ハッピーおじさん~不幸のどん底に落ちた男、幸運値が限界突破し、姪っ子の配信でバズるも、気づかないまま規格外ダンジョンを食糧庫代わりにして最強を超える召喚獣や従魔達とスローライフ~
第004話 ハッピーおじさん、現る(亜理紗視点)
第004話 ハッピーおじさん、現る(亜理紗視点)
■亜理紗視点
「皆さん、こんにちは!! リサチャンネルにようこそ!! 今回は覚醒初心者向けにモンスター倒し方を教えるよ!!」
私は最新式のドローンカメラに対して目一杯の笑顔で語り掛ける。自動で良い感じに撮影してくれる優れものだ。
今やっているのは動画の生配信。自分で言うのもなんだけど、そこそこ人気があり、毎回数百人がリアルタイムで閲覧してくれている。
「雑魚モンスターは本当に弱いから安心していいよ」
私が今動画で説明しているのは、モンスターとの戦い方。おじさんに教えたのと同じ内容を説明していく。
"うわぁ、懐かしいな、ケムーシー"
"ケムーシーきっも"
"デフォルメされててもデカい毛虫だからなぁ"
見てくれている人たちの中には、勿論経験済みの人たちもいて、その経験を共有しあっていた。
「それじゃあ、実際に闘ってみるね。はっ!!」
私はケムーシーに駆け寄って蹴り飛ばす。
"いつ見てもリサの古武術はかっこいいなぁ"
"古武術!! 弟子にしてください!!"
"リサに蹴られたい"
私の武術なんてまだまだだって分かっているけど、褒められると嬉しい。
「はい、こんな感じで簡単に倒せます。次は攻撃を受けてみるね」
「ピギーッ」
私はケムーシーに近づいてその体当たりを防御せずに受けた。ズシリという重さを感じたけどそれだけ。私の体には傷一つついていない。
「はい、見て分かるように、ケムーシーはプレイヤーにダメージを与えられないくらい弱い攻撃力しかありません。だから、安心して戦ってみてね!!」
"びっくりしたけど、本当に傷一つない"
"俺でも倒せるかも"
"私も戦ってみようかな"
"毛虫は生理的に無理かも……"
まだ戦ったことがない人たちのコメントを見て私は嬉しくなる。
「これで戦闘の説明を終わるけど、それだけじゃつまらないので、クリティカルヒットを五回連続で出せるか挑戦してみるね。制限時間は十五分」
"クリティカルヒット出すの難しいよな"
"そうそう。正確に弱点を狙わないといけないし"
"しかもそれで百%出るわけでもないっていう"
"それな"
クリティカルヒットは相手の弱点を突けば出やすくなるけど、コメントで言われている通り、それは絶対じゃない。大体五割くらいの確率だと思う。
それを五回連続で出せる確率は約三%。難しいチャレンジだよね。
「いっくよー!!」
私はケムーシーが集まっている場所に移動して、ケムーシーの弱点である眉間を蹴り飛ばした。
――Critical Hit!!
「一回目、成功!! 二回目は……」
「ピギッ」
「あぁ……失敗かぁ……」
一回目は成功したけど、二回目はクリティカルヒットを出せなかった。
"どんまい!!"
"まだまだこれからだよ!!"
"頑張って"
「皆ありがとう!!」
応援してくれる皆に感謝を告げて、次のケムーシーに躍りかかる。でも、やっぱりのその確率の低さゆえに、中々成功しない。
「四回目……成功!! やった!!」
でも制限時間ギリギリで四回目まで成功した。後残すは最後の一回。
"凄い凄い、ここまできただけでも十分!!"
”六%しかないからね、凄いと思う"
"ここで止める?"
コメント欄はそれだけでお祝いムードが漂っている。しかし、ここで止めたら女が廃る。
「五回目もいくよ!! せーの!! えい!!」
私は祈る気持ちでケムーシーの眉間を蹴り飛ばした。
――Critical Hit!!
「わぁあああっ!! 成功しました!!」
なんとその結果は成功。私はまるで偉業を成し遂げたように達成感に満たされる。
"300円:おめでとう!!"
"200円:おめでとうございます!!"
"たかがケムーシーだろ? そんなので何喜んでんだよ"
"100円:めでたい!!"
たまにアンチコメントもあるけど、大体皆が祝ってくれた。私は嬉しくてついつい笑顔になる。
「それじゃあ、そろそろ配信終わるね」
そして、大団円ということで、私はここで配信を切ろうとした。
”おい、ちょっと待て……”
"どうしたんだ?"
”あのおじさんを見てみろ……やばいぞ……”
"うわっ。何が起こってるんだ?"
”え、何回クリティカルヒット出してんの?”
"もう、十回は超えてるぞ"
でも、突然コメント欄が騒然となる。私は配信画面を確認して、皆が見ている人物を探る。それは私の叔父さんだった。
叔父さんは私と同じようにケムーシーと戦っていた。でもその光景は信じられなかった。なぜなら、さっきからずっとクリティカルヒットを出しているから。
しかも急所を狙っているわけじゃない。どこを攻撃してもクリティカルヒットが出ている。
私が見ている限りもう十回は超えた。十回連続でクリティカルヒットに成功する確率は〇.〇九%以下。おじさんはその確率をたった一度で引き当てていた。
――Critical Hit!!
しかも次の攻撃も成功している。
――ゴクリッ
私は思わず喉を鳴らした。
二十回、三十回、四十回……おじさんはその成功回数を伸ばしていく。そのありえない現象に、コメント欄には三点リーダが溢れかえっていた。
「え?」
しかも、気付かないうちにリアルタイム視聴者数が百万人を突破。そんな人数は一度だって達成したことがない。どう考えてもおじさん効果だった。
「ふぅ……そろそろ終わりで良いか」
結局おじさんは、百匹くらいのケムーシーを全てクリティカルヒットで倒した。
しかもおじさんの凄いところはそれだけじゃなかった。
"おいおい、なんだよ、あのドロップの数"
"倒した敵全てから全ドロップ落ちてね?"
"ありえないでしょ"
"合成おつ"
そう。おじさんの周りにはケムーシーがドロップしたと見られる、魔石と毛ばり、そして装備強化石が同数散乱していた。
クリティカルを百回以上連続で出した上に、倒したモンスター全てがレアドロップまでするなんてあまりにも現実味の無い結果。
それは奇跡と呼ぶほかない。
"なんだあれ……バグか?"
"合成? CG?"
"俺はとんでもないの瞬間に立ち会ったのかもしれない……"
"わけわからん"
コメント欄は呆然とする人と偽物だと主張する人たちで溢れかえっている。
"ハッピーおじさん……"
"ハピおじ"
だけど、ある時、誰かがコメント欄でおじさんのことをそう呼び始めた。そして、その呼称に次々と彼らは同調し始める。
コメントはハピおじコールで埋め尽くされた。
今日この日、私の叔父さんが"ハッピーおじさん"こと"ハピおじ"として、初めて世界に認知された瞬間だった。
私は自然と叔父さんの方に足を踏み出していた。
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