人とも目をゆっくりと開けて目を覚ましてしまった。


「起こして悪かったな?」

「きゅうっ」

「きゅんっ」


 俺が謝ると、二人は俺にくっついてくる。やはりマヒルとヨルに間違いないな。見た目は人間だけど、中身と言葉は狐の時と変わらない。


「こらこら、危ないだろ?」


 抱きかかえて軽く叱るが、二人は聞き流して俺の顔に頬を擦り付けてきた。


 思わず頬が緩む。


 幼い亜理紗を俺が抱っこしてやった時に似ている。小さな亜理紗は可愛かった。ふふふ、懐かしいな。勿論亜理紗は今も可愛いのだが。


 それよりも、今はもっと大事なことがある。


「マヒル、ヨル、お前たちはどうしてそんな姿になっているんだ?」

「きゅう?」

「きゅうん?」


 俺はマヒルとヨルに問いかけると、二人は首を傾げた。


 二人とも自分の変化に気付いていないらしい。


「人間に近い姿になっているぞ?」

「きゅきゅーん!!」

「きゅきゅう!!」


 俺が説明してやると、二人はお互いの姿を見て驚愕していた。


 ただ、彼女たち何も着ていない。これは非常によろしくない。


「お前たち、元の姿に戻れるか?」

「きゅう!!」

「きゅん!!」


 俺の質問に頷いた二匹はボフンと煙を立てて、元の姿に戻った。


 ふぅ、これで一安心だな。


 図らずも二人が正確に女の子だと分かった瞬間だった。


「本当にマヒルとヨルなんだね……人に変化するなんて信じられない……」

「まぁ、いいじゃないか。可愛いことに違いはないからな」


 二人が狐形態に戻って正体がハッキリすると、亜理紗は呆然としていたが、俺にとってはモンスターだとか、人間に変化するとか、そんなことはどうでもいい。


 マヒルもヨルもすでに大切な家族だ。


「キュウッ」

「キュンッ」


 二人は俺に撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。もう、この姿が見れるだけで良いじゃないか。


「ピッ」

「はははっ。勿論、お前のことも忘れてないぞ、ワラビモチ」


 俺たちが羨ましかったようで、ワラビモチもベッドの上に飛び乗って俺の許にいそいそとやってきた。なんだか可愛くて、ワラビモチを抱き上げて撫でてやった。


「はぁ……良かったよ、おじさんがロリコンじゃなくて……」

「全く失敬だな。俺は普通だ」


 安堵して思いきり息を吐く亜理紗。俺はそんな彼女に冷ややかな視線を送った。


「えへへ、ごめんなさーい」


 亜理紗は申し訳なさげに笑って謝罪する。


「それよりも、人間の姿になれるのなら、色々欲しい物があるな」


 一番欲しいのは服だ。それ以外にも必要な物が沢山あるだろう。


「そうだね。色々入用になるだろうから、買い物に行こうよ」

「おう、付き合ってくれるのか?」

「うん、勿論!!」

「亜理紗が一緒に行ってくれるなら心強い。ありがとな」


 思いがけない提案だったが、それはとても助かる話だ。マヒルとヨルは女の子。男の俺だけじゃ至らないことも多いはずだ。


「べ、別にこんなこと大したことないよ」

「いいや、俺じゃ何も分からなくて困っていたさ。本当に助かるよ」


 亜理紗は謙遜するが、感謝を込めて彼女の頭を撫でた。


「も、もう!! 私先行ってるから!!」

「お、おい!! まだどこの店も開いてないぞ!!」


 すると、亜理紗は急に部屋から飛び出して行ってしまった。


 今はまだ日も昇らない早朝。一体どこの店が開いているというのだろうか。


「全く、仕方ないな……」


 亜理紗のそそっかしさに口許を緩ませながら、俺は彼女の後を追った。

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