第10話 閑話休題 とある二人の昼休み
昼休み。いつもなら互いに付き合い始めたばかりの彼女と昼ごはんを食べている時間だ。でも今日の二人は
「なぁ、どうだった?」
先にパンを食べ終えた青年が平坦な声で隣に問いかけた。銀縁眼鏡が昼下がりの太陽を反射していて、その表情は読み取れない。
彼の名前は
「おかげさまで学園の氷姫とお付き合いできることになったよ」
メロンパンをかじりながら答えるのは、栗色の天然パーマの愛らしい少年。少年という表現がぴったりとくるが、年齢はジュンジと同じ。
そして、彼もまたつい最近、同じ理科部の後輩とお付き合いを始めたばかりだ。彼の名前は
「そうじゃなくて」
ヒサヨシの答えにジュンジが苛立ちの混じった声を上げる。こちらを向いたジュンジにヒサヨシが面倒くさそうに答える。
「アガサ先輩?」
「あぁ」
うなずくジュンジをヒサヨシがちらりと見る。でもすぐに目線を前に戻す。その先には屋上のフェンス越しに校庭が見える。夏休みを間近に控えた七月の日差しの中、昼練習に励む運動部員の姿が見える。
「少し小柄で、すこ〜し幼い顔立ちの可愛い先輩でしょ。思いっきり近藤の好みじゃん。どストライクってやつ」
「おい。ふざけるなよ」
ヒサヨシの軽口にジュンジの眉間の皺が深くなる。またちらりとジュンジを見て、ヒサヨシは肩をすくめながら答える。
「はいはい。全く、真面目かよ。緋色の表紙の本だっけ? あったよ。家庭科準備室のローテーブルの上に」
「それって」
「うん。ミステリの女王の本だった。タイトルは擦り切れててわからなかったけど、ジュンジが見た本と同じじゃないかな」
「俺が見たのもタイトルは擦り切れてた。そうか。同じ本があったか」
今度はジュンジがヒサヨシから目を逸らした。そのまま晴れとも曇りともつかない、眩しく淡い水色の空を見上げる。ヒサヨシも真似するように空を見上げた。
「ねぇ、いいじゃん。ミステリ研究会。楽しそうだったよ。ついでに近藤にもとうとう彼女ができそうだし」
「いいわけないだろ」
「なんでさ。誰に迷惑をかけているわけでもないじゃん」
「そういう問題じゃないだろ!」
空を見上げたままあっけらかんと話すヒサヨシに、ジュンジが苛立った声をあげた。
「じゃあ、どういう問題? 今の近藤も近藤だよ。笑ってるならいいじゃん」
ヒサヨシの栗色の目が真っ直ぐジュンジをとらえる。その顔にいつもの人をくったような笑顔はない。銀縁眼鏡の奥の目が一瞬怯む。
「俺は何か違う気がする」
絞り出すようにでたジュンジの言葉に、続きはない。
二人の間に沈黙が流れる。遠くに運動部員たちの掛け声が聞こえた。
「ねぇ、暑くない? 七月の昼休みに屋上ってないでしょ。俺の綺麗な白い肌が焼けちゃうじゃん。ってか、できたばっかの彼女ほったらかして、俺たちどんだけ近藤が好きなんだよ」
気まずい沈黙を破ったのはヒサヨシだった。その目にさっきまでの鋭さはない。
「今は見守るしかないんじゃないかな。わかんないけど」
ほれ、授業始まるよ。そう言って、立ち上がったヒサヨシにジュンジが無言で続いた。
*****
ほのぼの、ほの甘学園ミステリー……だけではない予定です。引き続き先輩と近藤を見守っていただけたら嬉しいです!
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