第7話 脅迫状

                                                                                   

────昨年、ロージーの兄のロビンから手紙を貰ったのが始まりだ。



ロビンとヴァルは孤児院で兄弟のように過ごしていた仲間だ。

互いに運よく貴族に引き取ってもらえた。


近年は疎遠になっていたが、困った時は助け合おうと約束していた。


ロージーは婚約者から逃げて、フレッドという男と駆け落ちしたのだが、これがクズの暴力夫だった。

それが理由で離婚を認められたがフレッドはいつまでもロージーに付き纏っていた。


ロビンは今は他国で仕事をしており、実家と婚約者を裏切ったロージーを表立って救えないから、手を貸して欲しいとヴァルは頼まれたのだ。


手紙を受け取ったヴァルを頼って、直ぐにロージーはやってきた。

追い出すことも出来ずヴァルはロージーを家に迎え入れたのだ。


フレッドは直ぐにロージーを取り戻しに来た。

そこでヴァルはフレッドを叩きのめし、ロージーの夫だと嘘をついて二度と近づくなと蹴り出したのだった。


そしていつからか夫婦になった。



通いで使用人の女性も雇っているが、ロージーはヴァルがいないと何をするか分からない。

妊娠が分かってからは特に癇癪を起こしてヴァルは扱いに困った。

シャリーが生まれてからは自傷行為もあってヴァルはロージーから目を離せなかった。


村に帰らなければと思いつつ、縋る妻子を置いてどうしても屋敷に戻れなかった。




     *****



王都に戻ったヴァルは直ぐにでも騎士団長に会いたかったが、ロージーとシャリーの無事を確かめてからにしようと思い家に寄ってみると、ロージーがベッドで眠っていた。


シャリーはどこだ?


そこにアン婦人がやって来て、自傷行為でロージーが倒れており、シャリーが居なくなったと聞かされた。



アン婦人はロージーの出産を手伝ってくれて、シャリーの秘密を知る人だ。


出産当日は近所の婦人達も手伝ってくれた。

その婦人達にも口止め料を渡してあり、幸い秘密は守ってくれている。



シャリーが生まれた日、ロージーは半狂乱になった。


シャリーは【魔女の瞳・妖精の瞳】と呼ばれる目を持って生まれた忌み子と呼ばれる子だ。


虹色に輝く、不思議な力を持つ瞳。


ただ生まれながらに視力は無い。盲目である。


この瞳を持つ子が生まれると教会に知らせなければいけない。

瞳に宿る強い力を奪わなければ災いが起こると言い伝えられる。


この世界では不思議な力を持つ子が稀に生まれる。

教会だって鬼じゃない。赤子の目をナイフでくり抜いたりはしないだろう。


だがしかし、ロージーは反対した。


『ダメよ教会はこの子の目をくり抜くわ。そんな残酷な事は嫌よ!』


『しかし、これはこの国の規定だ。気持ちは分かるが』


『なら、この子を連れて他国に行くわ。それまでは秘密にして!お願い!』


他国の兄であるロビンを頼るというので愚かにも俺は目を瞑った。

生れたばかりの弱弱しく泣く赤子の目を見て、それが最善だと信じて疑わなかった。


シャリーの敵は教会だけではない。

珍しい瞳のコレクターや異能者を操ろうとする者───そんな奴らに攫われたのだろうか。


ロージー、お前は母親としてシャリーを守ってやりたかったんじゃないのか。

俺たちは何をやってるんだ。



アン婦人にロージーを任せてシャリーを探しにヴァルは飛び出した。


怪しい人物の目撃者はいないか近隣を尋ね回って、貴族風の男を屋台の老婆が見かけたという情報だけだった。


もう警備隊に応援を要請するしかないと思い、ヴァルはロージーにその旨を伝えに戻った。




「ヴァル!ヴァル、これ見て!」


目が覚めたロージーはシャリーが消えたと知って興奮し、大暴れした。

更に知らない男の子が手紙を持って来て、その手紙を読むとロージーは髪を振り乱し、ヴァルの名を呼び続けた。


【赤子を返して欲しければ、エルシーと別れろ。別れたらエルシーを連れて村に帰れ。赤子とエルシーを交換だ。警備隊には知らせるな。知らせたら赤子は殺す。五日以内に村に来るんだ】


手紙からして、犯人はオリバーに間違いなかった。


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