ハッピーおじさん~不幸のどん底に落ちた男、幸運値が限界突破し、姪っ子の配信でバズるも、気づかないまま規格外ダンジョンを食糧庫代わりにして最強を超える召喚獣や従魔達とスローライフ~
第032話 「記憶にございません」従魔法則はすっとぼけた
第032話 「記憶にございません」従魔法則はすっとぼけた
「これってどういうことなの!?」
その様子を見て亜理紗が驚愕の声を上げた。
「ゲームでもあんまりないことなのか?」
「あ、当たり前だよ。一匹なら百歩譲って可能性はあるかもしれないけど、それがこんなに大勢となると百%ありえない現象だよ」
「そうなのか……」
亜理紗でも遭遇したことのない未知の現象。俺には対処方法が分からない。
「どうしたらいいと思う?」
「うーん。倒さないと糸を手に入れられないんだけど……」
俺の質問に、亜理紗は困惑気味にマジックシルクシープたちを見つめる。
彼女の言う通り、素材が手に入らないとマヒルたちの服を作ってやることができない。それを考えると倒すという選択一択になるが、こちらに好意的な相手を攻撃することなんてできない。
「ヴェヴェヴェ~!!」
悩んでいると、一匹の色が違うマジックシルクシープが必死にアピールしてきた。
マジックシルクシープは大型犬くらいのサイズ。アニメのキャラクターのようにデフォルメされた見た目をしているので本当に可愛らしい。
目の前のマジックシルクシープは他の個体と比べて一回り大きく、青白い光を体から滲ませていた。
「どういうことだ?」
「あ、多分毛をくれるってことじゃない?」
「ヴェヴェヴェ~!!」
俺が首を傾げると、亜理紗が予想を述べる。それを肯定するようにリーダー個体が大きく鳴いて首肯した。
「なるほどな。とはいえ、どうやって毛を貰ったらいいんだ?」
今俺たちに毛を刈る道具なんて持って来てないけど。
「ヴェヴェヴェ~」
すると、どこからともなく羊たちが沢山の毛を運んできて、その毛を俺たちに差し出した。
「えっと、くれるってことか?」
「ヴェ~!!」
俺が尋ねると、リーダーは体をブンブンと縦に振って肯定した。
「つまり、倒さなくても毛を貰えるってことか」
「ヴェヴェンッ!!」
マジックシルクシープたちを倒すのは非常に気が引けるので、こうやって素材を手に入れられるのなら非常に助かる。
「素材に関してはこれでいいとして、後はこの子達の処遇をどうするかだね」
「そうだな。流石にこれだけの数のマジックシルクシープは連れていけないしな」
とっても可愛いので俺としては仲間にしたいところだ。これだけのモフモフに囲まれて過ごす生活はとても素晴らしいものになるのは想像に難くない。
ただ、ここには数十匹のモンスターがいる。こんな数を街中で連れて歩くのは現実的に考えて不可能だ。いや、できるかできないかで言えば、できるかもしれないが、他の人に多大な迷惑をかけることになるのはまず間違いない。それは避けたい。
「ヴェ~!!」
俺たちが悩んでいると、再びマジックシルクシープが訴えかけてくる。
「ん? 自分たちはここに残るって言いたいのか?」
「ヴェエエエ!!」
俺の言っていることがあっていたらしく、代表シープは再び頷いた。
彼らがそう言ってくれるのは嬉しいが、それだと問題がある。
「それだと、何かあっても俺たちは守ってやれないけど、大丈夫なのか?」
そう。いざという時に離れていては、他のプレイヤーに襲われたとしても、俺たちはどうにもできないとうことだ。
それに、モンスターの生態に詳しくないので分からないけど、他のモンスターたちから攻撃を受けるなんてこともあるかもしれない。
「ヴェ~」
「そうか。分かった」
それでも大丈夫と言うのだから俺は全員を引き受けることにした。
でも、折角可愛い子たちを仲間にするのなら、絶対に死なせたくない。心配だから定期的に様子を見に来るようにしよう。
「全員イエスだ」
『ヴェヴェヴェ~!!』
俺が全てのウィンドウにイエスを選択すると、マジックシルクシープたちは大いに喜んだ。
「テイマーでもないのに、モンスターをテイムするし、エリア内の全モンスターが降伏するとか、おじさんがいつも通り斜め上過ぎる……」
後ろで亜理紗が神妙な表情で何やらブツブツと呟いているが、気にしないことにした。それよりもこれでルウの依頼は達成できたわけだ。
これでマヒルたちに服を作ってやれるな。どんな服が出来上がるのか今から楽しみだ。
沢山の毛玉を受け取った俺たちは帰路についた。
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