ハッピーおじさん~不幸のどん底に落ちた男、幸運値が限界突破し、姪っ子の配信でバズるも、気づかないまま規格外ダンジョンを食糧庫代わりにして最強を超える召喚獣や従魔達とスローライフ~
第003話 何の変哲もない戦闘チュートリアル(自称)
第003話 何の変哲もない戦闘チュートリアル(自称)
三カ月前、世界は変わった。
まず、FIOが煙のように消えた。代わりに世界中にFIOのモンスターが現れ始め、FIOをやっていた人たちだけがステータスに目覚めた。
彼らはプレイヤーと呼ばれ、一般人とは比べ物にならない程の身体能力やスキルと呼ばれる超常の力を扱い、彼らだけがモンスターに対抗できる。
幸いモンスターは主に人の少ない山間部や街の郊外に出現したおかげで、大きな混乱には至らなかった。
ただ、そんな力を持つ人間は国にとって脅威。すぐにプレイヤーの管理を目的とした組織「プレイヤーズギルド」が結成された。
ギルドに登録すると、毎月一定の金額が支給される。希望者には家も。それに、モンスターを討伐すると、その強さや数に応じた報酬が貰える。
また、モンスターは倒すと特殊な品物を落とす。その中には、現代の技術では再現できない程効果の高い治療薬や、貴重な資源などもあるらしい。それらは高く買い取られてプレイヤーの収入源となった。
そのおかげで、プレイヤーたちは積極的にモンスターを狩るようになり、世界が変わってしまっても一定の安寧が保たれている。
「おじさん、お待たせ」
一年以上かかると言われたリハビリを三カ月で終わらせて退院した俺は、諸々の手続きを済ませて、待ち合わせをしていた亜理紗と合流した。彼女にゲームのことや、プレイヤーについて色々教えてもらうためだ。
亜理紗には感謝してもしきれない。
この娘がいなければ、今もベッドの上で無意味な人生を送っていたことだろう。
それに、今日みたいに心配して助けてくれる。本当に優しい娘に成長してくれた。困ったことがあった時は全力で助けたいと思う。
「おう。よろしくな」
「うん、任せて!!」
亜理紗はショートパンツスタイルの服装の上に、胸当てやプロテクターなどを身に着けていた。これはモンスターからドロップしたり、制作技術を持つプレイヤーが作って取り引きしたりしているそうな。活発美少女の彼女に良く似合っていた。
一方で俺はアイテムボックスに入っていた初期セットだ。滅茶苦茶簡素でいかにも初心者です、と言わんばかりの雰囲気を醸し出している。
早く初心者を卒業したいものだ。
「まず最初に……」
山間部まで行く間に、亜理紗から基本的なゲームの知識を一通りレクチャーされた。なんとなく分かったと思う。
「次は実戦ね」
「戦闘か……緊張するな」
俺たちはモンスターが出現する場所に辿り着いた。
命の危険があるモンスターと戦うなんて怖くないはずがない。それにもういい歳だ。新しいことに挑戦するのは怖い。
「ここのモンスターは雑魚中の雑魚。私達にダメージなんてほとんど与えられないから心配いらないよ」
「そ、そうか」
亜理紗は胸をポンと叩いて引き受けるが、それでも不安は拭いきれない。
「何があっても私が守るから心配しないで」
「ふぅ……そうだな。分かった」
ここまで言わせてしまっては覚悟を決める他ない。
俺は彼女の後に続いて森の中に踏み入れた。
「あのモンスター、ケムーシー相手に見本を見せるから」
しばらく歩くと、今まで見たことがない大きさの、可愛らしくデフォルメされた毛虫を見つけた。体長は三十センチ以上ありそうだ。
亜理紗はそのモンスターに駆け寄っていった。
彼女の戦闘スタイルは、徒手空拳による近接戦闘。彼女は母方の祖父に古武術を習っていて、ゲームでもそれで戦っていたらしい。
「はっ!!」
亜理紗がケムーシーを蹴り飛ばした。ケムーシーは一撃でぐったりと横たわり、その姿を消した。
モンスターは倒すと死体は消滅し、その代わりに魔石と呼ばれる紫色の石を落とす。そのサイズは強いモンスターほど大きくなる。ケムーシーが落とした魔石は小指の先程度しかない最下級の魔石だ。
「どう? 簡単でしょ?」
「流石だな」
少し自慢げに話す亜理紗に俺は拍手を送った。
「じゃあ、やってみて」
「分かった」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、意を決してケムーシーに近づいていく。
「はっ!!」
――Critical Hit!!
見よう見まねでケムーシーを蹴り飛ばすと、モンスターの上に文字が現れた。これは、敵の急所を突いたと判断された時に表示されるものらしい。
亜理紗からたまに出ると聞いていたが、最初に出るとは幸先がいいな。
「ピギッ」
ケムーシーは亜理紗と同じように一発で消滅した。
「クリティカルヒットに、ドロップアイテムまで出るなんて、滅茶苦茶運が良いね」
「そうだな」
ケムーシーはアイテムを三つも落とす。ケムーシーがドロップするのは魔石、毛ばり、そして装備強化石の三種類という話だ。
「大丈夫みたいだし、私はちょっと配信してくるね」
「分かった」
亜理紗はForTubeという動画投稿サイトで、動画を配信する
沢山見られれば見られるほどお金が貰えて、見てる人の中には直接金銭を送ってくれる人もいると、目を輝かせながら教えてくれた。
ネットに疎いのでよく分からないが、亜理紗が危険じゃないなら構わない。
「皆さん、こんにちは!!」
亜理紗が宙に浮かぶドローンカメラを使って撮影を始めたのを見て、俺はケムーシーを求めて歩き出した。
「お、いたな。はっ!!」
――Critical Hit!!
「ピギーッ」
「おっ」
次に見つけたケムーシーに攻撃したら、またクリティカルヒットが出た。その上、ケムーシーの核と装備強化石もドロップした。
まさか二回も連続でアイテムが落ちるなんて思わなかったな。もっと続けよう。
「はっ」
――Critical Hit!!
次も。
「せいっ」
――Critical Hit!!
その次もクリティカルヒットで倒すことができた。
――Critical Hit!!
――Critical Hit!!
――Critical Hit!!
――Critical Hit!!
――Critical Hit!!
何度繰り返しても同じ結果、全てのケムーシーをクリティカルヒットで倒せてしまった。
今日はツイてるらしい。
「ふぅ……そろそろ終わりで良いか」
倒したケムーシー全てからアイテムを手に入れることができた。初めてでこれだけやれば十分だろうと、亜理紗の方を振り返る。
「……」
すると、彼女はなぜか唖然とした様子でこちらを見つめていた。
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