鷹の謀り
卯月
プロローグ─①
【拡散希望】去年緑山中学を卒業した人、夜道歩く時気を付けて! アザミに襲われる!
そんな投稿が一部の地域でひっそりとSNS上を駆け巡ったのは、纏わりつくような暑さがそろそろ鬱陶しくなってきた八月下旬だった。
夏休みも終わりに近づき、思い残すことの無いようそれぞれがそれぞれの夏を楽しんでいた頃、その事件は起きた。
高校生たちは
被害者は四人。
はじめは小遣いを持って遊びに行った子どもたちを狙うカツアゲのようなものの一種かと思われたのだが、襲われた高校生のうち金銭を奪われた者は一人もいない。
最初の被害者は開成高校一年の
彼が襲われたのは夏祭りが開催された八月の一週目。
一緒にお祭りに行っていた彼女を自宅まで送り届け、一人になったところで犯人に声を掛けられたらしい。
なぜ推量なのかというと、桐坂は彼女と別れたあとイヤホンで音楽を聴いていたため犯人に声を掛けられたことに気付かなかったのだ。
犯人から肩を叩かれてはじめて、自分の背後に人がいることに気付いた。
──トントン
「っ! ……え、なんですか?」
「君、桐坂健吾くん?」
「そうですけど……俺に何か用っすか? てか誰?」
「俺、アザミ」
「ん? アザミ? ……えぇーっと、どっかで会ったことある? ……あ、もしかして同じ高校? なら顔見たら分かるかも! ここじゃ暗くて顔がよく見えないから向こうの明るい方行きません?」
「いやいい。俺は君と仲良く話す気ないから。悪く思わないでね」
「は?」
アザミと名乗る男はそれだけ言うと、一方的に桐坂の腹部を二発殴った。
武器や凶器は持っておらず、素手で腹部を数発殴り相手が倒れ込んだら去っていく。
決して致命傷になるような傷は与えない。
これがアザミのルールらしい。
無防備な状態で突然の衝撃を受けた被害者たちはしばらくその場に蹲ることになるが、病院に救急搬送されたり、意識を失ったりするものはいなかった。
犯行の手口は一貫していた。
不気味なのは、必ず名前を確認してくること。
つまり犯人は無差別に襲撃しているわけではなく、個人を特定したうえで声を掛けているのだ。
そしてこれまでに襲われた四人全員が高校一年生だった。
八月四日 被害者:開成高校一年桐坂健吾
八月十一日 被害者:柏工業高校一年
八月十五日 被害者:東栄高校一年
八月二十二日 被害者:南商業高校一年
高校は違うものの高校一年の生徒だけが襲撃されるのはやや違和感がある。
当然警察もこの違和感にはすぐに気付く。
そして調べると新たな共通点がすぐにみつかった。
それが去年緑山中学を卒業していることだ。
何故か犯人は緑山中学の卒業生のみを襲撃している。
怨恨の線で捜査が進むが、被害者たちはみな「心当たりはない」と口を揃えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。