第3話 クソ野郎に襲われた
ヴァルの住む家まで勢いでやって来たが、夫はまだいるのだろうか。
不安を煽るように今日も中から赤子の泣き声が聞こえる。
思い切ってドアをノックすると昨日見た茶髪の女性がひょこっと顔を出した。
「誰?」
「あの、私はエルシー・ケントと申します」
「はぁ? 何か用?」
女性はエルシーを中に入れる気は無さそうだ。ドアに手をかけて入り口に立っている。
まるで自分の家だと主張するように。
「あの、ヴァルはいますか?」
「ああ、朝から出勤しましたよ。今日から日勤なの」
ふっ、と不敵に笑う女性の顔が歪んで見える。
「赤子はヴァルの・・・私の夫の子どもですか?」
女性はヒュッと息を飲むと睨むようにエルシーを見つめていたが────
「ええ、そうです。娘の父親はヴァルです。どうか私達からヴァルを取り上げないで!あの人がいないと私達は生きていけません。お願いします!」
打って変わって態度が変わり、女性は地面に膝をついてエルシーに縋った。
その必死な形相にエルシーは恐れを抱き、逃げ出したくなった。
「おぎゃ─ うぎゃぁぁ────」と部屋から火が付いたように赤子が泣いている。
まるで母親を虐めないでと叫ぶように、激しく泣いている。
(怖い・・・・・いやだ)
「奥様に触れるな!離れろ!この嘘つき!」
レノが女性を引き剥がしエルシーの前に立った
「あなたレノ君ね。私はロージー。いつもヴァルから話は聞いていたわ」
「うるさい!話しかけるな。奥様、旦那様の所に行きましょう」
「彼は王宮よ。夜まで会えないわよ」
赤子が泣き出したので荒々しくドアを閉めて部屋にロージーが戻ると、エルシーはレノに引っ張られ、来た道を戻って行った。
「あんなの嘘だ。嘘に決まってる」
嘘だろうか。
必死で縋って、あれはヴァルを慕っている顔だった。
「レノ、このまま帰ろう」もう村に戻りたい、そう思った時─────
建物の影から男が3人現れた。
「ここに来ると思っていたよ、エルシー」
立ち塞がったのはオリバーだった。
なぜ彼がここに? エルシーは膝が震えて、思わずレノの腕に縋った。
彼の後ろには人相の悪い護衛の騎士が二人立っている。
オリバーは嬉しくてたまらない顔でエルシーに手を伸ばした。
「逃げて!早く!」
レノがオリバーに体当たりするとオリバーは尻餅をついて、後ろの護衛が慌ててレノを押さえつけている。
「逃げて!」
「くそっ! お前ら、ガキを遊んでやれ!」
震えながらエルシーは大通りに向かって走った。
警備隊か誰かに助けを求めないとレノが殺される。
「助けて!誰か!」
大通りに出た所でオリバーに腕を掴まれて、バーン!と頬を殴られた。
「黙れ!いう事を聞かないと小僧を殺すぞ!」
髪を掴まれて口を押さえつけられ、過去の忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
「ヴァルはここで愛人と暮らしてるじゃないか。お前捨てられたんだよ。俺が拾ってやるよ」
腰が抜けて地面に座り込むと「やめなさい!」と声がして、精悍な騎士二人が素早くオリバーを押さえつけた。
「こいつは俺の女だ。どうしようと勝手だ!放っておいてくれ!」
「た…助けて、あっちでレノ、弟が捕まってるんです、助けて!」
騎士の一人が住宅通りを駆けていく、エルシも立ち上がりフラフラしながら追いかけた。
「レノ、レノ、無事でいて、レノ」
騎士がレノを背負ってこっちに戻って来るのが見えた。
「レノ!」
「酷い怪我だ。早く医者に見せないと」
男達に殴られてレノはグッタリしている。
「レノごめん・・・ごめんなさい」
大通りに戻ると年配の婦人が大きな馬車の横で仁王立ちして、大勢のやじ馬に遠巻きにされていた。
「あのクソ野郎は警備隊に渡したわよ。弟さんは?」
「酷いけがで気を失っています」
婦人の護衛騎士がレノを背から降ろすと横抱きにした。
「まぁ酷い、急いで帰るわよ。貴方も来なさい!」
助けてくれた婦人の好意を受ける事にした。今は何よりもレノが大事だ。
エルシーとレノを乗せた立派な馬車が大通りを走り去ると、やじ馬達も散っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます