composer

赤白夜

第1話 あの曲

走って、走って、走った。

息なんてとっくに上がってた。でも、止まる気は更々なかった。

景色が俺の周りを駆け抜けた。

途中、怒鳴り声や悲鳴が聞こえたが、風の音とともに過ぎていった。

もっと、はやく。もっともっと。

あと5分、3分…!!!

夕焼けがさっきからずっと俺の肌を照らしていた。そのせいで、少しヒリヒリする。

でも、そんなこともどうでも良かった。

ただ、あの場所へ。今すぐに。

そこからの意識は、ほぼなかった。

あの場所につく。

いつもの曲が始まる。

誰もその曲に耳を傾けることなく、その道路を歩いていた。耳を傾けるどころか、馬車やら貴婦人の笑い声やらでむしろかき消されるほど。

あたりを見渡す。

どれほど見渡しても、彼らはいなかった。


でも、まだこの曲はなっている。

まだ、希望はある。


彼らはいつ来るのだろう。

まだかな、まだかな。


夕焼けの空の下、暑苦しい香水の匂いと、裏路地にはびこる人間の異臭が混じった道路で、膝を抱えてうずくまっていた。

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