第41話 尻尾を掴む

 さて、みんなで渡された資料を見る。

「この、メインでやり取りを行っている、四十代の古参お姉さんが一人。管代 薄女(かんよ うすめ)さんだけど、指示通りに作業して、確認を怠ったと言うだけだよね」

 万結が普段かけていない。めがねの蔓を、くいっと押し上げながら発言する。


「万結おまえ、小鼻が低いから、めがねがずり落ちるんだよ」

「今は、めがねのことは良いのよ」

「じゃなんで、かけた」

「推理なら、めがねでしょう。こういう物は、雰囲気が大事なの」

 万結がそう言っているが、みんなの興味はすでに次へ。


「話を振っといて、無視とか。信じられない」

 万結が愚痴る。


 普段あまり発言しない薬研が、何か張り切り、必死でフローチャートを書いている。

 満足したのか、発言を開始する。

「みんな聞いて。問題は、会社に不利益を与えて、誰が得をするかという事なの。常とうとして、何かあったときに一番利益を得るものが犯人」

 薬研が紙を、差し出してくる。


「じゃあ、得られる利益を考えれば良いのか?」

「そうね。それと今からは、ディテクティブ理花と呼んで」

「探偵か?」

「そうよ」

「ディテクティブ理花?」

 俺がそう言うと、理花が胸と股間を押さえて、奇妙な声を出す。

「はうんっ」

 その奇妙な行動に、みんなが注目する。安田はあわてて、何かのスイッチを確認しOFFにする。


「どうしたんだ?」

「いえ何でもないわ。新世君。いえ改君。これからは名前で呼んでくれる」

「ああまあ。問題ないけど」

 万結が脇腹を突っついてくる。


 小声で、こそこそと。

「いつの間に、理花までたらし込んだの?」

「失礼な。何もしてないぞ」

「じゃあ、もう少し低い声で。そうね。エッチの時に、私の名前を耳元で言うときみたいな感じで、理花に言ってみて」

「まあ良いけど、おい。理花」


 それが、聞こえた瞬間。理花は、股間と胸を押さえて、椅子からズリ転け、顔は上気し、うるうるした瞳でこっちを見る。

「なあに。あらたぁ」

 ゾクゾクするのか、ぷるぷるしながら、こちらを見上げる。


「この条件で、喜ぶのは。どう考えても、仕事を奪った相手の会社だろ」

「あっ。うん」

 期待した答えと違ったのか、多少顔が曇る。

 椅子に這い上がりながら、答え始める。


「リストだと、この四十代のおっさんと書かれている人は、銀行がらみの出向組で、前に経営が良くなかったときに、銀行から来ているの。銀行からの指示で、回収に入ったのかもしれない。それと、三十代のお姉さん。独善 好美(どくぜん このみ)さんは、自身のプライドが高く。他者に対し、口やかましい割に、仕事が出来ず。口ばかり。ミスを注意されれば、逆に攻撃してくるか、反射的にパワハラ、セクハラのワードが出てくる厄介者となっている。これが基本情報。幾度も首にしようとしたけれど、出来なかった経歴がある。この人なんかは、ライバル社からポジションアップをネタに、諭されればやりそうだと思わない」

 ペンをクルクル回しながら、赤丸? を付けていく。いや、書いちゃいけないマークだよな。


「どいつもこいつも、怪しいな。でも、その独善さん。どうして首に出来ないんだ?」

「労働基準監督署に診断書を持って、駆け込むみたいよ。不当な扱いとストレスで私は壊れた、最近のミスはこのせい。とか言って」

「するとね、会社の方に改善命令がやってくるのよ」

「改善命令って、違法行為があった場合だろ」

「タイムカードの方が本当だったけど、自身の告発でサビ残のリストを出したんだって。パソコンの、動作ログまで付けて。きっとノートパソコンだから、持って帰って、私用で使った時間だろうと言うことだけど。それで困って、改善するため会社も社内に監視カメラを設置するって言ったら、そんなのセクハラよ。設置反対って言い出したみたいね」

「そりゃ、嘘がばれるからな」

「それで困って、会社の出入り口に設置したの。それでも出入りは分かるから。理由も防犯で行けるしね」

 それを聞くだけで、みんなが疲れる。


「大きな会社じゃないのに、大変だなあ。いっそ、これを機に一度潰して、全員解雇でやり直した方が良いような気もするぞ」

「だけどそれをすると、信用がね」


 まあそんな話を聞き、また同じようなことをするだろうと、つくしに、映像を撮影し魔石に記録する招き猫をいくつか作って貰う。


 妖芽に言って、くまなく撮影できるように置いてきて貰う。

 また似たようなことがあれば、連絡して貰うことにして放置しておく。



「ふふっ。改君の声」

 理花は改の声それも、『理花』と呼んだところをループ再生しながら、一人で楽しむ。

 無論横には、疲れ果てた安田が眠っている。



 そして、妖芽の会社に誰かが忍び込む。

 出入り口に仕掛けられた、カメラのデータを一生懸命削除し、リモートサーバを仕込む誰かがいた。こそっと、ルーター側のDMZの設定を行い。フリーDNSに登録し、家からアクセス出来るようにセットアップする。アクセスログは、記録しない。

 基本OSが、よく分かっている物だったので、タスクを作成。

 一時間事に、映像記録を削除する様に、繰り返しで作成。

 登録する。

 念には念を入れて、シャットダウン時と、起動時にもトリガーを設定。


 その姿を、つくし作製の招き猫が、やれやれという感じで撮影する。

 その異常は、俺の持っている。お知らせにゃんこに通知が来る。

 まあ、異世界側にいたから、朝、日本側に来たときに、ぷるぷるし始める。

「何かあった、みたいだぞ」

 俺は手の平の上で、うにゃうにゃゴロゴロする、妙にリアルな魔道具をのぞき込む。

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