ゆるふわのんびり天然彼女を溺愛するサバサバ系なわたし
夕日ゆうや
前編
わたし、
それは同性で気になる子がいる。
気になる――というのは恋人、としてである。
ちょっと男勝りで、気の強いわたしには純粋無垢な彼女がなんとなく合う。
「ほら、今日のお昼ご飯だよ」
わたしは弁当箱を渡すと嬉しそうに目を細める
「ありがと!」
受け取った陽葵はワクワクしながら開封する。
そこには陽葵の好きな筑前煮やハンバーグがある。
「栄養もちゃんと考えてあるんだ」
「ほへ~。さすが愛紀ちゃん」
「ほら、米粒つけない」
わたしは陽葵の頬に手を伸ばす。
そして米粒をとる。
「もう。子どもっぽいんだから」
「む。それはなしだよ、愛紀ちゃん」
「ごめんごめん。でも可愛らしいから」
「それなのに恋人はできないものだね~」
ずきっと胸が痛む。
恋人に立候補したいけど、この気持ちは隠すべきなのかも。
同性の子を好きになる、ってやっぱりおかしいのかな。
「どうしたの? 湿っぽい顔して」
「ううん。なんでもない」
わたしはすぐに貼り付けたよな笑みを浮かべる。
「そっか」
「そうだよ」
わたしも自分の弁当に箸をのばす。
うん。おいしくできている。
「そう言えば、陽葵は料理しないね」
「うん。お米を洗剤で洗ってから家族に止められているの~」
のんびりとした口調で、天然なことを言う陽葵。
わたしよりもずっと子どもっぽく見える。
「本当に洗剤で洗う人、いるんだな」
「だって、洗うなら洗剤必要じゃない。洗濯機とか、お皿洗いとか」
「なにそれ、おっかしい」
わたしはゲラゲラ笑うと、陽葵がぷくっと頬を膨らませる。
「もう、愛紀ちゃんの意地悪!」
「ごめん。ごめんって」
「なら卵焼きちょうだい」
「う、うん。いいよ」
わたしは箸で卵焼きをつまむと、そのまま陽葵の口元に持っていく。
「あーん」
陽葵は当たり前のようにあーんをして口に頬張る。
……このあとの箸はどうしたらいいのか。
やっぱり替えの箸を持ってきて、永久保存するべきなのか。
悩ましい。
「どうしたの? マジマジとみつめて」
「別に……」
「愛紀ちゃんってそういうところあるよね」
「ん?」
「隠しているような、ちょっと寂しいかな……」
「ご、ごめん!」
「いいよ、誰だって隠し事の一つや二つあるもの」
「陽葵も?」
「うん。あるの~。でも ひ み つ」
「何それ。おっかしい」
そう言ってわたしは箸を割り箸に入れ替える。
これは家宝にしよう。
「秘密を着飾った方が女は美しく見えるの~」
陽葵はどちらかと言えば可愛い系だけどね。
本人は前にぼっきゅぼんのスタイルのいいモデルみたいな大人のレディーを目指している、と言ったけど。
まあ、無理そうだ。
「美しく、見えるの……」
「わー。ごめん! すぐになれるよ!」
「うん……。ありがと」
「そう言えば、12月の期末試験、大丈夫?」
「う……」
「いいよ。わたしと一緒に勉強しよう?」
「愛紀ちゃん、頭いいから……」
ばつの悪そうな笑みを浮かべる陽葵。
その日の放課後、陽葵と一緒にわたしの家にあげる。
部屋にある丸いクッションに座る陽葵。
「飲み物持ってくるね!」
「ん。ありがと」
わたしは陽葵が好きなアールグレイとステックシュガーを三本持っていく。
次いでに朝作っておいた手製のクッキーを添える。
うん。我ながら上出来。
はやる気持ちを抑えつつ、わたしは部屋に入る。
「あー。少し寒いね」
そう言ってエアコンの温度を上げる。
「大丈夫なの。コタツあるの~」
そう言ってぬいぐるみで遊んでいる陽葵。
本当に純粋な子。
ぬいぐるみなんてすぐに飽きてしまうのに。
「あ。クッキーだ。手作り?」
「うん。そうだよ。お口に合うかな?」
パクッと齧り付く陽葵。
「愛紀ちゃん、好きっ!」
「え!?」
「こんなにおいしいお菓子が毎日食べられるなら、本望なの~」
「分かった! 毎日作るね!」
テンション上がってきたぁぁぁぁぁっぁぁぁぁあ!
まさかクリティカルヒットをだしてしまうなんて。
「まあ、今は勉強会だけどね!」
わたしは自分で言っていて悲しくなってきた。
でも陽葵が落第して、一緒に卒業できなくなるのはもっと嫌!
そしてこの胸の高鳴りを伝えるのも嫌。
まだこの関係を続けていきたい。
それに同性婚って可笑しいらしいから。
わたし、間違っているから。
だからこの気持ちは墓場までもっていかなくちゃいけない。
秘密にしなくちゃいけない。
誰にも知られるわけにはいかない。
インモラルなこの感情を何故持ってしまったのだろう。
普通に生きたかった。
でもわたしの気持ちはいつも女の子に奪われていった。
乙女ゲームをしていても頑張る主人公を好きになり、少女マンガでは主人公の健気さを好きになった。
いつの間にかクラスの同級生たちの中でも女子を目で追っていた。
そんなとき、目の前に現れたのが陽葵だった。
まるでおっとりとしたカピバラのような性格の子だな、と思った。
可愛くて、人なつこくって、そしてのんびりしている。
こんな癒やし系な子が世の中にいるのに、びっくりした。
友達に騙されていることも分からずにいつまでも待ち続けていたり、人を疑うことをしない純粋な子だと知った。
わたしが守らなくちゃ――
そう思えた瞬間でもあった。
わたしは陽葵を愛している。
しばらく勉強をして、暖かくしたエアコンのお陰で陽葵はコクコクと船をこいでいた。
「もう。しょうがないなー」
わたしは毛布を持ってきて、そっとかぶせてあげる。
「んん。すき……」
ドキッとした。
なんだ、寝言か……。
心臓に悪い。
「そんなの食べきれないよぉ」
どんな夢を見ているのか気になる。
でもわたしは起こすことなく勉強を進める。
勉強を教える、ということは勉強を理解できている、という証拠になる。
逆算で言うと、わたしが勉強できなければしっかりと教えることなどできない。
そう言えばプロの将棋の
やっぱり本当の天才は凡人とは違うらしい。
少し劣等感を覚えつつ、それでも勉強を頑張る。
それくらいしかできないから。
せめてそれだけでも。
「うぅん……。あ、愛紀ちゃん、おはよ」
「うん。おはよう」
顔についた顔を払いのけて上げると子猫のように目を細める陽葵。
わたしは頭をなで始めると、嬉しそうに左右に揺れる彼女。
本当に可愛いなぁ~。
やっぱり嫁に欲しいっ!
「そうだ。アイスでも食べる?」
エアコンとコタツという最強暖房があるから、少し熱いくらいだ。
そこでアイス。
最高の贅沢で、最高の罪悪感の完成だ。
「ん。食べるの~」
やっぱり。
食い意地の張った陽葵だ。
否定する訳がない。
「アイスも手作りだよ~」
「すこ~」
「ふふ。ありがとう」
ガラスの食器にアイスを飾ると、スプーンと一緒に差し出す。
「ん。ありがと」
陽葵は嬉しそうに目を細める。
「どうぞどうぞ」
わたしは食べるように促す。
自分もアイスにスプーンをつける。
仕込みにけっこう時間をかけたが、うまくできている。
最近の中では二番目の出来具合だ。
「ん。おいしい。やっぱり、私のうちでシェフをやるべきなの~」
「あれ。ランク下がった?」
「?」
疑問符を浮かべて小首を傾げる陽葵。
「まあ、おいしいからいっか」
「うん。おいしいの」
感慨深そうに呟く陽葵。深呼吸をして再び食べ始める。
「あ。そんなに急いで食べると……」
「いたい……」
アイスクリーム頭痛になったらしく頭を抑える陽葵。
「ゆっくり食べようねー。おかわりもあるし!」
「おかわり!!」
嬉しそうに顔を近づけてくる陽葵。
「友達にお菓子作りが得意なの、いるの。嬉しいの~」
あ。やっぱり友達だったんだ。
わたしは恋人になりたいのに……。
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