世界は危険に満ちている。気を抜いてはいけない。

久遠 れんり

第一章 異変の始まり

第1話 はじまり

 その時、俺は逃げていた。

 必死で。

 普段運動をしていない。自堕落な自分が悔やまれる。


 数ヶ月前、全世界的にモンスターが現れ始めた。

 幸いにも? 現れたのはゴブリン。一種類のみ。


 世界中が、大騒ぎをする中で唯一。

 ラノベとアニメ。それにWEB小説が、国民的教科書として必須である。日本だけは、あわてる事はなかった。


 だが考えていたより、ゴブリン達はしたたかで、なおかつずる賢い。

 まず最初。

 山にいる、さるや鹿。猪が。そして家畜が被害に遭う。


 そして彼らは、大量にいる。人間に目をつける。


『おう。あいつら大量にいるが、やっちゃう?』

『でも変な箱に入っていて、あれにぶつかると死んじまうぜ。先日もグシャの野郎が、いきって突っ込み。死んじまった』

『なあに、歩いている奴を、囲んじまえば良いのさ。騒がれたら、隠れ家に連れ込めばやり放題だ』

『奴らも変なもので体を守っているが、大したことはない。ちょっと引張れば、ひんむける。雄雌関係ない。ふっ。俺らは所詮。やる(強姦)か、や(殺)られるだけさ』


 多分ゴブリン達は、そんな事を話し合い。対策をしたのだろう。

 2~3匹が、ちょろちょろと、目立つように移動し、隠れてスリーマンセル程度で、尾行をする。


 それに釣られて。

「ゴブリンはっけーん」

 などと言って、バットを持った、高校生くらいの、お兄ちゃん達が釣れる。

 攻撃を仕掛ければ、彼らは、ゴブリン団子に包まれ、気がつけば巣に連れて行かれ、新しい世界を開く事になる。


 やがて、時間を経てゴブリンの中に、進化型まで出始める。

 ソルジャーや、メイジ。

 どんどん強くなり、人間側の被害も拡大をしていく。


 そして今現在、必死に逃げている俺。

 大学、2回生。

 まだ、気楽な学年。

 新世 改(しんぜ あらた)20歳。


 そして、今は秋。

 道路脇の街路樹が色づいてきている。

「ああ綺麗だな。落ち葉の掃除は大変そうだが」

 そういえば、今朝からついていなかった。

 マヨネーズが切れ、同じように歯磨きペーストも、プチュンと音を立て、今朝その役目を終えた。靴下はなぜかセットが違い、ペアを探すために時間を要し、電車が一本遅れた。


「いい加減止まりやがれ。この痴漢」

 俺の足は、限界だった。


「ちょっと待て。さっきから言っているが。俺は何もしていない」

「じゃあ何で逃げた」

「追いかけるから」

「ふざけんな。人が文句を言わなけりゃ。ずっと尻を触りやがって」

「だから触っていない」


 わらわらと、人が集まってくる。

 街路樹を見て現実逃避したが、ここはまだ駅構内。

 来たのは、駅員さん。


「往生際の悪い。ちょっと来い」

「えー。遅刻なんだけど」

「やかましい。それなら。痴漢なんぞしなけりゃ良いんだ」


 俺を捕まえたお姉さんは、165cm位あり、ぴっちりパンツを穿いて、スニーカー履き。上にはジャケットを着ているが。以外と若い?


 衆人環視の中。連れて行かれる。


 ちなみに、現場は電車内ではなく。ホーム。

 向こうとこっちで、離され事情聴取中。

「並んでいたら、ずっと触ってきた。それも嫌らしく指数本だけで、割れ目に沿って手を動かした」

 そう言って、怒鳴っている。


 離されていても関係ないな。

 まあホーム内なので、監視カメラも確認してきます。そう言って一人出て行った。その駅員さんが戻ってくる。タブレット持参。


 ちなみに俺は、ボディバッグに手を掛けていた。ずっとだ。


 すると、ガタッと音がする。お姉さんが驚いている。

 なれなれしく、駅員さんが彼女の肩へ手を置く。

 良いのかあれ?


 駅員さんAが、こっちへやってくる。

「ちょっと、良いかね」

「はい。まあ」


「どうして、逃げたんだ?」

「そりゃ。あんだけでかい声で叫ばれて、鬼の形相で来られたら。普通逃げますよ。身の危険を感じましたから」


 そう言うと、駅員さんはため息を付く。

「逃げずに確認をすれば、ここまで大事にはならなかったのに」

「確認は、できたのでしょ?」


「ああ比較的近くに、カメラがあってね。君の脇にいた人が、鞄に傘を刺し込んでいて。その柄が丁度。彼女の臀部に当たったようだ。君の手は。ずっと自身の鞄を持っているのも確認された。無論。君がいきなり絡まれて、叩かれるところも写っている」

「ですよね。痛かったもの」


「ただなあ。逃げるから。警察を呼んじゃったんだよね」

 そう言って、嫌そうな顔をする駅員A。名前はまだ知らない。


「じゃあ。あの娘を傷害罪で。いい加減。同級生にも見られて、きっと今頃。僕は有名人だし。えん罪と暴行くらいで、大々的に新聞の一面で出して貰えば、えん罪晴れますよね」

「そんなもの。きっと、新聞に載らないよ。なるべく。示談で何とかしないかね」


「大学の前と、この駅構内で、えん罪でしたと公言してくれれば」

「うーん。それはどうかな。きみ大人げないね」

「知ってます? 平手でも結構痛いんですよ。それにもしかすると、退学ですよ」

「まあ。その辺りは、向こうも悪いとは思っているようだし、反省しているし。不幸な巡り合わせで、たまたま犬に噛まれたとか」


「じゃあ。警察が来たら、あなたに痴漢されたと言います。状況一緒ですよね」

「あっ。いや。それは違うだろ。責任の問題があるし。そんな事をされたら生活が」

「示談で勘弁しましょうか? 無論。警察に言った後ですが」


「あー。怒っているのは分かるが、ちょっと落ち着いて。私は関係ないだろう」

「彼女も僕もあなたも駅にいる。いきなりえん罪が降ってきた。すべては、多少の誤差はあっても、同じでしょう。近似値です」


「うーん。虚偽告訴罪は罪になるよ」

「ええ。でも。されたかもしれないと、言うだけで。マージンを取って、告訴まで行かず。示談すれば良い。欺罔行為(ぎもうこうい)だから、多分大丈夫です」


「君。法学部?」

「いえ。工学部です。頭の中が、システマチックなので。条件分岐を組むのは得意なんです」


 鬼の形相が、普通になってやって来た。女の子って怖い。

「あのー。すいませんでした。私。勘違いしちゃって。頬のところ。大丈夫ですか?」

 さっきの般若のような形相が、似ても似つかない、お嬢さん的な雰囲気。誰だこいつ?


「ああ。大丈夫です。それじゃあ。今度は、追いかけてこないで」

 そう言って、俺はスタスタと、事務所から出て行く。

 呆然とする、駅員達。


「さてと。暇つぶしにはなったが、マジで有名になっているといやだな。世の中、何処に危険があるのか分からんな」

 そうぼやきながら、大学へと向かう。

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