ハッピーおじさん~不幸のどん底に落ちた男、幸運値が限界突破し、姪っ子の配信でバズるも、気づかないまま規格外ダンジョンを食糧庫代わりにして最強を超える召喚獣や従魔達とスローライフ~
第009話 もう我慢できない!!(亜理紗視点)
第009話 もう我慢できない!!(亜理紗視点)
■亜理紗視点
私は叔父さんが召喚スキルを使用する前に配信を始めた。
「はーい、皆さん、こんにちは!! リサチャンネルにようこそ!! 今日はおじさんが初めて召喚獣を召喚するっていうから皆で見守ろうと思います」
"あ、お金大好きアリサさん、ちっすちっす"
"あ、ハピおじ大好きアリサさん、ちっすちっす"
"あ、身バレしたアリサさん、ちっすちっす"
案の定、前回の放送事故をネタにいじってくるリスナーで相次ぐ。
ふっふっふっ。すでにキャラ設定や、身バレして叔父さんへの恋心まで露になった状態の私にこれ以上失うものはない。
今の私は無敵!!
「シャーラップ!! もう素でいくからいいの!! 皆は黙ってスパチャしてね!!」
"あ、開き直った"
"くっ。そんな顔も可愛いからズルい"
"500円:そんな風に煽られたらスパチャしちゃう"
"アリサがそんなやつだとは思わなかった。ファン止めます"
"ビクンビクンッ"
私が強気でいくと、中にはアンチコメントがあるものの、概ねいい方に受け取られていた。
うんうん、これでいいよね!! 別に皆にスパチャ貰わなくても動画の再生だけで余裕だし、ぐふふっ。
「おじさん、お願い」
「えっと、異なる世界に生きる者よ。我を主と認めるのならば、呼びかけに応じよ、サモンッ」
"たどたどしいおじさん……良い"
"あんなおじさんなら使役されてもいいかも"
"wktk"
おじさんが呪文を唱えた直後に魔法陣が虹色に光る。それは最高ランクの
伝説級の召喚獣なんて現実世界で召喚した人は片手で数えるだけ。それだけでどれだけ希少か分かると思う。
"ハピおじならこのくらい当然だよな"
"うんうん"
"いやいや、ハピおじがこの程度で終わるはずないっしょ"
"間違いない"
リスナーたちは大体この展開は予想済み。私もそう。
昨日あれだけのことをしたおじさんだ。
そして、おじさんの魔法陣の変化はそれだけじゃなかった。
"なんだあれ、あんな演出見たことあるか?"
"ないない。レジェンドよりも派手だよな"
"これ絶対ヤバいやつくるでしょ"
"期待を超えてくるなぁ、ハピおじは"
コメントでも言っているようにさらに派手で豪華な演出になっている。おじさんは大したことじゃないと思っているみたいだけど、これはありえないことが起こる前兆に違いない。
「もしかしたら、もっと上のレアリティだったりして……そんなまさかね、伝説級の上なんてないし……はははっ」
"その可能性しかないでしょ!!"
"レジェンド超え一択!!"
"ゴッド級とかかな?"
"うほっ。楽しみ!!"
リスナーたちも私と同じ予想をしている。最高ランクを超えるランクのモンスターの召喚を。
でも……現れた召喚獣は二体。そう、二体だったの。
"ええぇええええええええええええ!?"
"ええぇええええええええええええ!?"
"ええぇええええええええええええ!?"
召喚獣は一度の召喚で必ず一体。今までこの法則から外れたことは一度もない。それが覆された瞬間だった。
私を含め、見ている人たちも理解できないその光景に唖然としてコメントを打つのも忘れている。
「よし、お前はマヒル、お前はヨルだ」
「「キュンッ」」
そうこうしている内に、おじさんがその召喚獣たちに名前を付けていた。
「って、おじさん、もう名前つけてるし。ていうか二匹とも眷属にできたの!?」
「ん、ああ。できたぞ?」
私が我に返っておじさんに問いかけたら、おじさんは立ち上がってきょとんとした顔で返事をする。
「召喚枠はどうしたの!?」
「んーと、一分の二になってるな」
私が問い詰めると、おじさんはステータスを確認して呑気に笑う。
召喚枠を超えて使役できるなんてありえない。
「なんで上限超えてるの~? 上限さんは一体何をしてるのかな?」
私はあまりの意味不明さに混乱してしまった。
"アリサちゃん、壊れちゃった"
"いやぁ、あれは仕方ないっていうか"
"システムの上限を超えられたらなぁ"
「大丈夫か?」
おじさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
自分は何も関係ないみたいなその顔が憎たらしい。
「もうっ!! おじさんのせいなんだからね!!」
「お、おう……それはすまなかった」
ちょっと八つ当たりすると、おじさんは申し訳なさそうに私に謝る。
絶対何も分かってない。でも、これ以上何かを言ったところでおじさんは変わらないんだよね。
「はぁっ……もういいよ。それで、その子の種族は? 予想はできるけど……」
私はため息を吐いて気持ちを切り替え、覚悟を決めて尋ねる。
"あのビジュアルってやっぱり……"
"え、マジ?"
"そうとしか考えられないよな"
子狐の容姿から私たちには思い当たる存在が一匹だけいた。
「九尾狐の幼体の白と黒だな」
返ってきたのは予想通りの答えだった。予想通り過ぎて驚かずにはいられなかった。
そう。FIOの召喚獣は数百種類あれど、召喚できないモンスターなどいなかった。たった一種類を除いては。
そのモンスターこそ、九つの尻尾を持つ狐モンスターである
そんな未知で幻と呼ばれるモンスターの召喚というだけでもありえないのに、色違いの個体が一体ずつ、合計二体召喚されるなんてもう異次元。
"九尾狐だよなぁ!!"
"レジェンド超えて幻の召喚獣きた!!"
"超かわいい!!"
九尾狐を見た瞬間、リスナーは歓喜に舞い、コメントの流れる速さが加速する。
「あはははっ。くすぐったいぞ?」
「「キュンキュンッ」」
"ハピおじと多尾狐が戯れる光景が尊すぎる"
"分かる"
"見守りたい"
確かに九尾狐を可愛がっているおじさんには近づきにくいオーラが出ている。私もあそこに入りたい。
そして、皆の言う通り、あれは間違いなく推せる……。
「あっ。おじさんと狐ちゃんの生配信も定期的にやるからよろしく!!」
ちょっと悔しいけど、叔父さんと戯れるあの子たち。あれは良いものだ。あそこからしか得られない癒しがある。
"賛成!!"
"それだけで生きていける"
"日々の癒しが増えるぅ~"
"最高だなぁ"
皆にも需要がありそうだ。しめしめ。
「それじゃあ、今日のところはここで終わりにするね!! ばいばーい!!」
私はそこで配信を終えた。なぜなら、どうしても我慢できなかったから。
「おじさん、私にもマヒルちゃんとヨルちゃんをモフモフさせて!!」
私は叔父さんに向かってそう叫んでいた。
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