第44話 魔王さんの自白

 そして、翌朝。


「居るか?」

「まだです」

 モニターを眺める捜査員。


「一応、周辺も見ておけ」

「はっ」

 そして、八時四十分。いきなり反応が出る。

「マルタイ、出現。人数二名」

「二名?」

 山勢は腕時計を見る。


「八時四十分か。まあ九時という約束。そこまで待つか」

 そして八時五十五分。


「行くぞ」

 三人そろって、玄関へ向かう。


 二分ほど早いが、ドアをノックする。

 出てきたのは、改。


「おはようございます。時間通りですね。ところで、警官というか捜査員の方も一緒に行くのでしょうか?」

「いや先に、我々だけ、下見に行く。頼めるかね」

「分かりました。家に飛ぶので、靴は脱いで持って行ってください」

 そう言うと、報告で見た空間の揺らぎが現れる。


「どうぞ」

 改に続き、三人は中へ入る。


 抜けた先は、家。それも日本家屋の玄関。かなり広め。

「ここは?」

 山勢は問う。


「異世界側の俺の家です。玄関に靴は置いておいてください。みんなを紹介します」

 そう言って、リビング側へ移動する。


 そして、山勢達は驚く。色とりどりの女性。だがその顔は、万結や凪紗に似ている。


「彼女達は、全員エレメンタル。精霊です。髪色で判断がつきますが、土、火に光。闇。水。そして、昨日言った通りそらが、空間。つくし、出来たのか?」

「はい。これが建物用。四隅に設置します。そしてこれが捕縛用。体のどこでも良いですが、首なら、切って逃げることが出来ませんので首に。後ろから押し当てれば巻き付き一体化します」


 そう言って、招き猫が四体と、二センチメートル幅の平べったい物差しのような黒い棒が並べられる。


「それじゃあ、魔王城を見学に行きますか。一応居る危険性もあるので、静に」

「分かった」

 三人ともこっくりと、頷く。


 玄関から出て、魔王城へ繋ぐ。

 直接ではなく、少し離れた森の所。


「そら、誰か居るか?」

「いえ。今は誰も居ません」

「つくし、周りに魔道具は?」

「ありません」

 そこで、そらから、追加情報。


「建物全体に結界。魔物よけですね」

「分かったありがとう」

 

 山勢達三人は、写真を撮っている。

「別方向からも写真を撮りたい。良いかね」

「ええ。行きましょう」


 そうして、四方向。林の中に精霊石のマーカーを置き、その間に写真を撮る。


「よし良いよ」

「じゃあ、一度日本に戻って、部隊をこちらに連れてきますか?」

「そうだな」


 だが、予想に反して魔王が現れるのに、二週間の時間を要した。

 その間に宿舎を建て、隊員は異世界での生活を送ることになる。



 そして、魔王は。

「やっと、買うことが出来た。フレームは錬成して、何とかなるが。マットレスなどは買わないといけないからな。きっと改が持っているが、返せとも言えないし」

 文句を言いながら、城に到着。

 持っているマットレスを、床に下ろす。


 フレームを錬成しようと、魔力を練る。

「………… あれ?」

 魔力が練られない? 


「うん、どうしたんだ? 悠翔」

「ああ、改か。おまえが、ベッドを持って行くから。いま、ベッドのフレームを錬成しようとしてな」

 そう言いながら、じっとこっちを見る。


「悠翔。ちょっと見ない間に老けたな」

 今の見た目は、どう見ても五十過ぎ。


「小学校五年の時に、こっちへ召喚されて、千年位。こっちで、暮らしたからな。老けたんだよ。せっかく日本へ帰ったが、元の時間へ繋がった。訳が分からん」

 そう言って、近付いてくる。


 今は、魔道具ではなく。

 そら達が、悠翔の魔力をおさえている。


 ぐっと近付いてきて、人の首に腕を絡める。

 いつもやっている、おふざけ。


「備品を返せ。改」

 ちょっとためらったが、悠翔の首に魔道具を押しつける。

「なんだこれ?」

 パシッと言う感じで、首にはまる。


「魔力封じの首輪かな?」

「バカやろう。ふざけるな。外せよ」

 そう言いながらも、外そうとしているが、外れない。


「精霊の業物だからな。外れないよ」

「おまえなあ。俺は此処では、魔王みたいな者だが、おまえの友人だと思うんだが」

「俺にとっても友人だがな、国の方は許してくれないみたいだぞ」

 右手を挙げると、バラバラと隊員達が、周りを囲む。


「君が魔王かね」

 山勢さんが聞く。

「自称だがね。元はこの国に拉致された日本人さ。誰も救出に来なかった」

「そうか、それはすまない。だが、これとそれとは別だ。世界中でモンスターの出現。それに対する関与は君だね」

「そうだね」

 あっさりと、認める。


「その理由は?」

「彼女が欲しかった」

「「「はっ?」」」

 山勢を始め、みんなが間抜けな声を出す。


 悠翔は話を続ける。

「いや大学に入って、みんなが、かの女を連れ出し始めて、すでに枯れた感情だったが、俺も彼女が欲しくなってね。ただまあ、普通に声かけても、ジェネレーションギャップというのか、千歳以上の年の差のせいか振られてね。モンスターに攫われた後に助ければ、多少のことには、目をつむってくれるかと考えて」

 山勢さんは、がっくりと肩を落とす。


「そんなことで。君は世界中で、無実の人たちの拉致、並びに不同意性交その他の罪を」

 そこまで言ったところで、悠翔が口を挟む。


「俺は、時空を繋ぎ、道を開いただけ。その後は、モンスターの勝手。まさか向こうに行くなんて。ましてや、人を攫うなんて考えもしませんでした」

 しらっと、ほざく。

 さっきナンパ目的で、攫われてた女の子を助けてと、言ったばかりじゃ無いか。

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