第011話 皆を幸せにするハッピー

「よしよし~、あははははっ!!」

「キューンッ」

「キュンキュンッ」


 目の前で亜理紗がかれこれ十分以上マヒルとヨルと戯れている。


 とても楽しそうなのはいいんだが、人に見られたりしたらマズそう顔になっているので、そろそろ止めておこう。


「亜理紗、そろそろいいか?」

「あ、うん、そうだね。マヒルちゃん、ヨルちゃん、ありがと」


 俺が声を掛けると、亜理紗はハッと我に返ったようにマヒルとヨルを地面に置いた。


「「キュンッ」」


 マヒルとヨルが可愛らしく鳴く。


「あぁ~、可愛いぃいいいいっ!!」

「「キューンッ」」


 それを見た亜理紗がマヒルとヨルに飛びついて、だらしのない顔で再び頬擦りを始めた。


 さらに十分ほど待つことになったのは言うまでもないことだろう。


「それじゃあ、二人の力を試してみましょ」

「え、戦わせるのか?」


 俺は、亜理紗の突然の提案に困惑する。


「うん、そうしないと強さ分からないし」

「こんなに可愛いモンスターたちを戦わせるのは気が引けるな」


 亜理紗の言葉を聞いた俺は視線をマヒルとヨルに移した。


 俺の前にいるのは小さな子狐が二匹。つぶらな瞳をしていて、どう見ても戦えそうにない。そんな二匹をモンスターの前に立たせるのは可哀そうな気がしてしまう。


「召喚獣は戦うためにいるんだから。戦いたいはずだよ」


 確かに俺と一緒に闘うために呼ばれ、それに応じたのは彼らだ。本人たちのことは本人たちに聞いてみることにしよう。


「お前たち、本当か?」

「「キュンッ」」


 俺の質問にマヒルとヨルはやる気満々という雰囲気で首を縦に振った。


 どうやら亜理紗の言った通りみたいだな。


「そうか、分かった。絶対無理したら駄目だからな?」

「「キュッ」」


 俺の忠告に頷いた二匹を連れて、俺たちはモンスターを探して歩き始めた。


「その前に、こっからは動画を撮影するね」

「ん? ああ、分かった」


 ドローンカメラを取り出して宙に浮かせる亜理紗。


 俺はともかくマヒルとヨルを撮りたい気持ちは分かるので許可する。


「おっ。出てきたぞ」

「キュンッ」


 少し歩いたところでケムーシーが出てきたので指を指したら、マヒルが飛び出していった。


 ――スパッ

 ――Critical Hit!!


「え……」


 そして、気が付いたらケムーシーは真っ二つに切り裂かれ、姿を消してドロップアイテムを落とした。


「キュンッ」


 ――スパッ

 ――Critical Hit!!


 今度はヨルが飛び出していき、一瞬で別のケムーシーを倒してしまった。その際もクリティカルヒットが出て、アイテムをドロップした。


 とりあえずケムーシーじゃ相手にならないくらい強いことが分かった。


「召喚獣は最初はすっごく弱いはずなのに二匹は強すぎるよ!!」

「いいことだな」


 それだけで二人が傷つく可能性が減る。


「それに、なんでクリティカルとドロップアイテムが二回連続で出るのよ!!」

「たまたまだろ?」


 二回連続くらい出ることがあるしな。


「それじゃあ、検証させてもらうからね!!」

「分かった分かった」


 俺は諦めて彼女の思うがままにさせることにした。


 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!


「ありえなーい!!」


 その結果、二匹は何度攻撃しても俺と同じようにクリティカルヒットしか出ないし、アイテムを全討伐モンスターからドロップした。


 亜理紗は頭を抱えて蹲ってしまった。


「おい、大丈夫か?」

「なんで全部クリティカルヒットになるの? アイテムを全部落とすってどういうこと? 私だけならなくて、二匹は叔父さんと同じようになる。二匹と私の違いは? 召喚モンスターはパーティ扱いになっている。もしかしてパーティが関係しているのかも……」


 俺が話しかけても、亜理紗はブツブツと呟いて戻ってこない。


「ねぇ、おじさん、私をパーティに入れてくれる?」

「分かった」


 亜理紗が突然立ち上がってそんなことを言い出した。


 なんだかよく分からなかったが、俺は指示を受けながらパーティ申請というものを彼女に送った。


 パーティとはチームのようなもので、仲間の状態や、敵を倒した時にもらえる経験値というレベルアップに必要な物を共有することができるらしい。


『リサがパーティに参加しました』


 すると、彼女が俺のパーティに入ったことがウィンドウで通知される。


「何をするんだ?」

「検証よ」


 すぐに亜理紗がずんずんと森の奥の方進み始めた。後を追いながら声を掛けたら、良く分からない言葉が返ってくる。


 一体なにを確かめるつもりなんだ?


「見つけた」


 亜理紗はモンスターを探していたらしい。


「はっ!!」


 ――Critical Hit!!


 モンスターはクリティカルヒットが出て、アイテムを落とした。


「やっぱり……」


 腑に落ちた顔になった亜理紗。


「どうしたんだ?」

「もう少し待ってて」


 亜理紗は俺の質問に答えることなく、モンスターを探して殺していく。


 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!

 ――Critical Hit!!


 その結果、亜理紗もクリティカルヒットとアイテムがどの個体でも出るようになった。


「そういうことだったんだ」

「どういうことだ?」


 亜理紗が何かに気付いたようなので聞いてみる。


「うん、おじさんと同じ現象がパーティ内の人間にも適用するみたい」

「へぇ、そりゃあいいことだな」


 パーティに入った人が皆クリティカルヒットになってアイテム落とすのなら、普通よりも楽に稼げて、色んなアイテムを手に入れることができる。


「はぁ……まぁいいや。驚き疲れちゃったし、お腹が空いたから休憩しよ」

「分かった」


 何故か亜理紗に呆れた顔をされてしまったけど、まぁいいか。


 俺たちは適当な場所に腰を下ろして休憩を取った。

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