第033話 天使の降臨
「おっかえりぃ~あああああああ!!」
俺たちがルウの店に戻ると、またもや、やたらと高いテンションで俺たちに飛び掛かってくる。その動きは新体操の選手もかくやの華麗な動きだ。
「落ち着いてってば!!」
「ぐほぉっ」
しかし、同じように亜理紗が拳で床に叩き落とした。
人間がしてはいけない角度でエビ反りしている気がするぞ?
「たたたーっ。もう、リサちんちょっと横暴すぎない?」
「ルウが興奮しすぎるからだよ」
ルウは涙目になって腰を手で擦りながら亜理紗に抗議をするが、亜理紗はにべもない。
「ごめんて。それで、マジックシルクシープの糸は取ってこれたの?」
「うん、これね」
ルウの質問に、亜理紗はアイテムボックスに入れていた毛玉をボトボトと床に積み重ねることで応える。
「当たり前のようにマジックシルクシープじゃないんだね」
「動画見てるんなら分かるでしょ?」
「やっぱり、みっちんもモンスターだよね、そうだよね?」
亜理紗の返事を聞いたルウが、グイっと俺の方を向いて、なぜか目を見開いたまま手をワキワキさせて近づいてくる。
やはり、あらぬ嫌疑を掛けられていたか。
「俺は人間だぞ?」
「嘘だよぉ。だから触診させてもらわないと。ぐへへへへ~!!」
否定したはずなのに、全く聞く耳を持たずにルウが襲い掛かってきた。
女の子を叩き落すわけにもいかないし、どうしたらいいんだ……。
「止めなさい!!」
「ぶほぉっ!!」
亜理紗によって俺の悩みは一瞬で解決した。
「ひどいよ~」
「いい加減懲りてよね。さっさとマヒルちゃんたちの服と飾りを作ってよ。そしたら、モフっていいんだから」
先ほどと同じ光景を繰り返すルウに、亜理紗が呆れたように返す。
「あ、そうだった!! まずは採寸するね」
毛玉を受け取ったルウは、それをアイテムボックスに入れてポチポチとウィンドウを操作した後、マヒルたちの傍で跪いてメジャーで測った。
「そしたら、次は人型だね。変身してくれる?」
「「キュウ」」
マヒルとヨルはルウの言葉に従い、姿を変える。俺はすぐに後ろを向いた。
「ひょぇええええ……天使、これは天使だよぉおおお……」
ルウが彼女たちの人型を見た途端、声を震わせる。
分かる……分かるぞ、その気持ち。二人は可愛らしさと神々しさを併せ持つ至高の存在だからな。
「はい、もういいよ」
「おじさん、終わったみたい」
「了解」
再び狐モードに戻ったことを亜理紗が知らせてくれたので、俺は再び前を向いた。
「それじゃあ、始めるよ!!」
そして、ルウの掛け声と眩い光が放たれる。ルウは糸を舞うように紡ぐ。
「はい、完成!!」
すると、ものの数十秒で装備が完成してしまった。それは青と赤のスカーフだった。すぐにマヒルとヨルの首にスカーフを付けてやる。
「おお!! 二人ともよく似合ってるぞ!!」
「うんうん、とっても可愛いね!!」
「キュンッ!!」
「キュウッ」
俺と亜理紗が二人を褒めると、嬉しそうに飛び跳ねた。
「それじゃあ、二人ともまた人の姿になってね」
「「キュンッ」」
再び二人が変身すると、そこにはきちんと布を纏った二人の幼女が姿を現わした。
二人の服は巫女服とスカートを組み合わせたようなもので、マヒルが白と蒼、ヨルが白と赤で対照的な色遣いをしている。
いい感じに尻尾も服から出ていて窮屈じゃなさそうだ。
――カシャッ、カシャッ!!
「ああぁああああっ。さいっこう!! これはもう神、癒しの神だよ!!」
ルウはテンションが振り切っておかしくなりながら、どこから持ってきたのか、やたら高そうなカメラでマヒルとヨルたちに向かってシャッターを切っていた。
とても幸せそうな笑顔をしているから放っておこう。
「それじゃあ、モ、モフらせてもらってもいいでしょうか!!」
満足するまで写真を撮った後、マヒルとヨルに尋ねるルウ。二人はお互いに顔を見合わせた後、コクリと頷いて狐の状態に戻る。
「そ、それでは失礼して……ふわぁあ~っ」
いつもあの勢いは何処へ行ったのやら、ルウは恐る恐ると言った感じでマヒルを抱っこして顔を
その瞬間、人に見せてはいけない程に蕩け切った顔になって、ルウはしばらく動かなくなった。
二人のモフモフは至高の触り心地だからなぁ。俺もあんな顔になっているんだろうか。ちょっと気を付けないとな。
「今日はありがとな。あんな風に作るなんて知らなかったから面白かったよ」
ルウがマヒルたちを堪能した後、開店準備があるらしいのでお暇することに。
「普段はスキルだけに頼らず、しっかり手順を踏んで自分で作るんだけどねぇ。その方が性能を上げられるし、付与効果も付けられるから。でも、急ぎみたいだから今日のところはスキルで作らせてもらったよ。次会う時までにちゃんとしたのを作っておくから」
システマチックなだけじゃなくて人の手でやることで色んな拡張性がある。ますますFIOでのモノづくりというものに興味が湧いてきた。
「へぇ。そういう自由度もあるのか。面白いな。全然気にしないでくれ。それと、良かったら、もう何個か違うバリエーションを作ってくれないか?」
「勿論!! あれだけの材料と写真、それにモフらせて貰ったなんて、完全にこっちの貰い過ぎだからね。元からそのつもりだったよ」
「それは助かる」
服が一つだけと言うのも可哀そうなので追加で頼むと、思いがけない提案を貰ったので今回は頼らせてもらうことにする。
いつかはマヒルたちの服も自分で作ってやりたいな。
「うん、任せてよ……その時はまたモフモフをぉおおお!!」
俺が気を抜いたところで、ルウが目をキラーンと光らせて躍りかかってくる。
「早く開店準備しろ!!」
「ぐほぉっ!!」
しかし、今までと同様に亜理紗に叩き落されていた。
全く懲りる様子がないな。
「さてと、買い物して帰ろうか」
「そうだね」
「「きゅうっ」」
「「ピッ」」
俺は幼女姿のマヒルとヨルと手を繋ぎ、ワラビモチを頭に乗せる。そして、亜理紗とカシワモチと共にショッピングモールを目指して歩き出した。
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